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サメナイユメ  作者: 下蔵寿光
一章 過去と未来の物語
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第二話 過去に埋もれた物語

2022,8/17更新

連日更新とは一体なんだったのかこれが分からない。いや、本当に申し訳ありません。書くことを決めていた筈なのに、筆が遅々として進まず、なぜか内容が増えていくという珍事いつものことがちょっとですね……。重ね重ね本当に申し訳ありません。


2022,9/13訂正

人物名にミスを見つけたので、訂正をしました。

 西方暦531年6月20日夕刻。


 ウェストファリア王国、王都北東部の開拓地帯を飲み込んだスタンピードは、それぞれが一騎当千の実力を誇る王国の騎士団によって撃退された。団員たちが勝鬨を上げる一方で、騎士団長 イアン・シャルルは未だ暗雲の晴れない開拓村の方角を、深刻な表情で見つめていた。


「イアン団長、あちらに何か───ああ、あの雲を見ていたのですか?」


「いや、……あ、ああ。魔術師団からの報告もあって、少し気になってな。あんなに黒く禍々しい雲は見たことがない」


 隣に並んだ副団長に対し、咄嗟に誤魔化したものの彼の口をついたのもまた彼が本当に案じていることの一つだった。


 索敵を担当していた魔術師団にも、覆っている黒雲の先、北東の山脈とその裾野の樹海の様子を見通すことは出来なかった。


 魔術師団によれば、黒雲は超高密度の魔力であるとのことだった。魔力は通常、量的均衡を保とうとする。その原則に反して魔力が一箇所に集中する要因はそう多くない。例えば、巨大な生物か大量の生物の死によって内包されていた魔力が一斉に解放される、といったものだ。しかし、大抵の場合は時間の経過で霧散する。


 魔力に関する見識が深い魔術師団の副団長によれば、あの黒雲ほどに大規模な魔力溜まりともなると、その形成には人で言えば一億人分。竜であっても百匹分の魔力は必要となる。そんな膨大な魔力が、発生から一日以上もの間霧散せずに存在し続けている。


 畑違いのイアンにはそれがどれだけ異常であるかが正確には把握できない。しかし、寒村に生まれ、冒険者として戦い続け、遂には竜殺しの偉業を打ち立てた彼だからこそ、あの黒雲こそがスタンピードの元凶であると確信していた。


「俺には、あの雲───あるいはその大元こそがこのスタンピードの………いや、回りくどい言い回しはやめよう。今回の被災地、最初に襲撃を受けたであろう村には、俺の友人夫婦が住んでいる。俺は、彼らを助けに行きたい。……あいつらが、そう簡単に殺られるはずがないんだ……!」


 突然の告白に困惑の表情を浮かべた副団長は、怒った表情を作る。


「まったく、貴方という人は……。我々は王国を守護する騎士団であり、今はその任務の真っ最中。しかも、あなたは責任を担う騎士団長だ。…それでも、ただの(・・・)冒険者を助けに行くと、そう言うのですか?」


「…………」


 イアンは痛いところをつかれた、とばかりに顔を顰める。


 権謀術数の中に生きる貴族らしからぬその馬鹿正直な表情に、副団長はため息をついて肩をすくめる。先程の怒りから一転、呆れた表情を浮かべている。


「まあ、あの黒雲が怪しいという報告もあります。それに、被災地の現状も把握すべき情報です。……危険地帯での情報収集も我々騎士団の仕事と言えるでしょう」


「!な、ならっ」


「しかし、まだスタンピードが収まったと断定できない以上、騎士団をここから動かすことはできません。最大戦力である貴方を欠いては我々とて安全とは言い切れない。つまり、『偵察』には貴方一人で行くことになる。どれだけ危険か分からないあの黒雲の下へ、たった一人で。……それでも───」


