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ゾンビは嗤う  作者: アークアリス
第1章 動き出した理不尽
2/29

#001 全てはここから始まらなかった

ただのゾンビから、同格の魔物が片手で数えるほどしかいない死皇帝(ナインゼーレ・カイザー)に数千年の月日を経て進化した彼は今、とある一行を見ながら嗤っていた。


見るからに立派で、しかし一台しかない豪華な馬車が、身なりは盗賊のそれだが絶対近衛兵とかその類だろうというような身のこなしな者達に襲われていた。


騎乗した、近衛兵のような身のこなしの自称盗賊は正確無比な槍の一撃を隣で並走する豪華絢爛な馬車に向かって放っていた。


馬車の中の少女を取り囲むように配置されている護衛がその槍撃をきれいに磨きこまれたバスターソードでいなしつつ、反撃のチャンスを伺っていた。


その様子を(死皇帝)は転移魔法を繰り返し行使しながら眺めていた。


始めは盗賊(?)と護衛の技量が拮抗しているように見えていたが、どうやらそういう訳でも無い様で、徐々に護衛が押され始め、ついには盗賊(?)が馬車を曳く馬の前に放り投げた、それもはやバケツだろと言いたくなるような巨大な火炎瓶の爆発の衝撃とそれに驚いた馬によって、馬車は横転した。


そのまま走り続け姿勢を立て直すような高等な機構が備え付けられているわけでもなく、普通に摩擦で停止した馬車から護衛と少女が飛び出す。


少女にお付きの世話係も数名いたかもしれないが(死皇帝)にとってはどうでもいいことだった。


仮に彼が正義感溢れる好青年、もしくは冒険を始めたばかりの夢見る愚か者ならば、見るからに劣勢な少女側に立ち、盗賊風近衛兵を相手に大立ち回りを始めたのかもしれない。


しかし、実際その様子を観て嗤っていたのは、ゾンビの親戚である死皇帝(ナインゼーレ・カイザー)であり、少女を助けるなどと言う選択肢は端から論外だった。


そうこうしているうちに護衛が一人また一人と倒れていく。


「姫様、お逃げ下さい!ここは私たちが食い止めます!」


まだ若い護衛の内の一人(エンファン)が叫ぶが、未だ幼さが抜け切らないシルフィア()には何が正しいのか判断が下せず、オロオロするばかりであった。


「姫様!!早く!!!」


判断が苦手な人間という人種は強く命令されると何も考えずにそれに従うことが多い。


かくいう姫もそんな人種の一人だった。


しかしながら、もはや手遅れとも言える。


完全に囲まれているこの状況で姫単身で包囲網を突破し身の安全を確保するという一連のプロセスを完遂できるような甘い状況ではもはやなかった。


「すまないが、貴方が生きていると色々と面倒なのだよ。大人しく死んでくれ!!」


(死皇帝)は今までに辺境へ逸れてきた幾多に人間の記憶を喰ってきたため、平民から上位貴族、果ては王族の生活まで頭に入っており、人間社会の構造は一通り認知しており、それらを用いて嗤いながらも眼前で起きていることについて考えていた。


眼前で現在進行中の出来事は「立場の違いによる正義の違い」を表しているように、一見見えなくもない。


しかし、国と言う大きな流れから見れば、どちらが倒れる方が国として正しいかは自明である。


勿論、少女とその護衛が歴史に日の目を見ることなく、ここからすべてが始まることもなく土に還る事こそが正しいのである。


改めて言うが、仮に(死皇帝)が好青年もしくは駆け出し冒険者であれば、ここから物語が始まっていたかもしれない。いや、運命の女神はそれこそを求めていた。


そして訪れる混沌の時代と新たなる英雄を。


しかしながら再三述べることになるがそこに導かれたのは死皇帝(ナインゼーレ・カイザー)である。


なるほどその容姿は好青年のそれである。

その身に内包する魔力量は歴代の英雄の比ではないだろう。


しかし、人間ではない。


さながら提出された履歴書を大して見もせず、顔だけ見て判断を下す不真面目な面接官よろしく見た目で判断したのだろう。


端的に言って馬鹿である。


ゾンビの親戚と人間の好青年を間違える運命の女神など馬鹿としか言いようがないが、事実そうなのだから仕方がない。


全ての護衛が倒れ、後に残ったのは少女と盗賊風近衛兵だった。


「し、死にたくない!!!!」


その少女の心からの叫びに反応したのか、はたまた自分のミスを棚に上げ、自身の権能のミスに焦りを募らせたのか、運命の女神による光の柱が少女の傍らに降り注ぎ、そこに現れたのは(死皇帝)だった。


少女は気体の眼差しを、盗賊風近衛兵は警戒の眼差しを(死皇帝)に注ぐが、(死皇帝)は無言で吸収魔法の一種であるエナジードレインの魔法を周辺一帯に向けて行使した。


エナジードレインの魔法は、相手の力と言う力を根こそぎ吸い取る力で、生命力、魔力、知力、抵抗等、ありとあらゆる力が行使者の糧となる。

死皇帝ナインゼーレ・カイザー程にもなると、やろうと思えば山一つ吸収することもさして苦労とはなり得ない。


結果的には彼の周辺は不毛の土地となり、そこにいたはずの少女達は影も形もなかった。


こうして、英雄譚の誕生は塵と消えたのであった。


そもそも、一般市民は混乱など望んでいない。

権力に手が届きそうな者や、後ろ暗い者、腹黒い者は別かもしれないが、平民や農民は安定した生活を望むのであって、義勇詩人の語りにお金を投げつけるぐらいなら日々の生活に回したいのが本音である。


運命の女神によって押し付けられそうになった動乱の時代を回避した世界で今日もゾンビは嗤う。

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