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ゾンビは嗤う  作者: アークアリス
第1章 動き出した理不尽
1/29

#000 Prologue

始めはただのゾンビだった。


何処にいても可笑しくない、動く死体。


特に人の死体で発生しやすく、彼もまたそんなありきたりなゾンビだった。


生ある者を憎み、本能の赴くままに暴力を振り抜く。


翳すのではなく、振り抜く。


ゾンビと言うのは弱点も多く、一個体としては弱いモンスターと言える。


しかし、常に周囲の魔力を体内に取り込み続けるという特性を持つ。


大抵は弱いただのゾンビの段階で低級冒険者に打倒される。


それはもう、あっけなく。


ただ、彼は運が良かった。


魔力を取り込み続けた彼はゾンビからゾンビ・メイジに進化した。


要するに、彼は微かに魔力を扱えるようになったのだ。


かと言ってそこまで強くなったわけでは無い。


身体の腐敗具合も特に変わらず。


人気のない草原をさまよい続けていた。


それから数年の月日が経っても、彼はまださまよい続けていた。


これは極めて珍しい事である。


たまたま飢饉が訪れたこと、たまたま戦争が立て続いたこと、要因は色々あったかもしれないが、それでも彼は生き続けていた。


彼はハイ・ゾンビ・メイジに進化していた。


大量の魔力を体内に内包し、そこそこの冒険者と渡り合うぐらいにはなっていた。


大量の魔力は体にも変化を(もたら)しており、身体の腐敗具合が少しましになり、腐敗臭が少し減っていた。


しかしながら、彼は本当に運が良かった。


普通ならハイ・ゾンビ・メイジは発見次第すぐに討伐隊が組まれ駆除される。


ハイ・ゾンビ・メイジ自体はそこまで脅威ではないが、その先が問題だからだ。


ハイ・ゾンビ・メイジが進化するとリッチになる。


リッチになると警戒心を持つようになり、討伐が困難になる。


のみならず、魔法の扱いに長けるようになり、上級冒険者相手でも一対一では退けることが出来るほどだった。


そして彼はリッチになっていた。


彼の警戒心はリッチの中でも特に強かった。


それから100年、200年と時が過ぎ、魔力を取り込み、それでも人に知られることなく辺境の地をさまよっていた。


勿論人間に全く見つからなかったわけでは無い。


と言うよりも確実に倒せると判断した人間の前には時折姿を現しその者が持つ魔力を貪っていた。


魔力を貪られた者はボロボロと風化し、風に舞っていた。


何時しか彼は死之王(ノーライフ・キング)に進化していた。


身体からはほとんど腐敗臭がしなくなり、体の血管には魔力が通っていた。


また、知性を持つようになり、あまり生ある者を憎む意識が表に出なくなってきていた。


死之王(ノーライフ・キング)は暫く時が経つと生前の記憶を思い出すことがあるが、彼は朧気にしか思い出すことが出来なかった。


仮にしっかり思い出していたならば、自身の力に酔い、そして特級冒険者と呼ばれる者たちに討伐されていたかもしれない。


しかし、前述のとおり彼は朧気にしか思い出さなかった。


それが幸いしてか、彼は徘徊を止め、薄暗い穴倉の奥でじっと佇んでいた。


夏が来て、秋が来て、冬が来て、春が来て、また夏が来る。


数千年の時が経ち、彼は死之王(ノーライフ・キング)のさらに先、死皇帝ナインゼーレ・カイザーへと進化していた。


死皇帝ナインゼーレ・カイザーとは言っても、そのような魔物は人間史に未だかつて現れたことがなく、はっきりと意識が覚醒した彼が自分自身に名付けただけであったが。


この段階になるともはや人間に討伐できるような代物ではなくなり、同格の魔物も片手で数えるほどしかいなかった。


信じられないような魔力量を誇り、なおかつ人間のような意識を持つゾンビ、それが彼であった。


もはや腐敗臭は消え去り、体中にめぐる高濃度の魔力により、肌の艶は生前のそれだった。


今までは霧がかったような意識であったが、はっきりと覚醒したことにより深く思考することが可能になっていた。


朧気だった生前の記憶も少し戻り、人間の考えを理解できるような段階まで来ていた。共感はできなかったが。


そんな青年姿の彼だったが、常人と一つだけ圧倒的に違うことがあった。


圧倒的に生気の無い目。


勿論ゾンビの目に生気があったらおかしいのだが、彼の肉体は見た目上ただの人間だったため、その目が際立っていた。


そんなちょっと訳わからないくらい長生きの、尋常じゃない魔力量を誇る、もはやゾンビの親戚とも思えないような強さと体を持つゾンビが今日も嗤っていた。


魔法と魔物と冒険者が存在する、そんな世界で今日もゾンビは嗤う。

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