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異世界食料庫  作者: Alice
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異世界食料庫

これを読んだらお菓子が食べたくなる。そんなお話になったらいいな。

「よーし、作るぞー」

「おー」


どこか気の抜けた掛け声と共に私達は各々の作業に取り掛かった。

月曜夜11時過ぎ。特に祝日というわけではなく、世間では憂鬱とされる週の始まり。月曜から夜ふかししようなんていう番組名があるけど、一般的にはそろそろ寝る支度をしたり、明日に向けてもう寝ている人たちもいることだろう。


「姉上ー、アーモンドプードルの賞味期限がほぼ切れている」

「ええ、いつまで?」

「一昨日だな、いちおう未開封だぞ」

「捨てるのもったいないなぁ……、フィナンシェも作ろっか」


ガサゴソとオーブンレンジの下の収納棚を漁るのは弟の花咲紫苑。弟は調理前の材料準備担当。


「あれ、口金どこやったかな」

「仕舞ってないんじゃないのか?」

「思い出した、面倒くさくてクッキーの型と一緒にしちゃったんだ」


だから無くすんじゃないかねと、流しの上の棚からクッキーの型入れを取り出す私に紫苑が言い捨てる。分かってるけどここ数日忙しかったんだもん。ダイニングテーブルの上には砂糖、薄力粉、バター、卵と次々と材料が揃っていく。私は調理器具準備担当。必要なものが出揃い次第それらをレシピ通りに計量して並べていく。


「あ、姉上大変だ」

「なした?」

「フィナンシェまで作ると卵が足りん」

「なんと」


予定外のものを作ろうとすると度々ある材料不足。けど、卵ならコンビニでも売ってるはずだ。


「ちょっとコンビニ行ってくるね」

「じゃあできるとこまで先にやってるぞ」

「よろしく」


ぱたぱたと手を振る弟に見送られ、エプロンを外し椅子にかける。手に取ったスマホの液晶には23:15と表示されている。コンビニまで大体5分くらいだから戻ってきたら30分くらいか、さっさと買って帰ってこよう。

足りないものが卵でよかった、流石にバターとかだったら作るの諦めてたな。

コンビニのコンビニエンスさを感じながら、私、花咲沙羅は深夜のお菓子作りに向けて卵を入手すべく、薄暗い廊下の先にある裏口の戸に手をかけた。


はずだった。


「あ、れ……」


コンビニに行くだけだったので、裏口においてある適当なサンダルを履いて、9月の終わりだからちょっと寒いかな、なにか羽織ってくればよかったかななんて思ってたのに、扉を開けても真っ暗で、見えるはずの裏庭の植物たちの影も形もない。6時間くらい仮眠はとったけど夜勤明けだったから疲れてるのかななんて考えて1度扉を閉める。

コンビニは家の裏の通りだから裏口から庭を突っ切って出て行った方が早い。パシパシと瞬きをして、目をこすって、深呼吸をして、よしと気合を入れてからガチャりと扉を開けるけど、やっぱり暗闇が広がるばかりで物事は何も進展していなかった。

異様な事態に心臓が跳ね上がる。なんだ、何が起こっているんだ。裏口のコンクリート打ちっぱなしの部分から、本来なら外へ繋がる部分へ、大着して明かりをつけなかった廊下を通して部屋から漏れる薄暗い明かりが差し込んでフローリングみたいなものが見える。じっと目を凝らしても何も見えてこないため、恐る恐るスマホの液晶で暗闇を照らすと、物置のような空間であることが分かった。


「何ここ、え、実は裏口は物置だったの?」

「姉上?もう帰ってきたのか?」

「紫苑!なんか裏口無くなってるんだけど!」

「んん?ちょっと待ってトイレしてくる」


おお、マイペースな弟よ……。

弟はトイレに行ってしまったため、仕方なくひとりで裏口の向こう側をのぞき込む。流石に足を踏み入れる勇気はなくて、できる限り身体を入れないようにあらゆる角度で液晶のライトを当ててみたけど、中の様子まではっきりと見ることは出来なかった。ジャーというトイレの流れる音に過剰に驚いて飛び上がると、トイレから出てきた弟が懐中時計を手にしてやってきた。


「これは……、よく分からない事になってるな」

「状況を把握した状態でトイレ行ってたんかい」

「だって、生理現象、仕方がない」

「ここ裏口だったよね?」

「少なくとも三日前には使ったな」

「リフォームとかした記憶ないし」

「父母ならやりかねないけど、オレははずっと家にいたから流石に気づくと思うぞ」


海外出張ばかりの両親とはここ数ヶ月直にあってはいない。メールやテレビ電話でのやり取りは頻繁にあるけど、両親共々抜けていることがあって、 過去に連絡もなくよく分からない海外の置物が送られてきたり、いきなり冷蔵庫二つ目とか送ってきたことはあったけど、流石に娘に何も告げずに住んでいる家をリフォームなんてしないだろう。しかも、裏口を倉庫にするという地味な。


「とりあえず中を見てみよう」

「え、ちょっと待って」


怖気もせずに懐中電灯片手にズカズカと暗闇の中を進む弟の背中が逞しい。慌てて私も追いかけようとしたけど、ふと思いとどまり片足だけ踏み込んでドアが絶対に閉まらないように抑えつつ懐中電灯の明かりで照らされた物置の中をぐるりと見回した。


「姉上、なにを?」

「だって、急に扉しまって閉じ込められたら死ぬじゃん!」

「海外ドラマ見すぎでは?ふむ、不思議なものばっかりだな」


6畳ほどの部屋と言うには少し手狭な、物置と言うには広めな空間には壁一面に棚があり瓶や缶、乾燥したハーブが吊るしてあったり、床には大きな樽や麻袋が置いてある。それだけ見たらほんとにただのカントリー風な物置なんだけど、弟が称した不思議とはラベリングされたものだろう。明らかに日本語ではなく、英語でもなく、アジアの言語では見たことがなく、かと言ってアラビア語のようなどこがどう繋がっているのかわからない文字でもない言語が書かれて綺麗に並べられていた。


「何入ってるのか全く想像出来ん」

「海外のパントリー見たい」

「パントリー?」


手近な瓶を手に取り紫苑が首を傾げる。食料庫(パントリー)、キッチンに繋がる小さな部屋に調味料や常温保存できる食材のストックなどを置いておくための部屋。日本ではあまり見かけない部屋だけど海外では割とあるし、最近はDIYとかで作るのも流行ってるらしい。まぁ、うちにはこんな洒落たものないですけど、キッチン下収納開けたら色んな調味料のストック流れ落ちてきますけど。

ずらりと並ぶ珍しいものに目を奪われた私達は、自分たちの入ってきた扉の向かい側の壁が扉になっているのに気がつくのが遅れた。そして、その扉の向こうから誰かが近づいて来ているのにも。


「だ、誰かいるんですかぁぁぁぁあ!!!」


バターン!!!そんな激しい音を立てて開いた扉から出てきたのは。


「ひいいいい、誰ですかあなた達は……っ」


私たち姉弟を見て盛大に腰を抜かした、丸メガネの黒髪美少女でした。

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