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意識の流れ

作者: 守徳

 いつものように龍江は駅前の雑居ビルに入った。面白半分ではじめた占いが評判をよんで多くの客を集めていた。

 お客はほとんどが若い女性で、恋愛運を占いにくるので、うまく占えないときはお客の手を握ってしまえばよくわかるというものだった。そう、龍江は接触によって相手の意識を読み取る能力を持っていたのだ。

 しかし、龍江はその能力を出来るだけ使いたくは無かった。その能力のおかげでこれまで知りたくもない相手の意識を読み取ってしまい、嫌な思いをしたことが何度もあった。

 初めてその能力に気づいたのは中学二年生のとき、テストの返却で戻ってきた後ろの席の子と手が触れたとき「あっ、百点だ」とつい口からでてしまって、その子が「なぜ分かるの」とすでに折りたたんだ答案用紙を握りしめて不思議な顔をしたときだった。龍江は彼女の答案用紙を直接見てはいなかった。でも、分かったのだ。

 子供の頃は可愛がってくれた父や母、祖母の気持ちが分かるのは当然のことだと思っていたので、それが普通なんだと思っていた。それが普通の人はそうじゃないんだと分かったことの衝撃は大きく、龍江はその能力を隠そうとした。

 成人してからも、この人は愛してくれていると信じた男性が触れ合ったとたんに、その人の下心が読めて、別れてしまうことが多々あった。龍江はそのため結婚もできず、人間不信に陥って独身を続けている。占いでも出来るだけその能力を使わないようにしているのは、あまりに恐ろしいことだったから。もし触れるとすれば本当に恋愛運を知りたくて、いくつか質問して信用できる子に限っていた。

 そんな客の一人がサヤカと名のった子で、その占いは恋愛運ではなく、将来についてのものだった。若い女の子の九十%が恋愛運なのに、変わっているなあと思ったのがはじまりだった。いくつかの質問をしてだいじょうぶらしいと思って、サヤカの手を取ったとたん、それが流れこんできた。

──かなり中年太りの龍江の顔。信用できない。何をじろじろ見てんのよ。ああ、お金を無駄にしたかも。薄暗い部屋ねえ。若い女が言い争っている。あんな女の何処がいいのよ。あいつが先に首を絞めてきたのよ。花瓶で殴ってやった。ぐったりしている。変な顔。このひと怪訝な顔している


「どうかしましたか」とサヤカは手を握っている龍江に訊いた。

「いえ、あなたの将来は、来年か再来年におおきな変化が訪れますよ」

 それだけ言って龍江は手を離した。

「それっていいことなのかな」

 サヤカは期待してたずねているようだった。出来るだけ冷静をよそおって、今のところは平穏だけれども変化に準備した方がいいとだけ答えた。

「もっと訊きたいことがあるの、私の金運はどう」とサヤカは納得のいかない様子だった。

 龍江はすでに気もそぞろで話している。

 この子は人を殺している。そう、察知したのだ。龍江には相手の心が映像のように見えるというわけではない。意識の流れを察知するだけなのだ。サヤカの殺意が伝わった。

 あのときから、何度もサヤカがやってくるようになった。龍江はそのたびに、手を握ることを要求された。サヤカはすでに気づいているのだろうかと思うことがある。龍江は手を握ったときに相手の意識の流れは読めるが、自分は読まれることはないとの自信はあった。しかし、この自信が揺らいでいた。

 あまりにしつこいので、しかたがなくサヤカの手を握った。

──暗い夜道をひとりの中年女性が歩いているようだ。帰りを急いでいる。電柱の影に若い女が立っている。手には包丁が握られている


 あっと、龍江はサヤカの手をふりほどいた。

 サヤカがニタッと笑った。


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