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サメナイユメ  作者: 下蔵寿光
開幕
1/272

ありふれたプロローグ〜答えは既にこの手の内に〜

初投稿です。

拙いところも多いですが、楽しんでくれたら幸いです。


2022,8/12更新

8/12に活動報告に記載した通り、既存の作品を上書き更新して連載していきます。


 昔、男がいた。


 何の変哲もない、至って普通の男だった。


 彼は、世界を揺るがす偉業はおろか、近しい人々に影響を与えることもせず静かにその生を終えた。


 昔、そんな男がいた。


====================================================================================


「まさか、ここまで追い詰められるなんてね……」


 言葉とは裏腹な、喜びの感情は胸の内にひた隠す。


 少し悔しそうで、それでいて称賛の意のこもる笑顔を作る。


「みんな、本当に強くなったんだね。………でも。」


 青年は笑顔を歪め、彼ら彼女らを嘲笑した。


「そんなことには、何の意味もない。君たちは敗れ去り、この歪み切った世界は生まれ変わる。……これは、画定した未来だ」


 言い切ると同時に、彼は指を鳴らした。


 たちまち、その身体に刻まれていた傷の悉くが消え去り、ぼろぼろだった装備も元に戻る。


 まるで、元から傷ついてなどいなかったように。


 それでも諦める気配のない相対者達を睥睨した青年は、ひとりでに上がろうとする口角を押し留めた。


「………。あくまで抗うというのなら、是非もない。精一杯足掻くといいさ」


 (………そして願わくば、この杓子定規な世界(・・・・・・・)に終止符をうってくれ)


 ………………………………………。


 …………………………。


 ……………。


 そうして、彼は自身の存在意義を完遂した。


====================================================================================


 いつか、女が現れる。


 その偉業は世界に刻まれることはなく、それでもただ正義を為し続ける。


 非凡な才を持ち、血の滲む努力を続け、立ち止まる術を忘れてしまう。


 いつか、そんな女が現れる。


====================================================================================


「…残念。…でも、もうこれしかない」


 淡々と、彼女は己の首に(・・・・)刃を当てた。


「…そんな顔しなくていい」


 ほんの僅かに、ともすれば見落としてしまいかねないほどに小さく、寂しげな微笑を浮かべた。


「…あなた達は、最高の仲間。…今回もきっと、これが最善」


 それでも、と平坦な口調で続ける。


「…この結果を、私は認めない。…認める訳には、いかない。…何百、何千の中で…初めて辿り着いた『今』が、この程度(・・・・)で良いはずないから」


 仲間たちを見渡す。


 皆、装備も半壊、心身共に疲れ果てた様子で、それでも女を止めようと動き出している。


 その光景を嬉しく思いつつも、彼女は刃を握る手に力を込めた。


「…何度も、何度も、何度も、見殺しにしてきた。…何度も何度も、何回だって、私だけ逃げのびた。…ずっと目指し続けた『今』なのに、まだ私が生きてる(・・・・・・・・)。…本当は、あの時、消えるべきだった。…だから、今度こそ(・・・・)。…()こそは、ちゃんとする、から…」


 知らず知らずに、涙が溢れる。


 真実など知らなければ良かったと、心から思った。


 それでも、結局自身が正義などではなかったことに変わりはない。


 だから、この行動に迷いはない。


(………でも………。…最後に一回、会いたかった………)


 この場にいない相棒の顔を思い浮かべ、それでも、彼女は自分の正義に殉じようとした。


2022,8/12更新はここまで

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