教室を出たらそこには森が広がる
「おいおいマジかよ・・・なんで廊下に繋がらないんだ・・・ここは校内じゃなかったのかよ」
と騒ぎ立てたクラスメートの一人の口から自然に漏れていた。
「ねぇ! なんなのこれ?なんかのドッキリ? マジあり得ないんですけどー」
また一人この現実に向かって意味があるのか定かではないがなんかの間違いだと信じて言い放った。
それに続いていきまた一人また一人と目の前にある現実に向かい言葉で抗ってみせた。
しかし、無情にも彼らの目線の先にあるのは何処まで続くのか分からない木々の道が連なるばかりだ。
「みんな落ち着いて! この異常事態については僕も分からないがとりあえず教室の中に戻ろう。今ここは僕たちの理解の超えた未知の樹海の中だ。今は安全がとれている教室の中で状況の確認をしよう。騒ぐのはそれからにしよう。誰か心当たりがある人もいるかもしれない。それに先生がいない今むやみに行動するのは危険だよ」
皆が騒ぎ戸惑っている中でいち早くこの状況に気が付いた人の言動だ。
それは、ついさっき学級委員長となりクラスのリーダー的存在になった國立理だった。
彼は一年の時からその才覚を発揮し、成績優秀、運動神経抜群という称号をほしいままにしてきて何をやらせても一流であり、そのためかこの学級委員長の任も推薦という形でついた。
まさに西洋近代思想ルネサンス期におけるミケランジェロ、ダーウィンのように天才が具現化したような万能人だった。
中身がそれほどのスペックを持っているにもかかわらずもその外見も何処かの俳優を思わせるような外見をしており、部類で言うとさわやか系男子だ。
そのためにか女子に告白されるのが後を絶たないという。
簡単に言うと早くもこのクラスにはヒーローが誕生してた。
そんな彼だからこそいち早くこの現実に直面したことを受け入れ、自分は今何を成すべきなのかを分析してクラスメートにその結果を伝えることが出来た。
そしてそれを聞いたクラスメートはまだ何人かは納得のいっていないような表情をしながらも自分の席に向かい、教壇の前に立っている彼に耳を傾けた。
その中にはちゃんと千慧も耳を傾けていた。
「これから今この教室に起こっている事についての状況確認と今後の事を話をしようと思う。異論はないね?」
それを聞いたクラスメートたちはちらほら頷く人もいれば彼をじっと見つめている人もいる。
ただ誰一人彼の話を聞こうとしない人などはいなかった。
朝に乱暴に入ってきた不良でさえもさっきの騒ぎでか今まで突っ伏して寝ていたがだるそうにしながらも顔を起こして耳だけは傾けていた。
「否定はないようだね。それじゃあ、まず今この教室に起こっている不可解な現象について知ってる人はいるかな?」
そう聞いた彼は生徒一人一人と順番に目を合わせていった。
勿論千慧やあの不良にも合わせていった。
△△△そん中の千慧はというと
やっぱりこんな世界はとてもとてもあやふやだったんだ。
目の前の現実がすべてを物語っている。
ふと視点を変え、観測方法を変えると今までの現実は夢幻のごとく瓦解していく。
生と死もそうなのだからこの世界だって同じだ。
例えば、世間一般的に言うと僕はボッチと言われている。納得はしないが陰キャとも言われたことがある。
しかしそんなものは誰か観測者の主観的な判断でしかなく、客観性のかけらもない。
元の地球上には生命なんて何百億と数えきれないくらいの生命が存在し決して僕一人だけが生きているのではない。周りには必ず生命が存在しきっても切れないくらいに密接にかかわっている。
陰キャだってそうだ、必ずしも僕がこの世で一番陰キャなわけがない。そもそも、陰キャという概念自体があやふやだ。そんなの自分で決めることしかできないからだ。他人を操る洗脳、他人を誘導するメンタリズムそれらをしている人でも完璧に他人を読み取れない。自分は自分でしか完璧には読み取れないんだ。
こうしている僕だって思考するときには独りでに饒舌となる。これで陰キャと決めつけるのは時期尚早であり、他人が決めつけるのはまず不可能。
それに加え、無意識なるものまで存在し自分も他人も誰にも観測できない意識までもあるさまだ。
然りこのことをある意味ミクロ、またある意味マクロにしたらその答えが見つかると僕は思ったんだ。
そうあの日に僕は
『この世は観測ゲーだ』