「───ああ。それでも、俺は行く」


 決意に満ちた声音に、副団長は大きく息をはいた。


「………。では、後のことは私に任せてさっさと行って下さい。……国王陛下と奥方様には私の方から報告を入れさせていただきますね」


「っ!?い、いや、シャルルはともかく、アンナには……!」


 一転して情けない声を上げ出した上司に背を向けた副団長は、部下たちへと次々に指示を出し始める。


 自分勝手の代償が妻への密告ならばまだ安いものだ、と腹を決めたイアンは騎馬に前進を支持する。


(アランとリズ。あの二人なら、村ごと守り切っていてもおかしくはない。………けど、リズの出産もそろそろの筈だ。……頼む。無事でいてくれ……)


 整備の甘い街道を駆ける騎士の精悍な顔を、冷たい風がぬるりと撫でた。


====================================================================================


 木の葉のように、人々が宙を舞う。


 あれほど心強かった守護の結界は、暴風を受けて弱々しく軋む。


 ギルドに施された魔術による結界と、大魔術による魔物の殲滅。この二つを軸として細々とスタンピードを戦い抜いてきた冒険者たちは、いまや無力感に苛まれていた。


 たったの一瞬。


 誰が気を抜いた訳でもなく、それ故誰にも責任はない。


 強いて挙げるなら、見張りの人員。


 彼らがもし、僅かでも高い場所───それこそ物見棟での警戒が可能だったなら。


 それ(・・)の接近に気が付き、結界を維持していたリズへと警告を発することが出来たかもしれない。


 しかし、物見棟は既になく、戦線は村の中心部の冒険者ギルドにまで押し込まれていた。


 それ故、超高速で飛来し、守護の結界ごとギルドの建物を吹き飛ばしたそれ(・・)は、たった一瞬で戦線を崩壊させた。


 せめてもの幸いは、暴風に巻き上げられる形で起こったギルド会館の崩壊による死者が出なかったこと。また、それ(・・)の飛来以来、雨も雷も、魔物の襲撃も、ぱたりと止まったことくらいだ。


 しかし、そんなことは些事でしかない。


 それ(・・)の周囲を渦巻く暴風は、抗えなかった人々を軽々と吹き飛ばして行く。


 守護の結界の中、人々は更に風除けの結界を維持する女魔術師の下に集まって地面にしがみついていた。


 それ(・・)の周囲に充満する漆黒は、人々の絶望を凝縮したかのようだ。


 二重の結界に守られながら、村人も、冒険者すらもが戦う気力を失っている。


 それ(・・)の前には人の命など等しく無価値なのだろう。


 故に、それ(・・)に立ち向かうことが出来たのは、たったの二人だけだった。


 一人は、尽きかけた魔力を掻き集め、最大の切り札を切ることを決意した赤髪の魔導師。


 そしてもう一人は、女魔術師に我が子を預け、軋む身体を奮い立たせた銀髪の盾使い。


 方や魔力が、方や体力と装備がない状態での、圧倒的格上との対峙。


 死地へと踏み込んだ両親に何を感じたのか、赤子は女魔術師の腕の中、満足に動かない身体を必死に動かし、小さな手を伸ばした。恐怖に負けて尚己が役目を全うせんとする女魔術師は、恩人の息子を確りと抱きしめた。


 泣き喚く赤子の声は、暴風に掻き消されてその両親には届かない。


 無力な赤子の慟哭を余所に、時間は流れ続ける。


 悠々と人々を睥睨するそれ(・・)に対し、盾使いに守られながら、魔導師は身体中から掻き集めた魔力を用いて魔法(・・)を放つ。それは、竜の堅固な鱗を焼き切る極光の槍。膨大な熱量を秘めた魔導師の正真正銘の切り札は、一瞬で彼我の距離を詰め、それ(・・)に炸裂する。


 しかし。


 必勝を誇るはずのその光槍は、それ(・・)に命中し、その熱量を解放した。


 それだけだった(・・・・・・・)


