クリスマス配達人の謎
この作品は一つの話として独立していますが
エラリーのこれまでの活動を知りたい方は前二作も合わせてお読みください。
①『エラリー・クイーンの事恋簿』
https://ncode.syosetu.com/n3877fk/14/
②『アゼルバイジャン乙姫の謎』
https://ncode.syosetu.com/n4676fn/9/
また今回の『クリスマス別伝』の設定も使わせていただいてます。
https://ncode.syosetu.com/n9084fv/9/
エラリーシリーズの著者J氏、『クリスマス別伝』の著者の方、勝手に続編を書いたり設定を使わせていただきましたが何卒ご容赦ください。
――天上天下唯我独尊・憑依モード発動
――世阿弥降臨
能を大成させた世阿弥を降臨させ、能役者のように舞うことができるようになる。
――天上天下唯我独尊・宇宙モード発動
――暗黒物質集中
ダークマターを手のひらに集中させ、その重力によってあらゆるものを引きつける。
周りの木々から木の葉が吸い寄せられてくる。
序之舞でゆったりと動き、木の葉を自身の周囲にまとわせる。
――暗黒エネルギー解放
ダークエネルギーを手のひらから解放させ、その斥力によってあらゆるものを吹き飛ばす。
男舞で素早く動き、天に向かって木の葉を一気に放つ。もし何かに衝突したらひとたまりもないエネルギーがあっただろう。
(昨夜から今朝までの疲れがあったと思ったけど、まだまだいけるわね)
紹介が遅れた。今、山の中で武術訓練をしているのは九院偉理衣という女子大生だ。皆からはエラリーと呼ばれている。
“天上天下唯我独尊”とはエラリーが大好きな探偵小説『そして伝説へ』に出てくる探偵が言う名台詞。この台詞を気に入り、エラリーは独自で作り上げている武術の名前としたのである。
天上天下唯我独尊の構想は次の5モードである。
1, 天上天下唯我独尊・鳥獣モード
2, 天上天下唯我独尊・憑依モード
3, 天上天下唯我独尊・宇宙モード
4, 天上天下唯我独尊・地獄モード
5, 天上天下唯我独尊・愛死モード
鳥獣モード、憑依モード、宇宙モードはもうある程度使いこなせている。地獄モード、愛死モードは修練中である。
鳥獣モードは体内のアデノシン三リン酸(ATP)を消費し、憑依モードは霊体を憑依させ、宇宙モードはこの宇宙に満ちているダークマターとダークエネルギーを利用する。そして天上天下唯我独尊を使うとものすごく……お腹が減る。
ATPは体内でエネルギー通貨として使われている。体のどこかの部位にATPを集中させものすごいエネルギーを放つことができるようになる。
霊体の存在を皆さんは信じるだろうか? しかしこの世界にはどうやら実在するようである。なぜなら憑依モードによって降臨させるとその霊体が持っている知識や技術などをエラリーが得られることは確かだからだ。
この宇宙の物質・エネルギーの割合は通常我々が認知している、水素、酸素、炭素、鉄、金などの物質はわずか5%にすぎない。残りの95%はダークマターとダークエネルギーで構成されている。ダークマターとダークエネルギーの正体は未だに不明だが、通常の物質より満ちていることは確かなのでエラリーはこれらを使って能力を発揮させている。
(今日の訓練はこれくらい。あーお腹へった)
エラリーがなぜ超人的な能力が使えるかはわからない。ただ九院家は代々、特殊な能力が使える者が出ているという。特に明治時代に華族であった“九院家の三姉妹”と呼ばれた祖先はとてつもない活躍をしたそうだ。まぁこれは別の話だが。
○
エラリーは下山し、熊猫飯店へと向かった。
エラリー行きつけの中華料理店だ。
「いらっしゃいませ~! あ、エラリー」
店員が元気な声で挨拶をする。
「凛華、とにかくお腹が減ってるから、なんでも良いから出してちょうだい」
「また訓練の帰りね? はいはい~」
エラリーと店員――愛新覚羅凛華――は高校のときの同級生である。凜華は中国最後の王朝、清朝の四代皇帝“康煕帝・愛新覚羅玄燁”の末裔であるという。もっとも三国志で有名な劉備が「前漢・景帝の子、中山靖王劉勝の末裔」と名乗っているくらい信憑性は薄いのだが、本人がそう言っているのならそうなのだろう。
高校卒業後、エラリーは大学へ進学し、凜華は実家の中華料理店で修行することになった。今ではエラリーが訓練の帰りに熊猫飯店に寄るのが定番となっている。
エラリーは店内のテレビをぼーっと見ながら、料理が運ばれてくるのを待っている。
「おまたせ~。とりあえず、刀削麺、麻婆豆腐、酢豚、饅頭ね」
「美味しそう! さすが凜華。また腕を上げたんじゃない? 匂いだけでもうわかるわ」
「まだとっておきを作るから、待っててね~」
凜華は陽気に厨房へと戻っていった。
辛味のある刀削麺と麻婆豆腐。甘酸っぱい酢豚。それらを中和する饅頭。完璧な組み合わせだ。それではいただきます!