そう思ったから僕は最初に言った通りこの僕の視線以外はすべてあやふやで全てを観測しなければそこには何も無い空虚が広がっている。仏教の言葉を拝借すると『色即是空』が的を射ている。
それがこの騒動が起こる以前に僕が出した答えだ。
しかしながら、まだその時僕は自分で出した答えを観測が出来ていなかったようだ。
そう、先に触れた無意識の領域にて自分とは似て非なる存在超自我がただ単にその答えによる不安、寂しさを無理やり抑圧してその答えを納得していたのであろう。
その結論ゆえに僕自身の観測すら出来ずに何が観測ゲーだのうつつを抜かしていたのだと今になって気づいた。
だが今は違う。
不安、寂しさなどの一時的な些末な感情を払しょくするかのように自分の知らない世を今この時も観測している。
なので、やはりこの世はあやふやで不確実性で観測によっては二転三転移り変わるのだと確信が持てた。
観測の先にある何かを・・・
この世は、いいや、そのような言葉では幼稚すぎる。
虚無と無限が重なり合って・・・
『虚限之世』
その言葉が流れ、よぎり、思い、浮かび、そして口に出したところで・・・
自分に起こるであろう変化に身体が気づいて最後の砦である防衛本能が働き意識を手放していた。
しかし、机に突っ伏した形になっており、真剣な話をしている中気づく生徒はいなかった。
場面は話し合いに戻り
5分待ってもやはりこの不可解な現象を知っている生徒はいなかった。
もし予め知っていたのならこの状況のファーストコンタクトでみんなのリアクションをみた後種明かし、事の説明なり入るだろう。
なので、さっきの質問をしても出てこなかったのだからおのずとこれが現実なのだと再度痛感した生徒たちは先程より暗い顔になったのがちらほらいたのは必然であった。
「なるほど・・・これは何かの間違いだというのはない・・・か」
彼にもその事実は認めたくなかったがこの状況では致し方なかった。
「そうなるとここでの生活が余儀なくされることになる。でも、それは色々と問題が発生する。それをまずは解決していこう」
しかし、彼はそれも一瞬ですぐに気持ちを切り替えたのは流石であろう。
でもその言葉とは裏腹に一部の生徒は(特に女子は)彼の言った『ここでの生活が余儀なくされる』ということに戦慄を覚えた。
すると
「國立君、流石にここでの生活は無理があるんではないのですか? 教室は一つしかありませんし年頃の男女が一つ屋根の下だと更に不安にさせるのでは」
この学級の風紀委員である宮永葵が彼女たちの言葉を代弁したかのように質問を間に挟んだ。
御令嬢の彼女だからこそこの状況下において物おじせずに口を挟む肝、度胸が据わっている。
「勿論そうゆうことが発生してくるよね。でも、僕たちは今日の食料もままにならないでいる。だから一刻も早く食事の確保をしたいと思っている。なので周りの探索は必須だ。欲を言うと村や町にありつけたい。さすればこれからの方針もある程度めどがつくし、その問題も解決の糸口が見えてくるだろう。だから、その探索方法はできれば班に分かれて効率よく探索をしたい。見つからなかった時はその場合の食料、水場の把握もしたいからね。でも無理に探索をして欲しいとは言わない、でも多い方が生存率が高くなる確かなはずだ。だから皆この通り協力してくれないかな?」
その言葉の最後に合わせ國立理はみんなの前で頭を下げて見せた。
そして、彼がその頭をあげたら
「ま、それが賢明なのかもしれませんね」と宮永葵もそう判断した。
「よっしゃ! 探索やってやろうじゃないの!!」
「私絶対に町みつけてやるんだから! そんな生活が訪れないために!」
と頭を下げた甲斐もあり皆がこの状況の打破に向けて気持ちが一つになったその時――
バタンッ! バタンッ!
と二つの物が倒れるような音が教室に響いた。
教室中の生徒全員がその二つの音に視線を交差させた。
そこには一番後ろの両サイドにに座っている2人の生徒が倒れる音だった。
それはボッチでお馴染みの神凪千慧と先の会話に参加せず寝ており、千慧が不良と決めつけていた神無零が椅子から離れ床に倒れた音だった。
「か、神凪君!?」
と同じ所属である宮永葵が
それと
「神無君!?」
とクラスの学級委員長である國立理が
それぞれの呼びかけが教室に木霊した。
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