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ゾンビは嗤う  作者: アークアリス
第1章 動き出した理不尽
9/29

#008 それでも世界は廻る

お久しぶり。

人生って忙しいですね。

彼みたいに自由に生きたいものです。

軽く文字数5000弱です。

『求めよ、さらば与えられん。

 たずねよ、さらば見出だせん。

 門を叩け、さらば開かれん。

 すべてを求むるものは得、たずぬる者は見出だし、門を叩く者は開かるるなり。』


かの新約聖書にはこんな一節が存在する。


これは要するに、『行動する者に成功は訪れる』と言うことを長ったらしく書いているのだ。


確かに可能性は高まるかもしれない。


しかし世の中は非情だ。必ずしも求めるものに訪れるとは限らない。


そして求めない者には訪れないとも限らない。


そんな中、あらゆるものを求めてやまない一行が存在する。


その名も、『勇者一行』。


勇者とは、『勇敢なる者』もしくは『勇気ある者』を縮めた言葉で、大抵の場合、人間社会と言う色眼鏡にさらに偏見の色眼鏡を重ね、自分勝手で一方的な正義を振りかざしている場合が多い。

決して正義なる者では無い。


そして、『あらゆるものを求めてやまない』と言う言葉に過言は無い。


彼らはその地位を乱用し、ありとあらゆる民家、王城から平民の家、馬屋、果てはスラム街まで、虱潰しに不法侵入を繰り返し、略奪を繰り返す。


その欲望は民家に留まらず、神具や神装が保管されている宝物庫や神聖なる神殿、貧困なる病院であっても慈悲は無い。


そこに置いている方が悪いと言わんばかりに根こそぎ奪っていく。


質の悪いことにそれが当然であると一行全員が信じ切っている。

そして拒む者は絶対悪であると切り捨てる。


確かに彼ら一行は人に仇名す魔王に立ち向かい、それを滅ぼすという運命を手にする可能性を持っているかもしれない。

自身を圧倒的に強化する専用武具を身に着ける才能を持っているかもしれない。


しかし、それ以外は只の人であり、それによって魔王を凌駕するのは一重絵に神が優遇しているからである。


勇者に関する様々な常識の中で、突出して狡いことが一つある。


『勇者は死なず、一行は金で甦る』


奴隷制度を非難する一方で、金によって魂を引き渡す神と教会は何も言わず利用するその姿勢は、つまみ食いを諫めながら、量り売りの食料品を無銭で食べる行為に等しい。


一般人、および一般キャラであっても、『不死』『仲間蘇生』が可能であれば十分魔王討伐は可能なのである。


敵対勢力の弾圧を敢行し、他者の幸せを顧みず、たとえ同族であってもその資産は分捕り、魔王討伐と言う大義名分の下好き放題の勇者に少なくとも正義は存在しないだろう。


自身の技量向上のためたとえそれが聖なる生き物だったとしても嬉々として狩り尽すその姿はまさに暴戻の一言。


『勇者』と言う言葉に文字通りの意味以上の意味は存在しない。

神聖さの欠片もない。


この世界に勇者と言う(ジョブ)は存在せず、周りからそう呼ばれるか、自称かの二つに一つしかない。

そして、そんな勇者な行動ができ、王族すら命令できない存在が『Sランク冒険者』だ。


冒険者のランク付けはその身に内包する魔力量によって決定するが、Sランク冒険者として認められるために必要な魔力量は常人の比ではなく、例えるなら『コップ一杯の水と大河』並に差がある。


余談だが人間のSランク冒険者と全魔物中五本の指に入る(死皇帝)との魔力量の隔たりは『一粒のビー玉と全宇宙』程度である。


ともかく、量に勝る個であることがSランク冒険者に求められる力であり、実際持っている。


そんな自分の力に増長する者が周りに勇者と祭り上げられればどうなるか?

