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現代忍者のケモノ娘世界記  作者: はるかかなた
いざ、ファリフォルマ城へ(オセロット村~クーガ街)
9/11

6P

 


 ティグから預かった剛弓を構え、落下するタイゼブラのもとへと走る。


「上手くいってくれよ」


 落下中の相手に狙いをつけるのは極めて難しい。

 ましてや、その巨体の下にはオセロがいる。

 彼女に当てないように遠くから狙うのは、針に糸を通すような精密さが必要だ。

 少しでも確率を上げるために、彼女のもとへと急がなくてはならない。


 やつの真下まで来ると、弓を構えて上を見る。


「何やってんだ、俺の馬鹿野郎」


 彼女はタイゼブラの下敷きになっているのだ。

 下から見上げたところで、彼女に当たる可能性の方が大きいに決まっている。


「くっ……間に合え」


 すぐ近くの彼女が駆け昇ってた樹を蹴り、俺は三角飛びの要領で巨体に向かって飛んだ。

 急速に近づく敵へ矢を放つ。


「危機一髪だな」




 重さが消えた彼女の身体を抱きかかえ、俺が下敷きになって着地する。

 足がしびれたが、そんなことを気にしている場合ではない。


 さっきまで戦っていた2匹は倒したが、近くに他の敵がいないとも限らない。

 オセロを抱えたまま、近くの巨大樹の根にある隙間を除き込み、安全を確認して滑り込む。


「いいね。悪くないところだ」


 そこは根が密集して自然の洞窟になっていて、ほどほどの広さがあるうえに土質も硬い。

 何よりも、空洞の隅に湧水溜まりがあるのが見えた。

 これは僥倖だ。


 リュックからマットを取り出して地面に敷くと、オセロをその上に横たえる。

 マントを取り払い、緑のジャケットを脱がそうとして……。


「……」


 いやいや迷っている場合じゃないだろう。

 これは緊急事態だから許されるはずだ。

 

「すまない」


 一言謝ってから彼女の衣服を剥ぎ取る。

 ついでに、二人のマントを入口の隙間に掛けておけば、外敵からのカモフラージュになるだろう。

 さすがに暗いので、オセロのリュックからランタンを取り出して発火手袋で灯を点しておく。

 

 なにやら、やましいことをしている感じだが仕方ない。

 俺は紳士だ。心の奥底まで純白になるのだ。

 彼女の下着のように。


 皮の鎧とジャケットを剥ぎ取り、上半身を裸にして胸にタオルを掛ける。

 よそ見しながらだからな絶対にだ絶対に。

 ……いやチラっと見たが、大きな山がゆっくりと動いているから呼吸はしているようだ。

 

「脈は正常。呼吸間隔も問題ない」


 露出させた腹部を見ると、へその下に青い痣ができていた。


「……頑丈だな」


 引き締まった白いお腹、その一部に触れてみた。

 触ってみた限りでは骨折すらしていない。

 軽トラくらいなら蹴り飛ばせそうな衝撃を喰らって内出血で済んでいるとは、何とも信じがたいものだ。

 オセロが意識を失った理由はパニックによるものだったのだろうか。

 

 自分のシャツをまくって左脇腹を見てみると、オセロ以上に黒くなった痣が見える。

 かすってすらコレだ。

 

「ま、大事にならないようにしておくか」

 

 女の子の肌に痣が残ってもあれだしな。


 道中で採取しておいたドクダミの葉を湧水で洗い、手で揉んで青汁を作る。

 葉を痣に乗せ、青汁をしみこませた布を患部に巻けば、それで処置は終わりだ。

 冷たい水に反応したのか、猫耳が一瞬だけぴくんと反応した。


「……今日はここで野宿になるかな」


 朝から昼過ぎまで歩いたから、約20km進んだか。

 予定よりも遅いが、気にすることはない。

 のんびり行くとしよう。


「さてと、この場所が見える範囲で食料を採ってくるとしますか」


 道中見た植物を思い出し、俺は樹の根から這うようにして外へ出た。





 だいぶ陽が落ちて来た頃。

 枯れ木を集め、根っこ洞窟の中で火を熾す。

 ランタンの燃料も気になるし、これからは出来るだけ火で賄うことにしよう。


「持っててよかった炊事用具っと」


 リュックから子鍋と調味料を取り出して、焚き木の上で簡単なスープを作る。

 具材は、近くで自生していたジャガイモと香草のグアスカス。

 それと、マーイさんから貰った乾燥トウモロコシだ。

 玉ねぎも見つけたが、昨日の夕食に出てきていなかったから念のため控えておくべきだろう。


「あとは肉か」


 何の肉かって?

