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銀の王女

あれから数日後、俺たちは王城に向かうこととなった。

因みに親父は別件で王城に向かっているから王城で合流する手筈になっている。

「ふう……。どんな御仁なのだろうか。」

「グレイ様、私としてはグレイ様に見合う方だと思います。」

「いや、実際に見た訳ではないし、あくまで噂しか聞いていない。会ってみないと分からないのには変わりがない。」

「そう……ですか……。」

「とは言っても、俺としてはシルフィ王女が王としての才覚があるかが気になる。」

「どうゆうことですか?」

耳をピコピコと動かしながらノエルがこっちを見てくる。

……可愛いな。でも、肉体年齢は五歳でも精神年齢はもっと年上だし、手は出さないけど。手を出して問題になったら困るし。

「簡単な話だよ。もし、愚王だったら戦乱の時代になってしまう。そしたら大切な人たちが死ぬかもしれない。それは悲しいだろ?」

「た、確かにそうですが……。」

「少し調べたのだが、今王城はかなり派閥争いが激しくなっている。俺らはその渦中に入る事となる。」

前王が数ヶ月前に死去し、その後継者探しが激化している。

今争っているのは前王の弟の『バードン・ドーラン・シルヴァディ』と前王の一人娘である『シルフィ・ドーラン・シルヴァディ』の二人の派閥だ。

バードンは再び国を動かし、戦争を起こそうとしている主戦派、シルフィは帝国と更に友好関係を結び、平和的に共存しようとする穏健派。

この二人の争いは激化していている事なら俺としては面倒ごとに巻き込まれる可能性が高い。いや、確実に巻き込まれる。

(それに、戦争だけはもうこりごりだ。)

もう、あいつらみたいに仲間を、家族を目の前で失う事なんて許せる筈がない。

「俺としては、シルフィ王女の方を支援したいところだけどな。」

「はぁ……。」

「そろそろ王城に着きますよ、お坊っちゃま。」

父親の執事であるバトラーが俺に声をかける。

……そろそろか。いざ、魔窟に入るとするか……。


========

「うわぁ……。」

「……。」

ノエルは辺りを見回し、感嘆の声をあげ、俺は周りを見回した後、少しイラつく。

王城の中は豪華で繊細な彫刻が施され、天井には絵が描かれている。道は広く、侍女たちが行き交っている。

いやー、元平民としては凄いとしか声がでないけどさ……。この富を平民たちに与えないのか?資料を読んでいて分かった事なんだが、僅か数年で復興をした反動で多くの失業者が出ている。親父の領地は反動が少ないけど、いつ反乱が起きてもおかしくない。

それなのに、舞踏会とか金をかける事をするなんて、平民たちから確実に反感を買う事になるぞ?


「ようこそおいで下さいました、グレイ様。」

俺たちの目の前に二十代前半のゴシック調のメイド服をきた紫色の髪と眼をした眼鏡を掛けた女性が話しかけてきた。

この人、今の歩き方から見て暗殺者(・・・)か。となれば、それなりの手練れと見ていいだろう。

それに、この人は何か隠している気配がする。警戒をしておいた方がいいだろう。

「私はシルフィ王女の教育係をしております、アモス・シルバーと言います。」

「よろしく、かな。」

「では、こちらに。」

俺はアモスの後ろを歩き、シルフィ王女がいる部屋まで向かう。

やはり、暗殺者であることは間違いないが……恐らく、ハニートラップの使い手だろう。彼女は顔立ちも綺麗だし、体つきも良い。ハニートラップを使うにはピッタリだ。

となると、アモスのアビリティは『魅力』系のアビリティの使い手なのだろう。

「こちらになります。」

アモスが扉を開け、俺とノエルが部屋に入る。

中は通路と同じように豪華だが、この部屋はどちらと言えばシックな高級品が多いような気がする。

「お待ちしておりました、グレイ様。」

「……お初目にかかります、貴女がシルフィ王女殿下、ですか。」

部屋の中央にあるソファに銀髪の俺と同じ位の少女が座っていて、俺に話しかける。

……俺としてはもう少し年が上がれば更に美しくなる少女だと思う。

「取りあえず、ソファに座ってくだされ。」

「では、お言葉に甘えて。」

「あ、私は茶を淹れてきます。」

俺はソファに座り、ノエルが茶を淹れに部屋の外に歩いていった。

これで、部屋に残っているのは俺とシルフィ王女だけになった。

「そうです。では、私から一つ……。今、貴方様と婚約を結ぶことは出来ません。」

「……やはりか。」

普通の人なら驚くような、だが俺としては当然の帰結だと思う。

こんな派閥争いに巻き込ませたくないだろうからな。……いや、これはブラフか。シルフィ王女の目はそんな事を微塵も考えていない目をしている。

「やはり、貴方様は嘘を見抜くことが当たり前のように出来ているのですね。」

「ええ。ここまであからさまな嘘(・・・・・・・)ならすぐわかりますので。」

「……気に入りました。では、婚約を……」

ッ!殺気!!

「シルフィ王女、伏せて!」

「えっあっ!?」

俺はシルフィ王女を押し倒し、地面に倒れる。

次の瞬間、窓が割れ、空気の弾丸が頬を掠める。

暗殺者か……!

「ど、どうかされましたのか、グレイ様。」

「シルフィ王女殿下はまだ伏せてて。」

俺は身を低くして、割れた窓から外を覗き込む。

見た感じ、人はいない。となると、死角に入り込んだか。

「もう、大丈夫ですよ。」

「た、助かりました……。それにしても凄いですね、グレイ様は。まるで、慣れていらっしゃるかのようで。」

「……色々とあったものです。」

実際、前世ではしょっちゅう命を狙われていたからな、殺気には敏感になってしまうものだ。

「それでは、婚約を……。」

「いえ、その話は少しお待ち下さい。その件で少し話があります。」

少し、本当に少し、頭を過ってしまった可能性がある。俺としてもあまり知りたくもない事ではない。が、今回の件では重要な物となる。

「……何でしょうか。」


「貴女は……『嫉妬』ですね?」


「―――!な、何の事でしょうか。」

「貴女の地位と今の状況は理解しています。ですが、貴女様の先ほどの反応を見るからに暗殺には慣れていらっしゃる。異常なまでに。」

『憤怒』の系譜のアビリティ調べていたらあったのだが、『嫉妬』のアビリティを持ったとされる者たちは全員が女性、そして王族だと書かれている。

そして、その女性たちの末路は何故か統一されている。『暗殺』だ。婚約交渉の場で暗殺され、あっさりと死ぬ。

要は妬まれるのだ、不幸に(・・・)。幸せになる事を許さない特性こそが、『嫉妬』なのだろう。

「それに、何故私が貴女様の婚約候補になったのかも説明がつきます。他の婚約候補たちに断られた(・・・・)のでしょう?」

突然だ。もし、婚約でもしたら確実に殺されてしまう。命はどんなことがあっても重要だからな。

「う……。見事です。」

肯定。つまり、この少女こそが――――


「私のアビリティは『嫉妬』。不幸に『妬まれ』幸せが訪れない『大罪』のアビリティ。」


俺と、同族の存在。(・・・・・・・・・)

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