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サメナイユメ  作者: 下蔵寿光
一章 過去と未来の物語
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第六話 未来に繋がる物語

2022,9/19更新

み、三日以内に一話っていうのはあくまで努力目標といいますか……。いえ、何でもありません。本当に申し訳なく思っております。つ、次こそは三日以内に更新、、、を目指します。


 西方暦536年5月21日未明。


 ウェストファリア王国王都 ウェストキャピタはまだ暗闇の中にある。夜に包まれた大都会には日中の活気も日の入りの狂騒も存在しない。それでも、新たな一日に向けて街は確かに目覚めの準備をしていた。


 その中心部、貴族街の外れに位置するシャルル子爵邸も既に活動を始めていた。しかし、そこには周囲の貴族邸よりもずっと強い活気がある。


「おはよう。相変わらず早いな、アンナ」


「…おはようございます、かあさま」


「おはようございます、あなた。それからハルカも。……アルはまた寝坊ですか?」


「いや、起きてはいたんだが……まあ、いつもの(・・・・)だな。夜中にまた無意識に魔法を使っちまったんじゃないか?」


「…ん。ぼーーーーーっとしてた」


「そう、ですか…。では、アルが来るまで少し待ちましょう」


 ダイニングに集まった親子は口々に食卓に着く。当主のイアンは動き易い略装に身を包み、眠そうに目を擦る。長女のハルカは、母親と同じメイド風の衣装を着込んで宙を見つめている。


 アンナがマイペースな父娘に物言おうとした時、家族の寝室に続く扉が開かれた。


「っ、もうしわけありません、ははうえっ。アルフレッド・シャルル、ただいまちさんいたしました」


「遅れていると分かっているなら、直ぐに席に着きなさい。それと、おかしな言葉遣いはやめなさい。王妃陛下も最近、姫殿下の言葉遣いを気にしておいでです」


「まあまあ、折角家族が揃ったんだ。まずは朝食といこう。説教なら昨夜もしただろ?」


「…ん。それに、かあさまもおくれる」


 アンナの合図により朝食が並べられ、作法に厳しい彼女の目が光る中、当主と姉弟が気を張って食事を進めた。


 食休みを取る間もなく、一家は玄関ホールまで移動する。


「それでは、(わたくし)は先に王宮へ参ります。イアン、あなたは遅刻などしないように。ハルカとアルは……今日も姫殿下と仲良くするように。………ハルカ、聞いているのですか?」


「………?」


 大きな荷物を背負ったハルカは、小さく首を傾げた。


「何のつもり、ですか………?」


「…ん。きょうこそわたしもメイド、する」


「貴女はまたそんなことを……。何度も言うようですが、貴女がメイドになることは許しません。子爵家令嬢としての自覚を持ちなさい」


「…じかく?ある。だから、メイドする」


「………」


「………」


 見つめ合う紫紺の瞳。長女の揺るぎない視線に、アンナはため息を吐く。


「………貴女がただ我儘を言っている訳ではないことくらい分かります。しかしどの道、理由を話せないのなら話はここまでです。アル、後は頼みます」


 まだ薄暗い中、アンナは家を出る。王宮の使用人たちの頂点に立つ彼女は、本来ならば常に王宮に居る必要があるのだ。それを曲げて夜間帰宅している分、朝は早く登城しなければならない。


 女主人の出立を見送った面々は、思い思いに時間を過ごす。


 まだまだ早朝というにも早い時間であるため、やることも出来ることも限られる。


 結局、イアンが鍛錬のためのランニングに繰り出すと、ハルカもアルもついてくる。これがここ最近の日課となりつつあった。


 太陽が完全に顔を出し街が本格的に目覚める頃には、軽く息をつくイアンと、息も絶え絶えなハルカとアルが子爵邸に帰ってきた。


「俺は騎士団に顔出さなきゃならんから汗を流すが、お前たちは今日もお姫さんのとこに行くんだろう?そのままじゃまたアンナに怒られるぞ」


「わかって、る、けど……ゼェ、ハァ、……ちょっと、やすま、せて……」


「…っ、………」


「なんだ、二人ともそんなに疲れているのか。なら、久しぶりに父さんと一緒に風呂にでも───」


「「───(…)ぜったい、いや!」」


「さ、最後まで言わせてくれよ…。まあ、大声出せるくらいには体力が残ってるようだし、さっさと身支度を済ませてこい。いつもの時間に遅れたら、お姫さんはまたギャン泣きするかもしれないぞ」