 食用カエルだよ。

 鳥を狙ってもよかったが、あまりここから離れるわけにもいかないしな。


 スープが完成した頃、後ろで起き上がる音がした。


「んっ……うぅ……」


 振り返ると、マットの上で半身を起こしているオセロがい、


「おっと」


 そうだった。

 今、彼女の上半身はほぼ裸だった。

 見てない俺は何も見てない。

 メロンのさくらんぼ添えなんて見えていない。


「起きたか。怪我は軽いし、問題なく食べられるだろう」


 2つの深皿にスープを分けて、味見がてら一口だけ飲んでみる。

 うん。三つ葉に似た香りが非常に良い。

 味付けは塩胡椒のみだが、野外で贅沢は言ってられん。


 オセロの方を見ないようにしてマットに近づき、隣に座る。

 視界の端に映った彼女はうつむいていた。


「あたし、生きてるの……?」

「飯食えば分かる」


 俺はそう言って、彼女の視線の先、オセロが伸ばした太ももの上にスープを置いてやった。

 朝夕二食のこの世界では、食事ごとの時間にかなりの間があく。

 ともなれば、夕食前は当然空腹なわけで。

 

 きゅるるるる

 誰かさんのお腹から、かわいらしい音が聞こえてきた。


「っ!」


 猫耳まで真っ赤になり、あわてて誤魔化すように深皿をとって喉に流し込もうとするが、


「あつっ!」


 スープの熱さに一瞬ひるんだ。


「よかったな。頬をつねる手間が省けただろ」


 俺も自分のスープに手をつける。

 オセロは切れ目の瞳で睨んできたが、それ以上は何も言ってこなかった。


 二人でスープをすする。

 こういう、のんびりした時間もいいもんだな。



 早々に自分の分をたいらげたオセロは、腹部の傷を確かめている。

 俺はというと、近くの湧水で湯を沸かし、調理器具と食器を煮沸消毒していた。


 その作業を終えて炎に枯れ木を投げ込むと、オセロの横に座る。

 彼女は上着を着込んでいつもの表情だ。


「腹の方は大丈夫か?」


 いつもの表情から、切れ目が2割増しほどつり上がった。

 これは俺の聞き方がまずかったな。

 腹いっぱいになったか、の意味にとられても仕方ない。


「痛みはないか?」


 フォローフォロー。


「大丈夫よ」

「そうか。無理はするなよ」


 触診だけじゃ分からない事もあるしな。

 

「……ありがとね」


 オセロがぽつりと溢した。

 焚き木の爆ぜる音に呑まれてしまいそうなほど小さい声だ。


「あたし、あのまま落ちてたら絶対死んでた。ジンが助けてくれたんでしょ?」

「それはお互い様だ。俺もオセロには感謝している」


 最初に助けられたのは俺の方だしな。

 この世界に来た直後のことも、タイゼブラに初遭遇した時のことも。

 敵の姿が見えなかった俺には、『横に飛べ』の一言がなかったら死んでいただろう。


「俺には、鋭い耳も、強靭な脚も、経験を基にした勘もないからな。俺の命が今あるのは、お前がいてくれたからこそだ」


 その言葉に、少しずつ表情が戻る猫耳少女。


「そう。あたしたちはお互いに救われたってことね」

「その通りだ。だから、次に俺がヘマした時も頼む。その代わり、オセロに何かあった時は、俺が必ず助ける」


 約束だ、と言って小指を差し出す。


「んん?」


 おや。もしかして指切りはこちらの世界だと無いのか。


「俺のもといた国では、小指を絡ませることが誓いのサインだ」


 破ったら一万回殴った後に針千本飲ませる拷問が待っているけどな。

 エリザーベト・バートリも真っ青だろうよ。

 

「へー、そうなの。あたしたちの国とは少し違うのね」


 そう言うと、オセロは俺の小指に尻尾を巻きつける。

 ふわふわの体毛が肌を包む感触。

 感触やばい。癖になりそう。



 お互いに何も言わず。 

 ただただ指を結んだまま。


 周囲への警戒もあるから交互に寝て。

 それでも指は離さずに夜は更けていった。


筆者は食用蛙のソテーを食べたことがあります。意外にも鶏肉みたいで美味しかったですね。

ちなみに南米ではタイゼブラも食用として唐揚げにされるらしいです。タイゼブラをググる際にはご注意を。

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