筆者として食事の描写も書きたいのだが、可憐な女子大生が中華料理をかっこむ姿を描くのは野暮というものだろう。
「そして最後にエラリーの大好物、青椒肉絲!」
「さすが、わたしのことはなんでもわかってるわね!」
エラリーが中華料理の中で一番大好きなのは青椒肉絲である。牛肉、ピーマン、タケノコをオイスターソースで炒めただけのシンプルな料理だがこの世にこれほど美味しいものは他にあるだろうか?
エラリーが青椒肉絲をかっこm(ry……食べ終え、ごちそうさまでした!
ところで読者諸君は一つ疑問があるのではないか?
「エラリー、こんなに食べるのかよ」と。そう食べるのである。彼女は大食いなのだ。しかし日頃の訓練のおかげでスリムな体型を維持している。女性が最も魅力的に見えるというスリーサイズ比率1:0.7:1(某メンタリストによる)を満たしている。
心地の良い満腹感を得て、ジャスミン茶を飲んでゆっくりとしている。
忙しい昼時も過ぎて、店内はエラリーと凜華だけとなった。凜華はエラリーの料理を作りつつ、他のお客のも作っていたのだ。料理の腕も確かだが、その手さばきも上等なものである。
「エラリー、さっきからテレビばっかり見てるね~。“サンタ事件“気になる?」
本日12月25日の朝、子どもたちが目を覚ますとプレゼントが置いてあるという出来事が起こった。親が普通にプレゼントとして置いたという訳ではない。全国の親たちが「用意してなかったのになぜか子どもがプレゼントを持って起きてきた!」とSNSでつぶやく人が続出。そしてそれらの包装が全て同じなのだ。メディアがこれに食いつき、今朝からサンタ事件としてSNSやテレビで賑わっている。
「謎があったらなんだってわたしは気になってしまうわ」
「エラリーはこの事件どうみるね? 本物のサンタが出現したんだと思う?」
「わたしはサンタというものが実在するのなら、それは組織だったものだと思っているわ。そういった文献も読んだことがある。かつてとある王国でニコラウス、オルコット、マガリャネス、ラッセルという四人が“聖ニコラウス”という会社を作ったと書いてあったわ。御伽話のたぐいかと思っていたけど、もしかすると今回のサンタ事件は“サンタクロース”がやったことかもしれない」
「さすがエラリー知識が豊富ね。そういえばあのときも……」
エラリーと凜華は高校時代の懐かしい話に花を咲かせはじめた。
「それじゃあそろそろ帰るわ。凜華も夜の営業の支度もあるでしょ」
「そうね~。エラリーは今日はリリーと過ごすの? クリスマスだし」
「このあと文学サロンでクリスマスパーティをするわ。リリーも一緒」
「あ、お代は文学サロンのJ会長にまたツケておくね~」
「よろしく~」
エラリーは熊猫飯店を出た。
リリーとはエラリーと凜華の後輩である女子高生である。エラリーとリリーの関係はとても仲の良いものである。どういった仲かは読者の想像に任せたい。
J会長とはエラリーが子どもの頃から通っている文学サロンの主宰者である。エラリーは毎回、熊猫飯店の代金をJ会長宛てにツケているのでJ会長はたまったものではない。
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読者への挑戦
・サンタクロースの正体は誰か?