「…それは、ダメ。アル。すぐにおふろ、いく」


「つかれてるっていって、るのに……」


 肩で息をしつつ浴室へ向かう姉弟。


「………。もっと甘えてくれても良いんだがなぁ。聞き分けが良い───いや、良くはないな。にしても、まだ何一つ父親らしいことをしてやれてないってのは……」


 年不相応な言動をする二人に頼もしさを感じながらも、イアンはどこか寂しそうに息をついた。


====================================================================================


「よくきたわねっ!まちくたびれたわ!」


 そう言い放ってハルカとアルに飛びついたのは、ウェストファリア王国の王女 ジャンヌだ。尊大なのかそうでないのか分かりにくい言動だが、昨夜ぶりの乳兄妹との再会を喜んでいることは確かだ。


 しかし、その言動は王女としてはあまりに相応しくないものだったようで、姉弟から引き剥がされた彼女はそのまま神妙な表情でお叱りを受けている。


 その間に、ハルカとアルの二人は揃って片膝をついて首を垂れ、臣従の意を示した。


「───だというのに、貴女は……。もう少し自身の言動に責任を───は、ハルカちゃんにアル君?そんなに畏まらなくてもいいのよ?ほ、ほら!こっちのソファーに座りなさい。ね?」


 ジャンヌを叱りつけていた女性は、跪く姉弟を見て酷く狼狽し、二人に着席を勧めた。


 彼女の背後に気配もなく佇む人物が軽く頷いたことで、姉弟はやっと顔を上げて席に着いた。


「何度も言うようだけど、わたくしは二人のことも我が子のように思っているの。だから、あまりよそよそしい態度をとられると傷付いちゃうのよね…」


「…ん───んんっ!わたしたちも、おうひへいかのことをけいあいしておりますれば、しぜんとしんじゅうのしせいをとってしまうのです」


「っ、へいかのごはいりょはまことにありがたくぞんじますが、われわれにはたいへんおそれおおいことでございます。ねがわくは、つねにへいかへのけいいをしめさせていただきたく」


 普段通りに接しようとした二人の視界の隅で、黒髪のメイドが一瞬だけ強烈な殺気を放った。射殺さんばかりに眇められたその紫眼の意味を悟った姉弟は、咄嗟に返答を180度回転させ、王妃への臣従の態度を保った。


 姉弟の返答を聞いた女性───王妃 マリアは、扇で口元を隠して優雅にため息をつく。


「全く……。アンナ、プライベートの場でくらい構わないじゃない。わたくしだって窮屈なのはきらいなのよ?……まあ、この娘ほど羽目を外し過ぎるのもどうかとは思うけれど」


 マリアの膝の上で、ジャンヌがびくん、と肩を震わせた。一度逸れた矛先が再び自身に向くのではないかと戦々恐々と母親の顔を見上げる。


 そんな娘の頭を撫でながらも、マリアの視線は背後───黙して気配を殺した黒髪のメイドへと向けられている。自身の問いかけに対してあくまで黙秘を貫くアンナの態度に彼女は、二児の母であることを感じさせない自然さで膨れっ面となった。


 流石に国母がしていい顔ではないと判断したのか、アンナがため息をついた。


「マリア様、ジャンヌ殿下の教育に悪うございますのでそのような表情は───」


 マリアの頬がさらに膨らむ。


 無言の主張を見たアンナは深い溜め息を吐いた。


「………。……マリア、まずはその顔をやめて下さい。それから、非公式の場であろうとこの年頃の子供には礼節を弁えさせねばなりません。そうしなければ、後々恥をかくのはこの子たちです」


「わたくしもその意見には全面的に賛成ですよ、アンナ先輩。でも、ジャンヌはまだまだですが、ハルカちゃんとアル君はその辺りをしっかりと弁えていると思います。実際、さっきだって先輩の様子を見てわたくしへの態度を変えたじゃないですか」


 学生時代の関係性を引き摺ったマリアとアンナの掛け合いは王妃とメイドのそれではない。


「ハルカもアルもとても賢い子です。……時に恐ろしいほどに。しかし、だからこそ、形式上だけでない本当の敬意を持たなければなりません。親の贔屓目抜きに将来有望なのは良いことですが、秩序に阿ることのない力など害悪でしかありません。この子たちだからこそ情操教育には慎重を期したいのです」


「(………この二人は敬意などなくても王家に牙を剥いたりはしませんよ)」


「……?何か言いましたか?」


「いえ、何も言ってませんよ?それよりも、先輩の仰ることは分かります。ただ、わたくしは紋切り型の価値観を押し付けずとも、この子たちなら王家とそれが守る秩序に仇なすことはしないと思うのです。ハルカちゃんもアル君、ジャンヌを傷付けることだけはしない筈です」


