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現代忍者のケモノ娘世界記  作者: はるかかなた
いざ、ファリフォルマ城へ(オセロット村~クーガ街)
7/11

5P

シリアスな戦闘シーンは変態成分の介入しようがないから困る

 翌朝。



 ティグとマーイさんに感謝の礼を述べて出立する。


 装備は黒のリュックサックに、二人から貰った茶色いマントを羽織った。

 道中の砂埃を防いだり、夜間の寒さを和らげるために使うらしい。

 

 暑いので、マントの下は半袖のカッターシャツとズボン。

 学生鞄を切って作った腰のポーチには、ククリナイフもある。

 装備は万全だ。


 オセロも同じマントに赤のリュックだったが、その中身は軽装の俺とは打って変わっている。

 緑色のジャケットと皮の鎧、ベルトで武装し、膝下まである長いブーツを履いていた。

 腰の後ろには一回り小さいサイズのマチェットナイフ。

 半裸少女の姿も見納めか、残念だ。


「さってと。行くわよ、ジン!」

「おう」


 樹上の入り口で見送る両親に手を振り、先導するオセロと共に森の中を進む。


「昨日も言ったけど、ファリフォルマ城まで二百キロはあるから、疲れたら言いなさいよ」

「そっちこそ。俺よりも先に疲れたら、お前ごと背負って歩くから遠慮なく言ってくれ」

「このくらいでへばるほどヤワじゃないわよ」


 オセロはぷくーと頬を膨らませる。

 ついでに尻尾も左右にひらひらと揺れ動く

 猫と言うよりフグになった。


「それに、一週間かけてのんびり行くのよ。単純計算でも1日三十キロ以下だから大したことないって」

「ま、そうだな」


 山道であることを考慮しても、俺なら問題ないペースだろう。

 オセロはどうか知らないが、彼女の引き締まった肢体を見ていると大丈夫そうだ。

 太ももに頬ずりしたい。


「どこ見てんのよ」


 見とがめられた。


「悪い。あまりに綺麗な足だったからつい」


 謝って視線を外す。

 女性が嫌がることはしない。

 それが変態紳士だ。


 辺りを見回すと、樹の上にいくつかの家が見えた。

 このあたりはオセロのような猫人族の村らしい。

 他の猫耳女性も見たかったが、朝が早いのか人の姿はない。

 無駄に動揺を与えることもないだろうし、ここは足早に去るのが正解か。


「それで、ルートの方はこのまま西に進んで街道に出ればいいわけだな」


 腰のポーチから地図を取り出して確認した。

 巨木が生い茂って見えないが、空の明るさで東西南北は分かる。


「そうね。近くまで行ったことがあるから、そこまでの道筋はあたしに任せて」


 街道までは彼女に頼ろうか。

 実際に行ったことあるのなら、オセロの方が正確だ。



 道中は巨大な樹が続いているだけだったが、森の中ゆえにいろいろな植物があって案外楽しめた。


「お、これはガマか」


 覚えのある薬草を見つけたので足を止める。


「よく知ってるわね。この辺りは特に誰かの縄張りってわけでもないし、獲っておきましょ」

 

 ガマは日本だと夏に花が咲く植物で、その花粉を乾燥させて止血剤に利用することができる。

 塗り薬は既にあったが多くて困るということはない。

 

 ナイフを使って花粉をこそげ落とし、麻の袋にしまった。

 熱湯消毒して持ってきたから大丈夫だろう。


「ジンはこういう野草とか生物には詳しいの?」

「元の国だと、自然にあるものを使って仕事していたからな。ある程度の知識はある」


 忍者は地形や現地調達を駆使して潜入する必要があるため当然として。

 俺個人は動物が好きだったから、休みは動物図鑑やアウトドア系の雑誌を読んでいた。

 その経験が別世界で生きるとは思わなかったけどな。


 ついでに、他にもいくつか採取して保存しておく。

 オセロはこそこそとアシタバの葉を切り取っていたが、見なかったことにしてあげよう。

 確か便秘に効く野草だったからな。

 ふひひ。


 そう思ったらドングリっぽいものが飛んできました。

 勘の鋭い子ですこと。




 昼過ぎ。

 木の実を食べながら進んでいると、オセロが呆れたような声を出す。


「食べ物を探すのもいいけど、もう村の外なのよ。敵にも用心しなさいよ」


 おっと、そうだった。

 モンスターが出るんだったな。


「ジンって少しは戦えるんでしょ? 傷もあるし、筋肉のつき方があたし達の獣戦士と同じだもん」

「ま、多少はな。ただ、今までモンスターを見たことがなくてな。少し緊張している」

「そうなの? ジンの国だと、どん、」


 さくさくと進んでいたオセロの脚が止まる。


「オセロ?」

「黙って」


 彼女の眼が真剣に訴えてきた。

 思わず息をのむと、俺は静かに相槌を打つ。


 彼女の耳がぴくぴくと動き、微かな音も聞き漏らすまいと周囲を見回す。

 経験則が感じさせているのだろう。


 周囲に何かいると。


 俺も周囲を見渡すが、特にそれらしき動きはない。

 杞憂に過ぎないのではないかと気を抜きそうになるが、全神経を集中して感知に務める。

 