これを当ててもらいたい。ヒントは前作や今作中に出ている。
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サンタクロースの正体を知りたいって?
作中に出てきている人物を整理しよう。
世阿弥、九院家の三姉妹、愛新覚羅凜華、康煕帝、劉備、景帝、劉勝、某メンタリスト、ニコラウス、オルコット、マガリャネス、ラッセル、リリー、J会長。
まさか康煕帝がサンタクロースだって? そんな訳なかろう。
ではJ会長? 一見ありそうが彼はただの青年だ。
もうひとりまだ紹介していない人物がいる……ここまでいえばもうわかるだろう、サンタクロースの正体はエラリーだ。
理屈は簡単だ。
天上天下唯我独尊・憑依モードで“聖ニコラウス”を降臨させサンタクロースそのものに成りきる。そして鳥獣モードの技「飛燕」(前作参照)を使い、街中を高速で駆け巡る。プレゼントはどうやって運んだかって? 宇宙モードの技「暗黒物質集中」を使い自身の周囲にまとわせておく。そして「暗黒エネルギー解放」でプレゼントを放ち家々に届ける。家の壁のどうやって貫通させたかって? 宇宙モードの技「なんでも通過:あらゆるものをすり抜けることができる」を使い壁なんて簡単に通過させることができる。おっと“なんでも通過”はまだ紹介していなかったな。これはフェアではなかった。探偵小説の流儀に反した。失礼。
エラリーは昨夜から今朝にかけてプレゼント配達に飛び回り、そのまま朝から山の中で特訓をし、お昼に熊猫飯店へと向かったのである。
○
「ただいま」
エラリーが文学サロンに入ると、皆がクリスマスパーティの準備をしていた。
「エラリー、お疲れ様。しっかり休んだ?」
J会長がエラリーをねぎらう。
「あのまま特訓をしに行って、その後、熊猫飯店に行っていたんです」
「え、熊猫飯店に……」
J会長の顔が引きつる。ツケの回収に凜華がやってくるのがいつも怖いのだ。
「お姉さま! SNSでもテレビでもすごい反響ですよ!」
リリーがエラリーに抱きついて、気持ち悪いくらいに頬ずりをしてくる。
「リリー、皆の前ではそういうことしない」
「だってぇ、お姉さま本当にすごいんですもん! でも皆の前じゃなければいくらでもしていいんですね?」
「……まぁね」
サンタクロースの正体はエラリーだが、サンタ事件の黒幕はJ会長である。
数週間前、J会長が「今年のクリスマスに何か面白いことをやりたいね」と文学サロンの皆に提案したのである。色々な案が出たが「子どもたちに本を配る」ことに決定した。最近の子どもは本を読まなくなった、といわれてどれほど経っていることだろうか。特に近年の子どもはスマホなどに夢中になり本を読む機会がなくなっている。本の面白さを子どもたちに体感してもらいたく今回この企画を実行したのである。しかし、ただ本を配っても一方的な押し付けで読んでくれないだろう。そこで“サンタクロースからのプレゼント“を演出して配ることにしたのである。そうすれば子どもはワクワクして読んでくれるはずだ。文学サロンの皆は選書をしたり、サンタクロースからの子どもたちへの手紙を書いたり、お手製の包装で包んだりして、大忙しだった。一番大変だったのは実際に配達をするエラリーだったのだが。
テレビでは相変わらずサンタ事件で賑わっている。プレゼントをもらった子どもたちがインタビューを受けている。
「『こども自助論』もらった子が出てますよ! J会長の愛読書の子ども向け版!」
リリーがはしゃぐ。
「この子がもらったのか。しっかりと内容を実践してもらいものだ」
J会長も嬉しそうに笑う。
クリスマス料理がテーブルに並び、J会長から乾杯の挨拶がはじまる。
「皆のおかげで無事に今回のイベントは大成功だった。本が好きな子どもが増えて読書仲間になってくれたら嬉しいね。そして我々文学サロンのメンバーにはこれからやる紹介本コーナも楽しみにしているよ。それでは今年も皆と楽しい読書生活を過ごせて楽しかった、乾杯!」
読書家たちのクリスマスパーティが始まる。




