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現代忍者のケモノ娘世界記  作者: はるかかなた
いざ、ケモノ娘世界へ
5/11

3P

 アニマリア国には一つの伝説が伝わっていた。



 大昔。

 

 原初の神々は二つの性を競わせることを思いついた。 


 神々はどちらが滅ぶか雌雄で決めよと告げた。


 雌雄は長い間、争い合った。


 雄は能動性を極め、高い武力のみに傾倒した。


 雌は受動性を極め、様々な生物の特徴を獲得した。


 多種多様な力を取り込んだ雌は、常に優勢で戦い抜いた。


 結果、享受性をもつ雌のみが生き残った。


 大戦で失われた力が戻る時、その者はすべての生物に祝福をもたらすであろう。


 



 「ということは、つまりこの国には男がいないってことですか?」


 マーイの夫、ティグに向かって俺は口を開く。

 ティグは右隣でマーイは左隣、オセロが対面に座っている。

 家族3人と俺でマテ茶のようなものを飲みながら、ティグが話す伝説を聞き終えた後のこと。

 

 自己紹介ついでに軽く話してみると、ティグはなかなかに豪快な人物だった。

 親であることを感じさせない、男口調で外見は20代後半の姐御肌って感じ。

 今はスレンダーボディを娘のように白い布で隠しているだけだが、着ている服がシャツならOLで通用しそう。

 水着ならLOで通用しそう。

 また、ティーカップを作るのが趣味らしく、今飲んでいる木のカップは白塗りに花模様ときた。

 ギャップ萌え最高です。


 その彼女が勢いよく断言したのだ。


「あァ、この国どころか世界全土に男はいない。あんさんだけだ」

「あたしも聞いたことないわね」

「私も当然見たことなどありませんでした」


 3人の言葉を聞いた俺は、少しの間思案にふける。

 

 男を受け入れるだけだった女が、様々な生物の力を取り込んで強くなった。

 対スピードテクニックタイプにパワータイプ不利みたいなもんか。

 当たらなければどうということはないと。


 耳や尻尾は獲得した特徴の一端らしい。

 人間の聴覚以上の耳、全力疾走時にバランスをとることのできる尾。

 本来、猫にとって茶に含まれるカフェインは毒だが、目の前でかぶがぶ飲むティグを見ているとあやしいものだ。

 猫と人間を好いとこ取りしたような感じかもしれない。

 きっと玉ねぎ中毒とかも大丈夫なんじゃないだろうか。


 そして、その強力な遺伝子を、互いの子孫を残すことでさらに洗練するシステムか。

 良くできているつくりだ。

 

 ……ん?


「じゃあ、どうやって女だけで子どもを作っているのですか?」


 興味本位で聞く。

 口から言葉が出尽くした後に失策だったと気付いた。


「あ、あんたね! 真昼間から何て事聞いてるのよ!」

「ぁぅぅ……」


 紅茶に負けず劣らずの湯気が出そうなほど赤面したオセロがテーブルを叩く。

 ふしゃーと威嚇する口からは可愛らしい前歯が覗いていた。

 あと胸が揺れた。

 マーイさんは猫耳を伏せて下を向いているが、前髪から覗く額が赤い。


 女性を不快にさせてしまったのだ。素直に謝ろう。


「わ、悪い。すまなかった。夜にでも聞くことにするよ」

「時間帯選べばいいってもんでもないわよ! あんた、そのまま教えろって押し倒す気でしょう!」

「がっはっは! いいじゃねぇか。恥ずかしがってねぇで教えてやろうぜ」


 娘と妻の赤面をにやにやした顔で楽しむティグ。

 ま、まさか実践授業ですか。

 女家族三人って、親子丼どころかカツ丼大盛りネギチーズトッピングの大サービスじゃないですかい。

 お替りもお願いする所存ですよ奥さん。


「オレらは、生ませたい相手の奥深くに自分の体液を入れるんだよ。体液っつっても何でもいいわけじゃなくて、性的興奮が高まった時の体内分泌液じゃないと駄目だけどな」


 口頭でした。

 知ってた。

 でも期待したっていいじゃない。


 って、落胆でスルーするところだったけど、かなり生々しい話をしていた気がする。

 あれですか。

 アワビとアワビがステーキなことしてジューシーな肉汁ブシャーのお子様ランチ誕生ですか。

 よく分からないけど俺も調理してみたいです。


「どの部分の奥深くに入れるかは、あんさんの方が詳しいんじゃないかぃ? なぁ、言ってみなよ。生ませる性の男さんよ」


 予想は合っていたらしい。

 言葉責めとはまた高度なプレイですこと。


「部位の解説は是非させていただきたいが、魅力的な女性が相手では気後れしそうなので御遠慮します」

「ほっほぅ。言うじゃねぇか、ジン。なんなら実際にやってみるかぃ」


 ちょっと本音が出てしまった。

 そしてその選択は間違っていたらしい。


「あなた!?」

「パパ!?」


 御家族さん達も驚いてる。

 そりゃそうだろ。


「いやぁ、男だってのは言われてから匂いを嗅いで分かったんだがな。この目で違いを見てなくてよォ」

「な、何をですか?」



「女との違いだよ」



 俺の下半身を凝視するティグ。

 彼女の視線は、どうみても捕食者のソレでした。


「うぇっへへへ。いいじゃねぇかよ、ジン。これでも妻で鍛えたテクニックがあんだぜ。この指で責めるとマーイはヒーヒー啼いて喜ぶもんさ。お前もオレの虜になっちまえよォ」

