依頼
「大罪……一国を滅ぼす異能力。」
「はい。」
俺とシルフィは正面を向きながら紅茶を啜る。
ノエルが茶を淹れてきたが、さっさと外に出した。今回はかなり厄介な案件だとふんだからな。
「『嫉妬』の場合、後継者が産まれなかったため国が滅びたのです。」
後継者が産まれなかったから、か……。俺の『憤怒』の場合、名称から見ても分かるのだがこれは物理的に国を一つ滅ぼしたんだろうけど。
「気にすることはないだろ。。」
「でも……これのせいで国が滅びるかも知れないのです。それにしても、先程から口調が……なんと言うか、荒々しくなっているのですが……。」
「そんなつまらないものを咎める人がここにいるとでも?」
「……そうでしたね。」
俺としては口調がどうこう言われても、この口調で長年生きてきたらからな、死んでも治らないよ。
「俺としては婚約話よりも……派閥争いのほうに興味があるのだが。」
「私の派閥と相手の派閥は丁度拮抗状態なので……先程のような暗殺が多くなっているのです。」
俺は目をつぶり、熟考し始める。
さて、ここで問題だ。
こっちが攻勢に出ずに相手を滅ぼす方法とはなんだ?
答えは簡単、『悪行を上司に証拠と共に報告すること』、だ。
情報を今から集めるとして、それをやるにはまず彼女の協力が必要となる。
「なぁ、相手派閥には何か弱みみたいなものはあるか?」
「……一応、あります。ですが、それを使うのは……。」
「何か理由があるのか?」
「はい、もし、それが王族に知られたら……その人たちは死にます。」
「……人質か。」
「はい。バードン卿は指示貴族たちの妻や子供を自分の邸宅の中に監禁し、支持を変える事を禁じているのです。」
うん、予想できてた。
「つまり、それを王族に伝えれば俺らの勝ちだな。」
「ですが、それを知っていても王族が黙認しているのです。」
……まぁ、シルフィもバードンも王族だしな。他の王族たちの口を封じるなんてことも出来るだろうしな。
だから、彼女を使う。
「おい、アモスはいるか?」
「い、いますけど……。」
「はい、お呼びでしょうか。」
言うのとほぼ同時にアモスが扉を開け、礼をして入ってきた。
外で待機してきたのか?それとしてもどうやって待機していたんだ?外にはノエルがいたのに。
まぁ、今はどうでもいいか。
「アモスを呼んで何をするの?」
「アモス、バードン卿の邸宅に忍び込んで人質の解放はできるか?」
「なっ!?」
俺の突拍子のない言葉にシルフィは驚きの声をあげる。
ま、彼女が暗殺者だと知らない人なら当然と言えば突然か。
「なんてことを言うの!?アモスはただの私の侍女よ、普通の人に警備の厳しいバードン卿の邸宅に忍び込んで人質の解放なんて出来るわけ―――」
「できます。」
「できるの!?」
「はい。先代の王に仕える前は暗殺を生業としていましたので。」
「そ、そんなことあったのですね………。なら、頼みます。」
「了解しました。では、少しの間、出させてもらいます。」
そう言ってアモスは外に出ていった。
さて、これでピースは揃ったな。俺は頭脳戦は嫌いだけど、こういった場合、やってみるのも中々楽しいところもあるな。
「でも、人質を解放したところで………あ。」
「分かったようだな。これでバードン卿を蹴落とす準備は整った。」
俺はシルフィから見たら極めて邪悪な笑みを浮かべ
「決行は明日だ。明日ですべてが終わる。」