 カサッと頭上で音がした。



「横に飛んで!!」



 オセロの声に弾かれるように左右へ退避する。

 今しがたいた場所から土ぼこりが上がり、枯れ葉が舞う。

 何かが頭上から降って来たのだ。


 土ぼこりがおさまると、そのナニかが姿を現した。


「く、クモ!?」


 でかい。

 とにかくでかい。

 

 目の前にいたのは1m近くもある巨大な黒タランチュラだ。

 8本ある足の付け根からはストライプの文様が描かれていて、全ての足がまるで馬のそれであるかのように太い。

 蹴られたらひとたまりもないだろう。


 その姿に足がすくんでいると、頭上から声がした。


「ジン、そいつはタイゼブラよ! キバと足、それとお腹の毛に注意しなさい」


 声のする方を見てみると、樹を駆けあがるオセロが見える。

 ブーツに仕込んだ刃を使っているのか、そのスピードは極めて速い。

 流れるような黒髪をなびかせて、壁走りならぬ壁昇りときましたよ。


 彼女の先には、これまた同じようなサイズの巨大クモがいる。


 こっちの敵は任せたってことね。

 了解。


「ふぅ……やりますか」


 深呼吸で気を落ち着かせ、タイゼブラとやらに向き直る。

 8つある目の全てがギョロリと俺を見据えた。


「おぉう。怖いな」


 発した言葉をどう受け取ったのかは知らないが、直後にその巨体が俺を押し倒さんと飛びかかかる。


「避けきれないか」


 咄嗟に大きな腹の下をスライディングで抜けると、脇腹に鈍い痛みが走った。

 どうやら足の一本が掠ったらしい。

 掠っただけでもプロボクサーに殴られたような衝撃だぞ。


「良い一撃だ。十倍にして返してやるよ」


 右手をポーチに突っ込んで、取り出したのは赤い小袋。

 それを入れ違いざまにタイゼブラへ向かって放り投げた。

 左手は例の発火手袋をはめ、赤い袋の口に繋がる糸を握っている。




 立ちあがった俺が指を鳴らすと、タイゼブラの身体が爆発した。




---




 いきなり下で大きな音がして、あたしはついつい振り返ってしまった。


 視線の先には、ジンの近くで血塗れになったタイゼブラの残骸があった。

 胴体は木っ端微塵に吹き飛んで近くの木々に体液を散らし、残った足はビクビクと痙攣を繰り返している。


 どういう戦い方したらあんな倒し方になるのだろう。


 驚いてしまったのは一瞬。

 けれども致命的な隙だ。


「ッ! やばっ」


 あわてて正面に目を向けると、そこにあったのは8つの目。


「きゃあっ!」


 巨体の体当たりをモロに受けてしまう。

 ブーツに仕込んだ鉤爪が樹から離れ、あたしはタイゼブラもろとも空中に放りだされてしまった。


「こ、このままじゃ……」


 猫人族は高所から落ちたとしても手足を使って着地できれば問題ない。

 でもそれは一人の場合であって、余計な重さが掛かってしまったら、いくらあたしたちでも危ない。


 それが組み付かれたタイゼブラなら、あたしの身体はぺしゃんこに潰れてしまうだろう。


「くっ、離れなさいよ!」


 逆手に持ったマチェットを振り回す。

 偶然にも、それはタイゼブラの目をいくつか潰した。


「よし!」


 少なくともタイゼブラさえ離してしまえば、あとはどうにでもなる。

 あたしはマチェットナイフをそのまま目前の喉に突き刺す。


「これでぁっぐっ! がっぁ……」


 安堵した途端、強烈な痛みが走って意識が持って行かれた。

 

(な、に……が……)


 チカチカと点滅する視界を動かす。

 タイゼブラが死に際に放った凄まじい蹴り、馬人族にも劣らないソレがお腹に突き刺さっているのが見えた。


 必死に手を動かそうとしても、自分の意志ではピクリとも動かない。

 動くのは、風に吹き晒されているあたし自慢の黒髪だけだ。




(あぁ……あたし、死んじゃうのかな……)




 目の前でタイゼブラの巨体が吹き飛ぶと同時に、あたしの意識は暗転した。


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