「あの、ティグさん。よだれよだれ」


 わきわきと手を動かしながら接近してくるティグの口には、濃厚なアルコール臭の幻影が。

 捕食者と言うよりはただのおっさんだ。

 

 呼気から目を逸らした先に、真っ赤になって顔を覆ってしまっているマーイさんがいた。

 啼くどころか泣いている。

 オセロはいつのまにか遠い窓際まで移動し、耳を伏せていた。

 両親の性事情なんて聞きたくもないだろう。


「ごめんなさい俺は受けじゃないのでそういうのはってズボン掴まないでください鎖帷子も引きちぎろうとしないであなたがやると洒落になってませんだめですってちょっまっアッー」

「先っちょだけ、先っちょだけ見せてくあばっ!!」 


 下着ごと脱がされそうになった瞬間、マーイさんが近づいてきて見事なショートアッパーで沈黙させた。

 母は強し。




「にしても、困ったことになりましたね」


 拳を冷ますかのように、ひらひらと手を振るマーイさん。

 どんだけ本気で殴ったんだよぅ。

 地味にオセロも戻ってきてお茶菓子をパクついていた。


「困った事って、何か不都合でも?」


 俺が尋ねると、猫耳をポリポリと掻くマーイさんが口を開く。


「存在しないはずの男ですが、雌雄異体生物としての情報は私達の体内に残っていると言われています」

 

 俺が訝しむと、菓子をボリボリと食べるオセロが口を閉じる。

 

むぁぃおーうーほほつまりどういうこと?」

「可能性としては限りなく低いですがゼロでないため、男を出産または確認した場合は、速やかに都城へと報告することが義務付けられています」


 親の特徴ではなく、さらに前の世代にさかのぼった特徴を子孫が発現する。

 それを隔世遺伝かくせいいでんという。

 極端な話だが、女と女を交配させたとしても、生物としての原点に男が残っていたら突然変異で生まれる可能性があるわけだ。

 その時を考慮して報告義務を課していたのだろうか。


 ごくんと口内のものを飲み込んだオセロの尻尾が疑問符を描いた。

 何度見ても可愛い。


「あたしはそんな話聞いたことないんだけど……」

「これまでアニマリア1000年の歴史で1度として男は存在しなかったのですから、教えても意味がないだろうと思っていたのです」


 意外に長い歴史を持っているみたいだ。

 伝説があるくらいだし当然か。


「おそらく、ジンさんはこれから領地中央にあるファリフォルマ城に向かう必要があります」

「もしかして、リオン姫がいる例の城ですか?」

「あら。御存じなのですね」


 うへぇ。

 もふもふ触ってみたいけど手を食いちぎられそうだ。


「……黙っているわけにはいきませんか?」

「隠れていたとしても、生活のためには必ず外へ出る必要があります。それに伝説通りなら、ジンさんは私達に対して祝福をもたらす者と記されています。都城でも粗雑な扱いはされないはずです」


 それフラグにしか聞こえません。

 『くっ…殺せ!』的な状況にならないといいな。

 俺が女騎士側なのが不安です。


 だが、このままじっとしていても埒があかない。

 何かあればマーイさんやティグ、オセロにまで害が及ぶ可能性もある。

 

 それに、どうせならもっと色んな女の子と触れ合いたい。

 少なくとも犬耳には触れたい。


「分かりました。ファリフォルマ城へ行ってみます」


 途端、オセロの目が光る。



「あたしも行くわ!」



「……あなたはこの村で魚を獲る任があるでしょう」

「今月の分はもう納めたわよ、ママ」

「納め終わっていたとしても、中継地点に続く街道はモンスターや盗賊が出ます。危険なのですよ?」


 え。

 聞いてないんだけど。


「大丈夫よ。あたしも修行を積んでるし、ジンが一緒ならコングローチくらい苦も無く倒せるでしょ」

「……」


 ちらりと流し目を送ってくるマーイさん。

 娘のことが心配なのだろう。

 これは俺も一言言ってやった方がいいのか。


「オセロ、外は危険らしい。お前まで守りきれる保証はない。素直に、」

「えー。都で出た新作の服見たいのよー!」


 本音が出たなこんにゃろう。

 新作の服以前に自分の格好をよく見た方がいい。

 男に襲われても文句は言えんぞい、ふひひ。



「いいじゃねぇか。行かせてやれよ」



 テーブルが喋った。

 あ、違った。テーブル下で倒れたままのティグだ。

 もう復活したのか。


「こいつも16だ。もうオレらに守られる程弱くねぇさ」

「あなた。ですが……」


 起き上がって座りなおすと、真剣に妻の目を見て話すティグ。

 『見えない殺気』こそないが、さっきまでのふざけた空気は微塵も感じられない。


「オレは今まで、オセロに生きる術を教えてきた。我が娘ながらオセロは逸材だ。敵わねぇとなれば素直に逃げるだけの判断力もある」


 つまり、得体のしれない俺を見つけた時、オセロは俺に勝てるだけの算段があったってことか。

 やだー。俺より強いっぽいじゃないのさ―。


 妻を説き伏せると、ティグは娘に向かってにぱっと笑顔を作った。


「行ってきな。お前も昔のオレのように、世界を見てこい」

「パパ……ありがとうッ!」


 目を見開いて立ち上がると、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねまわる猫耳少女。

 猫耳を立てて喜ぶ姿を見ていると俺も強くは言えないな。

 止めたら跳ねまわるおっぱいが見れなくなる。


「ジンにも準備があんだろ。今日はウチでゆっくりして、明日の朝に発つといい」




 ナチュラルにオセロも同行することになってしまった。

 おかしいな、俺こんなに流されやすい性格じゃないはずなんだが。


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