ありふれたプロローグ〜答えは既にこの手の内に〜
初投稿です。
拙いところも多いですが、楽しんでくれたら幸いです。
2022,8/12更新
8/12に活動報告に記載した通り、既存の作品を上書き更新して連載していきます。
昔、男がいた。
何の変哲もない、至って普通の男だった。
彼は、世界を揺るがす偉業はおろか、近しい人々に影響を与えることもせず静かにその生を終えた。
昔、そんな男がいた。
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「まさか、ここまで追い詰められるなんてね……」
言葉とは裏腹な、喜びの感情は胸の内にひた隠す。
少し悔しそうで、それでいて称賛の意のこもる笑顔を作る。
「みんな、本当に強くなったんだね。………でも。」
青年は笑顔を歪め、彼ら彼女らを嘲笑した。
「そんなことには、何の意味もない。君たちは敗れ去り、この歪み切った世界は生まれ変わる。……これは、画定した未来だ」
言い切ると同時に、彼は指を鳴らした。
たちまち、その身体に刻まれていた傷の悉くが消え去り、ぼろぼろだった装備も元に戻る。
まるで、元から傷ついてなどいなかったように。
それでも諦める気配のない相対者達を睥睨した青年は、ひとりでに上がろうとする口角を押し留めた。
「………。あくまで抗うというのなら、是非もない。精一杯足掻くといいさ」
(………そして願わくば、この杓子定規な世界に終止符をうってくれ)
………………………………………。
…………………………。
……………。
そうして、彼は自身の存在意義を完遂した。
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いつか、女が現れる。
その偉業は世界に刻まれることはなく、それでもただ正義を為し続ける。
非凡な才を持ち、血の滲む努力を続け、立ち止まる術を忘れてしまう。
いつか、そんな女が現れる。
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「…残念。…でも、もうこれしかない」
淡々と、彼女は己の首に刃を当てた。
「…そんな顔しなくていい」
ほんの僅かに、ともすれば見落としてしまいかねないほどに小さく、寂しげな微笑を浮かべた。
「…あなた達は、最高の仲間。…今回もきっと、これが最善」
それでも、と平坦な口調で続ける。
「…この結果を、私は認めない。…認める訳には、いかない。…何百、何千の中で…初めて辿り着いた『今』が、この程度で良いはずないから」
仲間たちを見渡す。
皆、装備も半壊、心身共に疲れ果てた様子で、それでも女を止めようと動き出している。
その光景を嬉しく思いつつも、彼女は刃を握る手に力を込めた。
「…何度も、何度も、何度も、見殺しにしてきた。…何度も何度も、何回だって、私だけ逃げのびた。…ずっと目指し続けた『今』なのに、まだ私が生きてる。…本当は、あの時、消えるべきだった。…だから、今度こそ。…次こそは、ちゃんとする、から…」
知らず知らずに、涙が溢れる。
真実など知らなければ良かったと、心から思った。
それでも、結局自身が正義などではなかったことに変わりはない。
だから、この行動に迷いはない。
(………でも………。…最後に一回、会いたかった………)
この場にいない相棒の顔を思い浮かべ、それでも、彼女は自分の正義に殉じようとした。
2022,8/12更新はここまで