目覚め
――塔が聳え立っている。
古びた壁面には亀裂が入り、一部穴さえ開いている、今にも崩れそうな灰色の塔だ。
ある日その最上階で、夕日に紛れて小さな光が灯された。
優しく温かな光が包むのは、静かに眠っている少女の身体。
横たわる体躯にはまるで生気が無く、人形のような完成された美しさを持つ。
包み込んだ光が、やがて消える頃になると――目蓋が揺れて開き、琥珀色の瞳に光が灯った。
――ゆっくりと起き上がる少女。
長きに亘り眠っていたかの如く、起き上がって暫くはボンヤリとしていた。
やがて数十秒後に意識が覚醒すると、ここは何処だと言わんばかりに周囲を見渡す。
――何もない空間だった。
冷たいコンクリートの壁と床、それ以外に見当たるものがない。
ただ強く吹きつける風が、少女の薄紫色の短髪を揺らし、夕焼け色に染まる雲を西へと運んでいる。
耳に痛いほどの静寂である。
ふと、立ち上がった少女は歩き出す。
穴の開いた壁の向こうに、僅かながら床が続いているのである。
しかしその先は――壁も天井もない屋外だ。一歩踏み外せば瞬く間に落ちる。
塔の外に出て、少女は足元に広がる景色を見渡す。
この塔が高い所為か、目に映るものすべてが豆のように小さい。
しかし、たとえ小さくとも分かる。目に見える景色は、見渡す限りの――廃墟だ。
――すると、少女は何を思ったのか。
広がる廃墟の一端を目掛け、一思いにそこから飛び降りていった。