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サムサーラ  作者: 風純蓮
一章~この世界を駆ける~
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門の前にて

 森を抜けて城下町まで来た頃には、既に日も暮れて星が瞬いていた。

 門番を務める物々しい兵士の2人も、壁に凭れ掛っているあたり幾らか眠気が窺える。

「そろそろ交代の時間……ん? こんな夜更けに旅人か?」

 フルフェイスの兜で素顔の見えない兵士が1人、やってきたエミルとリヴィアンに気がついた。

 もう1人は立ったまま寝ているのか――2人がやってきたことに気付いていない。

「あぁそうさ、俺達は旅人だ。この町に入れてくれないか?」

「いいとも。手配書に無い顔だし――ただ、あまり変な事はしないようにね。この頃物騒だから」

「何かあったのか?」

 訝しげに眉根を顰めるエミルの顔は、情報を聞き出そうとしている――いわば旅人なりの自己防衛手段である。

 一方でリヴィアンは暇そうに、ふわりと欠伸をしながらもう1人の兵士を眺めている。武器も持たずに寝ている光景を見る限り、物騒という割には平和ボケしていそうである。あまり政治などに興味を持たないリヴィアンでも、そこは何となく察することが出来た。

 しかし、片や隣国では戦争が起きていたりと、世界は実に滑稽である。

「最近、王城に不審者が出入りしてるって情報が流れてるのさ。盗まれた金品はなくて、侵入の跡だけが判明してるらしいよ」

「王城に侵入を許されるとは――一体どういうことだ?」

「さあ? 僕には分からないよ」

 鎧越しでも、肩を竦めているのがわかる。

「何せ僕たち門番は、直接兵士として戦場に赴いたりしないのさ。上の人から与えられた命令を忠実にこなすだけ――って言っても、ただの門番だけどね。凶暴な魔獣が来たら即連絡、応援が来るまでの間、ある程度応戦できる程度の実力しかない。だからだよ」

「なるほど、な」

 ――となれば、特別に警戒をする必要はなさそうだ。エミルは少し気を抜くことが出来た。

「ま、そろそろ入りなよ。宿屋ならすぐそこを右に曲がって……って、ちょっと君!」

「?」

 ふと声を大きくした門番に、エミルとリヴィアンは揃って首を傾げる。

 だが門番が見る目はエミルではなく、ましてやリヴィアンでもなく、全く違う方向を向いている。

 何かと思い、追った目線の先には――細長い骨董品のような煙管を持ち、優雅に紫煙を燻らせる少女の姿があった。

「ん、何」

 鬱陶しそうに長い水色の髪をかき上げ、横目で門番のほうを見る。

 瞳は赤い。眠たげに細められた穏やかな目つきだが、どこか威圧的な眼差しを放っている。

「何って、ダメじゃないか。未成年が煙草なんて吸ったら」

「あら。私が元いた地域では、少しくらい許されたのだけど?」

 不敵に微笑む少女はどこか大人びている。何だ、ただのマセガキか――エミルにはそう見えたが、リヴィアンは少しばかり目を輝かせている。

 大人っぽい雰囲気に憧れたのだろうか――それに気付いたエミルは、思わず溜息をついていた。

「君の居た地域では良かったかもしれないけど、ここは王国の領土だよ。悪いけど、王国の法律に従ってくれないかな」

「……分かったわよ」

 これ以上言っても無駄だと諦めたのか、少女は渋々煙管をしまう。

 その時、エミルと目が合った。

「――あんたは大人でいいわね」

「あ? 何がだよ」

「何でもないわ。それじゃあね」

 溜息をついた後、少女は優雅に去っていく。

 残されたエミルたちも門番に別れを告げ、宿屋を目指して歩いていった。

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