 仕えるべき主人であるマリアがこうも断言してしまえばアンナも肯ぜざるを得ない。


 せめてもの意趣返しなのか、気やすい会話は終わりとばかりに深々と腰を折る。


「まあ、いいでしょう。先輩と話す時間はいくらでもありますし。……と、いうわけで!ハルカちゃんにアル君。これからはわたくしに気を遣わないで下さいね。ご覧の通り、こわーいお母さんの許可も取ったことですし!」


 姉弟は困ったように顔を見合わせると、恐々とアンナの様子を伺う。しかし、母親が頷いたのを見るや、二人の姿勢は直ぐに崩れた。


 ソファーに浅く腰掛け垂直に正されていた二人の背筋は、背もたれに吸い込まれる。深く腰掛けることでそれほどだらし無い印象は受けないものの、母親の目が光る普段と比べればだらけていると評せるほどに力が抜けている。


 その様子に、マリアは満足気な笑みを浮かべた。


「それじゃあ、わたくしの呼び方も変えてもらいますよ。娘と同い年の友人にまで『陛下』だなんて呼ばれたくありませんから」


「…ん。なら、マリアおばさ───」


「───マリアさん、なんてどうでしょう!?」


「んーー。結局普段通りに落ち着いちゃうのね。まあ、取り敢えずはそれで良いでしょう。もっと気軽に、ママなんて呼んでくれてもいいのよ?この娘みたいに」


「ちょ、ちょっとおかあさま!?ち、ちがうからね!?あたし、ふだんそんなふうによんでないからねっ!?」


 突然の被弾に、油断し切っていたジャンヌは慌てふためく。ただでさえ年不相応な二人の友人に子供っぽいと思われたくはないのだ。


「ほんとうよ?ほんとうなんだから!」


 母親の膝から降り、友人達の間に座って必死に弁明をするジャンヌ。


 そんな娘の姿を楽しそうに見守っていたマリアだったが、鐘の音が聞こえると名残惜しそうに立ち上がった。


「ごめんなさい。もう公務の時間みたい。ジャンヌ、お勉強をするかしないかは任せるけれど、どちらにせよ必要な知識や作法はしっかりと身につけなさい。来年から貴女も小学校に通うことになります。そこで無様を晒すことは許しません。ハルカちゃんにアル君。この娘を頼むわね」


 マリアがアンナを連れて退室する。


 それを見送ったジャンヌは、アンナの代わりに入ってきたメイドに聞こえないように声を落としてアルに問いかける。


「ねえ、だいじょうぶなのよね?あたしたちけっこうじゅぎょうからにげだしてるけど、しょうがっこうでやっていけるのかしら?」


「べんきょうにかんしてはまったくもんだいないよ。あそびにかこつけてろくねんせいまでのはんいにはかるくふれてるから。さほうは……ぱっとみたかんじもんだいないとおもう。ハルカはどう思う?」


「…ん。きほんはおっけー。あとはしきてんとか。とくべつなのをおぼえるだけ」


「そ、そうよね。だいじょうぶ、よね。……って、アル!?あそびにかこつけてあたしにべんきょうさせてたの!?」


「いや、べんきょうっていうか……。ぼくとハルカのかいわってがっこうでならうこととかもぜんていになってたりするし、ちずをつかったげーむとか、かずあそびとか、あとものがたりとかもそうだね。とうぜんあなはあるけど、しょうがっこうのじゅぎょうについていけないことはないとおもうよ」


「そ、そんなことしてたの!?じゃ、じゃあ、あたしってけっこうゆうしゅうなの!?」


「…ん。じしんもって」


「そっかぁ……えへへ。あたし、ゆうしゅうなんだぁ」


「まあでも、おてんばすぎてわるめだちするかも───」


「───だいじょぶ。ジャンヌはとてもゆうしゅう。にんきものになる」


「え、えへへ……そんなにほめないでよぉ」


 でろでろに顔を緩ませたジャンヌ。そんな彼女に、突然声がかかった。


「殿下、そろそろお勉強の時間で───」


「「「───っ」」」


 三人は一斉に立ち上がり、駆け出す。


 声をかけたメイドの手が宙をさまよう。


「っ、殿下ぁーー!今日こそお勉強して下さぁーーいっ!」


 そして、賑やかな一日がまた始まった。


ブクマ登録ありがとうございます。


2022,9/19更新

本日更新分はここまでです。

内容についてですが、基本的にあらすじしか決めていないため、設定や名称等にガバが発生しがちになります。そのあたりは生暖かい目で見守ってやって下さい。

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