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サメナイユメ  作者: 下蔵寿光
一章 過去と未来の物語
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第七話 過去(未来)と出会う物語

この間話はアル君の一人称視点でお送りします


2022,9/21更新

説明回です。


 西方暦536年5月21日夜。


 帰宅したアルは就寝を前に自室で何やら作業をしていた。


 朝が早いシャルル子爵家の他の面々は既に寝静まっている中、彼は細々とした灯りを頼りに紙束に向き合う。


 あどけない顔に興奮を浮かべ、素早く右手を動かし続ける。


 噛み殺された吐息は不規則な気流となって歯の隙間から漏れ出る。


 双眸に浮かぶ涙の理由は、眠気か、興奮か。


 左手で紙束を押さえ、忙しなく右手を動かす子爵家長男。


 そんな彼の部屋からは一筋の光が廊下へと漏れ出していた。


 僅かに開いた扉の隙間から必死に勤しむアルの姿を覗き見る小さな影が一つあった。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 真っ直ぐに自らに注がれる視線に気付いたのか、扉に背を向けていたアルがゆっくりと振り返った。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………えっち」


「いや、それは言うとしても覗かれた僕の台詞じゃないかな」


 相変わらずの無表情で顔を背けたハルカに、アルは天を仰いだ。


「…はぁ。アルはだめだめ。リアクションはしっかり」


「………」


 黙り込んだアルは、右手にペンを持ったまま元の姿勢に戻る。そして、焦った様子で振り返る。その両手は服の上から股の間を押さえていた。


「っっっっっ!?は、ハルカ!?何でここにっ!?」


「…ん。まあ及第点」


「辛口だな…。参考までに改善点を聞いても良い?」


「…ん。見てて」


 アルは、近づいてきたハルカに自らの椅子を明け渡してベッドに座った。


「…ごほん。?アル?なんでここに?」


 ドヤ顔で見つめてくるハルカに、アルの目は泳ぐ。


「あ、ありがとぅさんこうになったよぉ」


「…ふふん。感謝して」


「お、押忍。めっちゃ感謝してます」


「…ん」


「………………………………」


「………………………………それで?」


「ああ、うん。えっと………あれ、ハルカが訪ねて来たんじゃ無かったっけ?」


「…おお。確かに。えっと………何だっけ?」


「忘れちゃったのか……。もしかして、五月蝿かった?明日も早いのに寝るのを邪魔しちゃったかな」


「…?違う。用があった」


「そっかぁ。その用っていうのは………思い出せないんだよね?」


「…ん。絶対あった。一緒に思い出して」


 堂々と無茶振りを言うハルカに、アルは頭を抱える。


「えーと、普段寝てる時間に来るぐらいだから結構重要なことだよね?」


「…ん。多分」


「多分て……。まあ、良し。……………………。ああ、僕の魔法のこと?」


「…おお!それだ。………多分」


「いや、多分じゃないよ多分じゃ。それより。前にも言ったけど、僕はまだ自分の魔法を自覚してなくて───」


「───それはもういい。毎晩してるのは知ってる」


「言い方………。まあでも、流石に苦しい言い訳だったね。もしかして、父上や母上も気付いてる?」


「…それはない。偽装が効いてる」


「良かった。寝てる時に無意識に魔法が発動しちゃってるなんて嘘までついた甲斐があるよ」


「…ん。私だけ」


「寝室が隣だからか……。それで、態々この時間帯に来たってことは父上と母上には秘密にしてくれるってことでいいの?」


「…ん。あと、私のも教える」


「ハルカの魔法は予想ついてるんだけどね……」


「…私も予想してる。答え合わせ」


「なら、お互いこの紙に予想を書いて、せーので見せ合うっていうのはどう?」


「…ん。面白そう」


 アルは白紙の束から一枚ずつ切り離し、片方をハルカに渡した。


「じゃあ、───」


「…ん、───」


「「───せーの」」


『時間の巻き戻し』


『魔術の構築』


 アルの解答にハルカは目を見開く。逆に、ハルカの解答にアルは首を振る。


「…すごい。正解」


「よっしゃ!ハルカのは不正解だよ」


「…!驚愕」


「まあ、この机の上を見たらそう思うか……」


