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座学と実技

「やっと来ましたね、グレイ様。」

「あぁ。さっさと始めてしまって構わない。」

俺は席に付きながら逆三角形メガネのお堅い女家庭教師に話を促し、その言葉に家庭教師は奇妙な物を見る目でこっちを見てきた。

「グレイ様、前は面倒くさいとかいってサボっていましたのに……。」

「別にいいだろ。」

「は、はぁ……。なら、始めます。」

今日の授業は歴史……それも、戦争に歴史だった。

戦争の発端は帝国が国境沿いの王国の都市を攻め滅ぼしたことから始まる。

そこから外交での交渉が行われたものの、歩み寄りの努力を覆すように軍が暴走。帝国と全面的な戦争が始まった。

戦争の内容は悲惨の一言だ。

多くの王国の兵士たちが死に絶え、帝国の兵士たちも死に絶え、それでも両者とも引き下がれない戦争になってしまった。

最後は軍が帝都を包囲、停戦条件に現皇帝の首と国境沿いの領地を求め、皇帝がその言葉に乗り、処刑された、という内容だった。

いやいやいや、こんなんじゃないよ。

まず帝国が手を出したのではなく王国が先に手を出したんだろ。何故そこを伝えない。

次に戦争には幾つか引き下がれるタイミングがあった。なのに、それを軍の上層部と国王がそのタイミングを逃したから更に戦禍が広がったんだよ。

最後に……何故俺らの部隊について語られていないんだ?俺らの部隊『第9特殊小隊』は帝国との戦いにおいて多くの戦果を上げていたはずだぞ?

「なぁ、これは本当のことか?」

「と、言いますと?」

「この情報は何処から手に入れたんだ?」

「それは王国の優秀な文官たちが作成した戦争報告書から抜粋したものです。」

「……そうか。」

どうやら、その文官たちが戦争の真実と俺らの部隊の事を隠しているとしか言えないだろうな。

いや、当然か。俺らの部隊は異質の才能の持ち主たちが集まっていたから軍や王族からしても目障りな存在だっただろうし、存在そのものを消すことくらいするだろうさ。

「あの、グレイ様?何か考え事とでもしていすか?」

「……いや、今帝国の方はどうなっている?」

「帝国……あの屑どもですか……。あいつらは今も存命しています。」

俺自身は帝国に反感を持っている訳じゃないし、帝国の捕虜の中には帰りを待つものもいたのだから滅んでもらっては困るのだ。

てか、さっきからこの家庭教師、自分の考えを押し付けてばかりだな。妙に王国を押し上げ、帝国を陥れるような言動をしている。

この家庭教師、恐らく国粋主義者か。

俺からしたら国粋主義者どものせいで戦争が起きたから嫌いなんだよな。

俺の記憶でもこの家庭教師の授業を一回受けただけで俺はサボっていたからな。恐らく、無意識のうちに俺の人格が表層に影響していたのではないだろうか。

「……あ、そろそろ時間ですね。」

「そうか。なら、行かせてもらう。」

タイミング良く授業の終わりの時間になったため、うんざりしながら荷物を整え、部屋から出る。

後でこの家庭教師をクビに出来ないかな……。


=======

「お、きたなお坊ちゃん。」

「うるさい。やるならさっさとやれ。」

庭に出た俺を待っていたのは大柄なスキンヘッドの身体中に傷がついた威圧感を感じる男だった。

確か、名前はオルゴ・セグレス。帝国との戦いで最前線を駆け巡ったとされる元軍人で怪我が原因で軍を抜けて家庭教師をしているらしい。

だが、軍を引退しても実力は健在。

事実、記憶が戻る前の俺は攻撃を一回も当てれなかったからな。

ま、今の実力を測るにはちょうどいいし、やりますか。

「なんつーか、お坊ちゃん、雰囲気が変わりましたね。」

「……そうか?」

「えぇ、戦争中、それも兵士たちの中でもエリートと呼ばれる奴らのような、一本の剣のような雰囲気でっせ。」

「……気にすることはない。さぁ、始めるか。」

立て掛けていた木の剣を持ち出て構え、オルゴも木の剣を出して構える。

「……ふっ!」

呼吸を整え、一瞬で近づき突きを放ち、オルゴは剣でそれをギリギリのところで防ぐ。

「いい感じっすよお坊ちゃん!」

「……静かに闘うことも出来ないのか。」

それを予想し、俺はオルゴの脚を踏みつけ固定、そのまま木の剣を離し木の剣の下を潜り込みそのまま肘を腹に入れる。

「ゴブフォ!?」

「……ふん!」

そのまま倒れそうになるオルゴを胸ぐらを掴み、強引に持ち上げ、脳天に頭突きをする。

「グッ……オッ……。」

頭突きをくらったオルゴはそのまま気絶した。

……くそ、頭が痛いし、腕も痛いな。少し痛みが引けるようにするか。

「おっ、いいところにこれがあったな。」

俺はオルゴを放置して近くにあった草を抜き、痛みがある部分に抑える。

この草は『ベラン草』。良く戦場で痛み止めとして役にたった薬草の一種だ。日当たりが良い場所に生え、どんな環境にも適応できる。

ま、桜髪のあいつの受け売りの知識だけどな。


「さて、起きるまで待つか。」

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