#014 意趣返しは程々に
時間があったので早めに更新
基本は不定期更新です
どうぞお楽しみください
例えばあなたは味噌ラーメンが食べたかったとする。
ああ食べたい、ああ食べたい、そう思った貴方は店員になんと頼むか?
当然「味噌ラーメン一つお願いします。」だろう。
ここで「塩ラーメン一つお願いします。」と言ってしまえば、たとえどれだけ味噌ラーメンが食べたくとも味噌ラーメンが運ばれてくることは無い。
そしてそのことは仙術の詠唱にも言えることだ。
仙術には詠唱のみの術と詠唱と魔方陣を組み合わせる術が存在するが、どっちにしろ一字一句間違えずに詠唱する必要がある。
そしてここに間違った詠唱によって使い魔として呼び出された者がいる。
そう、彼のことだ。
もし彼が自尊心の高い高慢ちきな野郎だったなら、今すぐにでも辺り一帯が消し飛んだだろう。
一応、使い魔召喚の魔方陣には召喚した魔物の思考誘導と隷属化の効果があったが、魔物と言うより既に神である彼にそんなものは効果が無く、行ってしまえば自由である。
尤も、ある程度高位の魔物になれば同じように自力で抜け出せるのだが。
基本的にこのような事態は起こらない。なぜなら詠唱で格下の魔物を選択するように調整しているからだ。
彼を呼び出した少女、諏郷杏沙は詠唱途中に噛んだ、それが全ての元凶なのだが、ちょうど格下の魔物を選択する部分だけに綻び生じ彼が召喚される運びとなった。
実を言うと彼はあまり怒ってはいない、むしろ感謝しているぐらいだ。
何故なら、ちょうど自分がやらかした事態から逃げたいと考えていたタイミングであったからだ。
何とも迷惑極まりない奴である。
そんな彼は眼前に立って何か話しかけてくる少女を死んだ目で眺めている。
必死に話しかけてくれているようなのだが、生憎彼が知っている言語では無い様で、何を言っているのか分からない。
「♯%#%$""#&$%&$'!!」
全く持って意味不明である。
奥に見えていた扉が開き数人の人間が同じく意味不明な言葉を発しながら入ってくる。
入って来た少女が彼を召喚した少女に慰めるように話しかけ、もう一人の高身長女性が手に黒い板を持って少女に見せながら何かを語っている。
ふと念話らしきものが来ていることに気付いた彼はそれに意識を傾ける。
「*******」
聞こえなかった。
これは念話ではなく隷属化の時に作られる精神を繋げるパスによるものなのだが、彼にとってはあまりにも弱弱しすぎた。
更に意識を傾ける。
「**で***?」
少し聞こえた。
意識を傾ける事20分、ついに彼は正しく聞き取ることに成功する。
「何ができるの?」
高身長女性が可哀そうな目でこちらを見ていることに気付いた彼は少しイライラしたが、なぜそんな目で見ていたかと言うと、彼から一切の仙素が検出されなかったからだ。
彼が生まれ育った世界では強さの指標は内包魔力量と戦闘技能、付け足すならば生来の特性だ。
対してこちらでは内包仙力量である。
詠唱を正しく終えていたならば使い魔として召喚される魔物の元の世界も仙素に溢れた世界なのだが、噛んだ影響はここにも表れていた。
例え彼がどれだけ仙力を高めたいと願っても、それが叶えられることは無い。
何故なら、彼の体内に入った物質は全て魔力に変換されるからだ。
勿論、神力や天上界の大樹等、一部例外も存在するが、仙力はその一部には入らない。
未だに可哀そうな視線を投げかける女性にちょっとばかし意趣返しをしたいと彼は炎雷魔法を行使することにした。
地下迷宮を貫通させた時よりも魔方陣の数を増やし、総数100枚を超える魔方陣を展開し少女2人と高身長女性の反対方向に炎雷魔法を行使した。
この時より、彼を召喚した杏沙は歴史の教科書で『破滅を呼ぶもの』として記載されることが決定した。
彼の炎雷魔法で日本の実に3分の1が壊滅したからだ。
使い魔が暴れた時のために特注で作られた特殊強化防護壁はその殆どが塵と化し、眼前に広がる風景に倒壊していない建物は地平線まで存在していなかった。
目視できる範囲の約8割が火の海に覆われ、周囲一帯では炎雷魔法の雷属性効果により電子機器の類も甚大なダメージを負っていた。
死んだ目付きでニヤリと嗤った彼は驚く表情を期待して後ろを振り返ったが、後ろの3人の表情は蒼白だった。
弱弱しく彼に隷属化のパスで杏沙が話しかけていたが、それが煩わしかったのか彼はそれを一方的に切断すると、改めて彼側から杏沙へと念話を繋げた。
普段の彼なら人間と念話を繋げたりしないのだが、こちらの世界に呼んでくれた恩とどうして顔面蒼白なのかが気になって繋げたのだ。
尤も、たとえ念話で繋げたとしても彼から話しかけるつもりはなかったため完全に相手任せではあるが。
彼が隷属化のパスを切断後、自分を呼び出した少女が何かを呟いた瞬間3人の間で緊張が走ったが、言葉の分からない彼には、一々そのようなリアクションを取る彼女らを面白そうに無表情な死んだ目で見ていた。
少し待っていたがいっこうに念話が送られてこなかったので少し気落ちした彼はメモリードレインの魔法とエナジードレインの魔法を行使し周囲一帯を球形に削り取ったような地形に変えて飛行魔法で新世界へと飛び立った。
たった一回の使い魔召喚事故により70000000人の命が失われたこの出来事は仙術発展史上最大の事故として後世に伝えられている。
かつてにも使い魔召喚事故は度々起きているがここまで大ごとにならなかったのには理由がある。
世界には神がいる。これは不文律であり、全ての神を失った世界は即座に崩壊が始まる。
よってこの世界にも神は存在しており、基本的には大ごとになる前に神の介入があったため大事故にはならずに済んでいたが、今回は呼び出されたものが上位神であったため神の間に混乱が生じた。
下界への干渉を最低限に済ましていたため信仰心や経験を積むことが皆無に等しく、神としての技量に磨きが掛からなかったために上位神が一人もいなかったのだ。
現在も遠隔で地上を見守るだけで誰一人として彼に関わろうとする者はいない。
そんなことは露知らない彼は上空から地上を見下ろしていた。
元の世界は彼ほどではないにしても強者の気配が至る所から出ていたものだが、この世界では全く感じない。
それもそのはず、この世界にも魔法と似た仙術があるものの、基本的には科学技術があるため自身を驚異的に鍛えるということが少なく、進化の過程で元の世界のように凶暴な魔物も生まれなかったため、総じて弱い世界が出来上がったのだ。
しかしながら彼の現在のやる事は希少品収拾であるため、そんなことは一瞬の内に忘却の方へ飛び去って行った。
明らかに違う服装を先ほど喰った記憶をもとに創造魔法で作り直し転移魔法で路地裏へ移動し何食わぬ顔で人々の波に混ざる。
喰った記憶をもとに希少品が集まりそうな場所、すなわち『博物館』へと歩みを進める彼。
何もかもが目新しく、人ばかりでうんざりな世界で、今日もゾンビは嗤う。
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