 アルの机の上には魔術に関する資料と独自の研究と思われる様々な記号が書き込まれた紙が散らかっている。


「…むぅ。答え」


「りょーかい。僕の魔法は一言で表すなら『過去の把握』だ」


「…過去の、把握。それ、は……」


「過去に起こったあらゆる事象の把握。まあ、情報量が多すぎて上手く扱えてるとは言い難い状況だけどね……」


「……………………」


「あっ、もしかして───」


 ハルカは目を見開いたまま固まっている。


「───僕に全く違う形で会ったことがあるんだ?」


「っ、!」


 ハルカはがたり、と音を鳴らして立ち上がり、目の前の少年を睨み付けた。


「…アルフレート・ウェスタラシア。帝国の狗が、何故こんな所にっ…!」


「へぇ……僕はそうなる(・・・・)筈だったんだ。そっち(・・・)の僕はどんな風だったの?今と変わらない……ことは無さそうだね。大分恨みを買ってたみたいだ」


 義姉の見たこともない形相を見て、アルは身震いした。


「…ん。ごめん。全く違う。根本から、全て」


 大人しく座り直したハルカに、アルは疑問符を浮かべた。


「同じ人間なのに、そんなに性格が変わることってあるのかな。………やっぱり、性格は後天的な要素が強いのか……?王国と帝国、どっちで育つかの違い……?それとも、家庭環境か……?」


「…分からない。でも。アルフレートは機械みたいだった。帝国の利益だけ目指してた」


「機械……。ああ、成る程。そういうことか」


「…?何か、分かった?」


「いや、何でもない。にしても、面白い巡り合わせだね。未来ではハルカに恨まれる可能性があった僕が、今こうして一つ屋根の下に暮らしてるなんて」


「…ん。あのいけすかない野郎が───」


「うんうん」


「───こんないけすかない義弟になるなんて」


「おい。変わってないよね、それ。未来変わってないよねそれだと。どちらにしろいけすかないのかよ、僕は…」


「…ん。あっちは単純に敵だったから。こっちは───」


 ハルカは、拗ねた様子でそっぽを向いているアルの隣に腰掛け、


「───何考えてるのか分からなかった(・・・)から」


 ほんの僅かに目元を垂らして口角を上げた。


 分かる者には分かる、ハルカなりの笑顔だ。普段揺らぐ事すらない蕾が、僅かにその内に秘めた花弁を垣間見せる。


 至近距離でそれを直視したアルは、顔を背けた。


「………。今だって、何を考えてるか分かってないくせに」


 精一杯強がっても、色づいた耳が本音を語っている。


「…ふふ。ん、そう。でも、何をしたいのか(・・・・・・・)は分かってる。それだけは揺らがないって、分かったから」


 今度は羞恥心から、アルの顔は一層赤みを増した。











 数分後。


 動悸を落ち着けたアルは、同じベッドに座るハルカに向き直った。


「取り敢えずお互いの魔法については理解できたと思う」


「…ん。あと、アルが意外と照れ屋なことも」


「そ、それはもういいからっ。……っ、んんっ。えっと、それで、お互いがお互いの知らない情報を持ってるってことは確定した訳だけど、一先ず、僕らは敵じゃないって認識で大丈夫?」


「…ん。今までアルを警戒してたけど無駄だったみたい。少なくとも、アルは私には危害を加えられない」


「ぐ……それはもういいって。ハルカこそ随分と饒舌になったね?普段の無口はキャラ作りなのかな?」


「…ん。知り得ない情報を漏らすと、色々めんどう」


「ああ、だから台詞を減らしてるわけか。意趣返しにはならなかったけど、まあいいや。じゃあ、僕からいくつか質問がある」


「…ん。どんとこい。その後、私も質問する」


「分かった。先ずは二つ。ハルカは何回(・・)時間を巻き戻した?それと、それぞれ巻き戻したのはどの時点なの?」


「………。…えっと………いっぱい。正確には覚えてない。、けど……一万回は、超えてる。もっとかも」


「え…………」


「…ん。次のは簡単。私の魔法が発動する(・・・・)のは、私が死ぬ時。一番早いので五歳の時。一番遅いので十八歳の時」


「っ……………」


「…?次の質問は?」


「あ、ああ。質問ね、うん。………。じゃあ、最後は君の敵について───いや、目的を聞かせて。僕が思うに、ハルカはそんなにたくさんの時を生きられるほど強かじゃない。……というより、そんな何度も人生を繰り返せるヒトなんていないとすら思う。その上、僕の知る多くのヒトビトの中で君は特にそれに耐えられる精神性をしていない。そんな君がそう出来た理由。それが知りたい」