《…………そうだった…………》


 地の底から、空の彼方から、世界の果てから。


 或いは、過去の始まりから、未来の終わりから。


 途方もない時空を越えた、ノイズ混じりの低音が響く。


《…………ヒトとは、斯くも小さきモノだった…………》


 それきり、興味を失ったかのように背を向けたそれ(・・)は、恐るべき速度で彼方へと飛び去った。


 黒雲は未だ晴れない。


 嵐は再び猛威を振るう。


 しかし、大いなる絶望は飛び去った。


 助かった、と誰もが思った。


 唯一、未だ半狂乱でもがいて空の一点を指差す赤子と、彼の姿を最も近くで見ていた女魔術師だけが、再びの脅威に気が付いていた。


「上ぇっ───!」


 警告は、間に合わない。


 リズは咄嗟に自身と夫を結界で包み、アランは咄嗟に妻を突き飛ばした。


 しかし、それでも。


 警告は、間に合わなかった。、


 嵐を割って飛来した巨石(・・)は、寸分違わず夫婦の下に迫る。


 リズの結界は一瞬の拮抗の後に破れ去った。


 そして。


 アランに突き飛ばされたリズは、下半身を潰された。


 リズを突き飛ばしたアランは、首から下を押し潰された。


 絶望に抗った二人が、いとも簡単に敗れた。


 最も厄介な二人を始末した存在は、悠々とその場に姿を現す。


 二本の脚で大地を踏み締め、右手に杖を持ち、左手をだらりと垂らし、一対の瞳はローブに隠れて見えない。


 それは、人間だった。


 恐怖と困惑の只中にいる村人と冒険者たちに、ローブの人物は訥々と語りかけた。


「その二人の子供を差し出せ。そうすれば、俺は(・・)お前たちを見逃そう」


 ゾッとするほど冷たい声。


 それでも、あの絶望を体験した後では、その程度は取るに足らないことだった。


「ふざけるなっ!アランさんも、リズさんも、俺たちにとっては恩人だっ!二人を殺したお前の要求など、何一つ聞いてやるものかッ!」


「そうよっ!この子は二人の忘れ形見。あんたなんかに渡す筈がないでしょうっ!」


 村人も、冒険者も。何度も村を守り、今度も自分たちを救ってくれた恩人の息子を守らんと奮いたち、赤子を抱く女魔術師の前を固める。


「………愚かな」


 一言の後、魔術が発動する。


 無数の風刃が、老若男女を問わず村人と冒険者をバラバラに解体していく。


 赤子を抱く女魔術師は、守護と風除けの二重の結界により、なんとか一命を取り留めた。その腕の中では、赤子が呆然とした様子で顔を青く染めている。


 そんな赤子に、安心させるように微笑んだ女魔術師は、自身のローブを地面に敷き、その上に赤子を横たえた後、一人立ち上がる。


「いつも、いつも守られてた。いつか恩返しをしようって、そう思っていた!だから、今がその時!例え死ぬだけだって分かってても、少しでも長くこの子を守るっ!それが、私の、私たちの誇りだからっっ!!」


 彼女の声に応えるように、傷ついた人々は身体を起こす。


「……そうか。先程の言葉は撤回させて貰う。一騎士として、私は貴君らを称賛しよう。……しかし」


 暴風が吹き荒れる。


 先の竜王が纏うそれにも見劣りしないほどの突風が、建物を、岩を、人々を巻き上げた。


「だからこそ、全力を出させてもらおうか。私にも果たすべき主命というものがあるのだから」


しばらく、赤ん坊のまま…お、親御さんたちの掛け合いを楽しんでくださいぃ〜(汗)


2022,8/17更新

本日更新分はここまでです。

一応、内容は全く別物になっている上に上書き更新をしている都合上、更新前の前書き・後書きの内容は本作とは一切関係のないものです。

それはそれとして。

しばらく、赤ん坊のまま…お、親御さんたちの掛け合い(シリアス)を楽しんでくださいぃ〜(汗)

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