婚約の申し込み
「お坊っちゃま。お父上が御呼びです。」
「……分かった。すぐ行く。」
俺は本の山から手を振り、本を元の本棚に戻す。
この本たちから色々と読み込めたが、この国には戦争からの復興の際に国境沿いの都市……戦争の始まりとなった都市に新しく一つの学園が作られたらしい。
名前を『マルルカ騎士学園』。かつて、その地で死に絶えた騎士たちに敬意を込めた名前らしく、校内には戦争で死んだ帝国・王国の兵たち全員の名前が刻まれた石碑がある。
……無論、俺たちの小隊のことは書かれて無いだろうけど。
「グレイ様、行きましょう。」
「……あぁ。」
俺はノエルと共に親父がいる執務室に向かった。
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「失礼します。」
「おお、良くきたな。……立ち話で悪いが、少し面倒な申し入れがあった。」
親父が記憶のなかでも見せたことのない程のしんどそうな顔をしている。
………親父はなんやかんや上手く王族たちと貴族たちとの仲介をしていて、苦労が絶えないらしいが、それでもここまでのしんどそうな顔を見たことがない。となると、本当に面倒な事なのだろう。
「実は……グレイと同い年の王女様が、グレイに……」
「俺に、何か?」
「婚約の話を伝えてきたのだ……。」
「「……えっ?」」
王女が俺に……?
確か、同い年の王女については記憶している。
名前は『シルフィ・ドーラン・シルヴァディ』。銀色の髪に紫色の瞳が特徴の少女。頭脳明晰で人の上に立つカリスマ性を持っている。
俺との接点だが、恐らく俺が記憶が戻る前に何かしらの接点があっただけとしか言えない。俺自身の記憶の容量はそこまで多くはないからな。
でも、本音を言えば……めんどい。
「シルフィ王女と婚約って……凄い事ですよ!?って、何でそんなに嫌そうな顔をしているのですか!?」
「いや、俺としてはただただめんどいだけだからかまいません。でも、お父上がそこまで疲れた表情をしているところを見ると何かあるのですね。」
「……あぁ。実はグレイのアビリティについてなのだが……。」
そして、親父は俺のアビリティ……特に『憤怒』について話し始めた。
憤怒がそんなに危険なものだったのか……。いや、帝都を半壊させたのも俺のアビリティ……現象から見ても憤怒だろう。
怒りと言う危険な感情を物理的な力として行使するから危険なんだろうが……それだったら常時発動型の『激情強化』のほうが危険だろうに。『憤怒』とは違い、制御できる訳ではないからな。
つまり、この『憤怒』には全く別の、それも国を滅ぼす程の力が宿っているのだろう。
「そんな!?グレイ様が処刑される理由がただ強力なアビリティがあるからですか!?ふざけるのも大概にしてください!!」
「分かっている。……だから君たちを呼んだのだ。」
「……えっ?」
「君は確実にグレイと共に生きるだろう。もし、グレイのアビリティについて聞かれたとしても『憤怒』だけは絶対に言うな。」
「は、はい!!」
ノエルとの話しも済んだようだな。
「それで、お父上。その答えを返す時、何か言われていますか?」
「あぁ……。数日後、王族主催の舞踏会が行われる。その前日に王城に向かい、答えを言うのだ。」
面倒な形式ばかりにこだわるな……。
「……分かった。では、私はこれで。」
取りあえず、部屋に戻って本を読みながら考えるか……。