「………。ん。私の目的は、………色々?」


「これと特定できるものはない、ってことか。…………。もしかして、ハルカの、その、『死』っていうのには周りのヒトも……?」


「…ん。アルの知ってるとこだと、父様、母様、マリアおばさん、シャルルおじさん、屋敷の使用人の人達に騎士団の人たち」


「っ、………。それだと、王都が滅ぶくらいの……」


「…ん。北大陸の西側は根こそぎやられる」


「おおう……。思ったよりも範囲広いな」


「…最悪の場合。王国と帝国の戦争に聖国が介入して、覇国と商国が乱入。最後にブチ切れた竜王が大陸を沈めた」


「ああ……。因みにそれは何年後のことなの?」


「…私が十八歳の時だから……十三年後、かな。問題放置し過ぎた結果だから、多分だいじょぶ。これからはアルも協力してくれる」


「お、おう……決定なんだ。まあ、協力はするけどさ…」


 ハルカは鷹揚に頷く。


「…次。私の番」


「おっけい。どんと来い」


「…ん。まず、アル自身のこと。アルフレート・ウェスタラシアと違い過ぎ。アルは、アルフレッド・シャルルは、何者?」


「………。ハルカの見た僕がどんな経緯でその『アルフレート』になったのか分からないから、何とも言えない。ただ、分岐点は分かる。五年前、僕たちが生まれた直後に起こったスタンピードで、僕は父上に助けられたんだ。その時、僕は誰か───母さん(・・・)曰く『皇帝の狗』に拐われるところだった。そこで拐われてたら、ハルカの言う『アルフレート』になってたかもね」


「…そんな昔のこと、覚えてる?」


「ああ、それは魔法でちょちょいと覗いたんだ。ついでに言うと、僕は誕生の瞬間から意識があったみたい。前世のっぽい記憶のお陰かもね」


「…(笑)。前世www」


「おいやめろ。無表情で『前世』って言ってるだけなのに煽り性能高いのまじやめて。………あと、一応本当だからね。異世界の記憶があるんだよ、僕には」


「…んwww。異世界、(キリッ)。っ、〜〜〜」


「……………………。本当、だもん」


「…分かった。じゃ、次」


 眦に涙を浮かべたアルは、こくりと頷いた。


「…あと二つ。まずは、これのこと」


 ハルカは机の上に積まれた紙束を叩く。


「…『過去を把握』する魔法。何に使ってる?」


「ああ、それか。この時代は物騒過ぎるから、生き残るためにも力をつけようと思ったんだけど僕の魔法は戦闘向きじゃないんだよね。だから戦闘に使える技術を収集してるんだけど、武術関連は実践がないとどうしようもなくて……イメトレだけだと流石にどうにもならない。まあ、そんなこんなで今は魔術について学んでるって訳だ」


「…おおう。早口乙。じゃあ、最後。ジャンヌについて。アルには───」







 ハルカが自室に帰った後。


 アルは灯りを消してベッドに潜り込んだ。


(あの、最後の質問。態々聞いてくるってことは、多分、ハルカもそう(・・)なんだ。ハルカは誤解してるみたいだけど、僕とハルカの魔法は性質が酷似してる。方向性が違うだけだ。そして、僕たちの魔法を以てして見通せないものがあるとすれば、それは───)






 自室へと戻ったハルカは、ベッドに寝転び目を閉じた。





『アルには、ジャンヌが見える?』


『………。僕の魔法では、この五年間一度も彼女を観測できてない。これでいい?』





(…アルの魔法でも、ジャンヌは認識出来ない。私も、ウェストファリア王国の王女がこの時代に存在していたなんて、知らない。今回が初めて。巻き戻しの度に記憶が消える?否定は出来ない。なら、現に存在する私たちの友達は───)


==========================================

==========================================


 少年は確信を得た。


 少女は懊悩を続ける。


 過去と未来は本当の意味で出会い、物語の序章を紡ぐ。


 問われることさえない問題は、当然、証明も反証もされない。


 誰しもが信頼するその前提に挑まんとする者は、未だ現れない。


あまり凝った設定などはしていません。


2022,9/21

本日更新分はここまでです。

蛇足というよりは蛇尾と言うべきなのかは分かりませんが、ここまでが序章でも良かったような気がします。粗筋を決めているだけなので、章割が雑になってしまいました。この点に関して推敲を重ねる気はあまりありませんが、無駄口に付き合って頂いてありがとうございます。

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