基本的に自分を律する心の薄い生き物が人間と言う生き物だ。


『何をしても許される』


そう勘違いする輩が必ずと言っていいほど出てくる。


たまたま森を沿うように引かれている街道を歩いていた死んだ目付きの(死皇帝)の眼前にもまさにそんな豪華な装備のSランク冒険者二人が徒党を組んで街道を通っていたのであろう商人の馬車を横転させ中を物色していた。


「おいレックス!何か目ぼしい物はあったか?できればなんかこう、身体能力上昇系のアイテム!」

「ちょっと待ってろ!今探してる!」

「止めて下さい!そこにはこれから納入する商品が入ってるんです!この縄も解いて下さい!!」

「ギャーギャー煩いんだよ!俺らSランク冒険者が頂くっつてんだ!感謝されども喚かれる覚えはねえ!!」

「それともなんだ?神聖なる勇者である俺たちに仇名層ってか?アアァン?!!」

「ヒッ!え、え、Sランク冒険者だからってそんなことが許されるわけがない!!!あなた達は只の、盗賊だ!!!!」


次の瞬間、商人の首が飛んだ。物理的に。


大きく放射線を描きながら飛んだ商人の頭はそのまま森に落下し、たまたまそこに居合わせたゴブリンに喰われた。


「あ~あ、殺しちまった。ったく、只差し上げるって行為が何でできないのかねぇ?」

「ほんと、馬鹿な奴。」

「お!これは暴風の首飾りテンペスト・ネックレスじゃねえか!!流石だぜ、商人のおっちゃん!って、もう死んでたか、アハハハハハ!!」

「どっちみち殺してただろ!!白々しいぜ、まったく。」

「アハ、そうだったな!生かしてたら評判が堕ちるかもしれねえもんな!前言撤回だ!」


Sランク冒険者の絶対数はそこまで多くはないが、それでもこういう事態はここ最近各地で頻発している。


そしてその現場を商人の娘が訪れるという悲劇も、得てして起こるものである。


「こ、これは何?!何が起きたの?!」

「ん?なんだ?おっ、カワイ子ちゃん発見!」


そして目に入る頭の無い父親の死体。


「なんで、なんで、なんでお父さんの、お父さんの頭がないの??!」

「ああ、君、娘だったのか。何故ないかって?そりゃ勇者である僕たちに口答えしたからだよ。当然だろ?神聖なる僕たちに口答えなんて神に背く行為だ、死んで当然殺されて当然だ!」


まさに鬼畜の所業である。

ああ神よ、彼女に祝福を、彼らに(わざわい)を。

そんな願いも脱無しく時は過ぎ話は進む。

少女(商人の娘)彼ら(勇者ズ)に罵詈雑言を投げつけるが暖簾に腕押し糠に釘、どこ吹く風と取り合わない。

何故なら彼ら(勇者ズ)にとっては自分たちこそが正しく商人が間違っているのだから。商人が自分たちに死んで詫びた程度にしか思っていないし、それが当然の行いだと完全に信じている。


「さて、君の戯言も聞き飽きたし、そろそろ君もその罪を償うべきだと思わない?」

「罪?!罪があるのはお前達でしょう!!!」

「その物言い、先ほどの侮辱、父親の敵対、どれをとっても君の死罪を示しているじゃないか!そろそろ借金返済の時間だよ。」

「容赦ないな、レックス。」

「君も同じだろ?」

「ちげえねえ。ワハハハハハ。」


数メートル離れていた距離を一瞬で踏破した勇者の片割れ(レックス)の手には既に聖剣ダーティが握られていて、コンマ数秒後には彼女(商人の娘)の魂を至極あっさりと刈り取るところまで迫っていたが、それをはじき返す者がいた。


(死皇帝)、ではない。


「大丈夫かい!イブ!」

「アダム!!」


まさに神のお導き。運命の女神(バカ)は今回はまともな人選をしたようで、商人の娘(イブ)の婚約者で、黄金龍の血を引く龍人である(アダム)を間一髪と言うまさにここぞというタイミングで導いたようだ。

(死皇帝)は未だに茂みの中から死んだ目付きで状況を伺っている。


「ほう、卑しい魔物の血を引く亜人、それもレアな黄金龍の龍人じゃねえか!!こいつは奴隷にした方が金になるんじゃね?」

「ああ、じゃあ―――」


勇者ズは二人(アダムとイブ)そっちのけで皮算用を始めたが、二人(アダムとイブ)はより一層憎悪を募らせ、アダムは堪えきれず勇者ズに切り掛かった。


「イブを泣かせた罪、死んで償え!!」


(アダム)も中々ぶっ飛んだ考えをしているが、これが若気の至りと言うやつなのかもしれない。

しかし、腐ってもSランク冒険者である勇者ズ、田舎者の一太刀を受けるほど馬鹿ではなく、危なげなくそれを躱した。


「ったく、もちっと静かにできないのか?赤子じゃあるまいし。」

「こいつらには無理無理!勇者に切り掛かるようなやつにそんな理解力求めても意味ないよ。」

「そうだな。そんなことに疑問を抱いた僕がバカだったわ!アハハハハハ!!」

「っく、こいつ!!」


心意気は勇ましくまさに勇者と言っても過言ではない(アダム)ではあったが、善戦虚しく勇者の片割れ(ソラリオン)の麻痺魔法を受けて地面に突っ伏してしまった。


「さて、それじゃこいつら売りに街へ行くか!」

「おう!」


そう掛け声を上げた時にガサッと茂みから現れる影。


「「誰だ!!」」


満を持しての登場、そう、(死皇帝)である。


「なんだ?てめえ。隠れていればよかったものを。正義感に駆られて出て来たってか?」


勿論そんなことはない。

確かに生前の彼は人間だったかもしれない。そして今もその頃の記憶を朧気に持っているかもしれない。

しかし、彼は既にゾンビ(魔物)であり、しかもその最上位種、なおかつ魔物最強の五柱の内の一柱である。

人に対する哀れみなど持ち合わせていない。


「それともなんだ?この少女と亜人を奪おうってか?」


それも違う。たとえ奪ったとしてもエナジードレインの魔法で吸収するしか利用法が無く、特に欲している訳では無い。


「チッ、黙りやがって。」


答えは、勇者ズが身に着けているレアな武具防具装飾品(希少品)である。

何故このことが勇者ズの頭から抜けていたかと言うと、神聖なる勇者の物を奪うなど考えられない行為であり、そんなことは有り得ないと考えたからだ。

自身の略奪行為の数々を棚に上げてのこの思考、正義など存在しないことを顕著に表している。


所で、勇者ズは(死皇帝)が出てきてからもその表情に特に変化は見せなかったが、実は内心かなり焦っている。

先ほども述べたが、いくら性根が腐っていようと勇者ズは共にSランク冒険者であり、その実力だけは折り紙付きだ。

そんな自分たちが一切その接近を察知できなかったことに驚愕していた。


「なあおい、どうする?勝てると思うか?※念話」

「忌々しいが隠密にかけては上だと認めよう。しかし、見えてしまえばこっちのものだと思うが?※念話」

「念には念を入れて転移魔法で離脱すべきだと思う。※念話」

「お前の勘は妙に当たるからな。1,2、3のタイミングで転移するぞ。※念話」

「おう。※念話」

「「1,2,3!※念話」」


「「!!」」


次の瞬間彼らの表情は次こそ驚愕で染まった。

何故なら、転移魔法は発動されたはずであるにもかかわらず転移自体は行われなかったからだ。

いや、転移自体は起こっている。

ただし、(死皇帝)が干渉魔法で勇者ズの行使した転移魔法に干渉し転移先を遠方から現在地に変更したのだ。


もちろん、只の魔術師に真似できるような所業ではない。

数千年にわたり魔力をその身に蓄え、ゾンビ系最上位と言う魔法の行使に秀でた(死皇帝)であるからこそ可能なのである。


間髪入れずに行使された(死皇帝)のエナジードレインの魔法で勇者ズとリア充は塵と舞い、その場には勇者ズが身に着けていた希少品だけが残った。


売り払えば国一つ等易々と買い取れる程の希少品の数々に、死んだ目付きで破顔する(死皇帝)


全く持って必要はないが一応今回(死皇帝)のコレクションに加わった逸品をご紹介。


『神槍グングニル』―神力を宿した、勇者ズには勿体ない逸品。

『拒絶の意思イージス』―こちらも神力を宿した素晴らしき楯。

『天使の卵』―見た目はインペリアル・イースター・エッグに酷使している写真入れ

『犬の卵』―奇跡の一品。


いつもと変わらず運命の女神(バカ)の思い通りにはいかない世界で、今日もゾンビは嗤う。

次話は一人称視点にでも挑戦しようかな~~

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