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現代忍者のケモノ娘世界記  作者: はるかかなた
いざ、ケモノ娘世界へ
4/11

2P

 

 うっすらと生い茂る森林地帯を二人で進む。

 俺は適度に嘘を交えながら、この世界を探るために現状を話していた。


「なるほどね。つまり、ジンは何者かに襲われて、偶然ここに流れ着いたってわけね」

「ん。そんなところだ」

 

 額の汗をぬぐって相槌を打つ。

 暑いが、鎖帷子とズボンだけならまだマシだ。

 冬服は通学鞄の中に無理やり押し込んだ。

 

 目の前を歩く猫耳少女オセロの黒髪から、ふわりとハイビスカスの匂いが漂ってきた。

 野性味のある汗の匂いも良いアクセントです。岩塩にして舐めたい。


「だから、俺はこの辺りについてはよく知らない。よかったら教えてもらえないか?」

「授業料に魚2匹で手を打つわよ」


 クスクスと笑うオセロ。

 いいね、その表情。Sっ気が垣間見える。

 魚2匹とその顔が等価なら、俺は爆破漁でも平然とやる自信があるな。


「いいだろう。100匹でも200匹でも、オセロの個人授業の為なら獲ってくるさ」


 足を止めてポカンとしたオセロだったが、すぐに前を向いて歩き始めた。

 しかし、猫耳はピクピク、尻尾はピーン。

 やっぱり可愛いな、この娘。


「ご、ごほん。質問なんだけど、ジンはどの種族なの?」

「種族はないが……あえていうなら純粋なヒト族の男かな」


 猫人族のオセロはネコ科。

 それに対してヒト科と答えるのが正しいのかは分からないが。


「ヒト族、オトコ……聞いたことないわ。じゃあ、どこの国から来たの?」

「日本って国だ」

「ニホンね。これも聞いたことないわ。ずいぶん遠くから流れ着いたのかしら」


 尻尾が?マークを描いている。いちいち可愛い。


「この大陸全土に広がる国はアニマリアって名前があるの。遠い昔の偉い人がつけたんだって」


 大国アニマリア。

 うん、なんかしっくりくる。


「国ってことは県や市があるのだろうか」

「ケンとかシは分からないけど、ここは猫人族が住んでるファリフォルマ領よ。東には犬人族が住んでいるカニフォルマ領があるわ」


 ふむふむ。

 ここは猫の領地で、犬の領地も近くにあると。

 猫の立った耳もいいが、犬のへたれた耳も大好物ですわ。


「おっと」


 ときおり降ってくる何かの幼虫を払いながら、森林地帯の奥に進む。


「領地があるのなら、それを統治するトップがいることになるな」

「そうね。今のファリフォルマ姫はリオン様よ。犬人族の方は領地が違うからあまり情報が入ってこないんだけど、カリフォルマ姫はまだクシロ様だって言われてるわ」


 リオン。

 アルファベットでLion。

 そいつはヤバイぞ。

 そういえばヤツもネコ科だったか。


「リオンのほうは何となくわかるけど、クシロってのも凄いのか?」

「様をつけなさいよデコ助野郎。昔、クシロ様とリオン様で喧嘩したことがあるらしいんだけど、クシロ様が暑さで棄権したんだって。もしそうならなかったらリオン様は死んでたって言われるくらいの強さらしいわ」


 踏み込んだ先の木々がバキっと音を立てて折れる。

 オーケー、なんとなく読めたよ。


「あまり気にすることはないわよ。領主のリオン様は気まぐれだけど領民想いだし、こんな辺境の村に手を入れるほど暇でもないわ。あたし達は租税の魚と果実さえ納めていれば気楽なものよ」


 枯れ葉を踏みながら先へ進むオセロの表情は晴やかだ。

 

 猫人族のファリフォルマ領と犬人族のカニフォルマ領が、アニマリアの2大統治領らしい。

 両方とも、大陸の東西数千キロにわたって巨大な面積の領地を確保していて、今は友好条約を結んで無期停戦中だそうだ。


「他に街や城とかもあるのか?」

「ええ。複数の村は街に管理され、複数の街は都に管理されてるわ。都には領城があって、そこに領主さまが居られるのよ」 


 ちなみに、ファリフォルマ城はここから200キロほど北上すれば着くという話だ。 

 人間の脚は理論上時速60kmほどの速度が出るらしいが、そんなことをすれば体細胞が壊れる。

 それでなくとも、俺はまだ最高時速45kmほどしか出ないのだ。

 最高速度を保つことができれば5時間で着く計算。当然無理。荷物もあれば数日かかるだろう。


 二人で話をしていると意外に時間が経過したらしい。

 とある木の前でオセロが立ち止まる。


「さて、着いたわよ。我が家へようこそ、ジン」

「……」

「あら。反応薄いわね」


 まぁ、確かにすごい家だと思うよ。

 上を見上げると、鳥の巣箱のような入口があり、地面まで梯子が降りている。

 木の中に空洞を作って住むのも味があっていい。

 秘密基地っぽいしな。


 でも木の頂上付近に入口を作ることはないと思うんだよ。

 防犯能力高いだろうけど、絶対行き来めんどくさいよ、これ。


 頂上まで続く木製の梯子に手を掛けながら、俺はため息をついた。




「パパー、ママー。ただいまー」


 梯子を登ると、後ろから昇って来たオセロが玄関扉で口を開く。

 すると、中から一人の女性が出てきた。

 彼女がオセロの母親だろう。

 

 ちなみに俺が先に昇った理由だが、それは彼女の衣類面積が極めて小さいことにあり、万が一下からナニかを見上げることになってしまえば、衝撃でうっかり手を離してしまいかねないためである。

 下から「遅いわね」やら「早くイキなさいよ」やら「遅いからあたしが先にイくわ」と声を掛けるついででケツに頭突きを入れる猫耳少女には困ったものだった。

 おかげで変な性癖に目覚めたじゃないか。


「あら、おかえりなさい。釣果はどうだった?」

「釣りに行く途中に変なもの拾ったから、とりあえず帰って来たのよ」


 変なもの扱いするな。

 ほら、君のお母様も苦笑いしてるじゃないか。


「はじめまして。娘が無礼をいたしました。私はオセロの母、マーイと申します」

「いえいえ、別に気にしてはいませんよ」


 我々の業界ではご褒美です。


 ちなみに、マーイさんはオセロによく似ていて、いかにも彼女の母親って感じだ。

 長い黒髪。

 大きな金色の瞳。

 オレンジの猫耳。

 清涼感を漂わせる青いローブ(ハロウィンの仮装で着るようなやつ)から出た、縞模様の尻尾。

 ただし娘よりも少し小柄で、庇護欲をそそる体躯をしている。

 

 人妻には敬意を払うべし。

 口調は礼儀正しくがモットー。

 

「俺は仁っていいます。気軽に呼び捨ててください」

「では、ジンさんと呼ばせて頂きます。ゆっくりしていってくださいね」


 そう言って、マーイさんは俺の頭と尻をチラリと見る。

 別に、アッーんなことや、こんなことを考えているわけではなく、耳と尻尾がないことに意識がいったのか。


「すぐにお茶淹れますね。こちらへどうぞ」


 彼女について正面扉から入ると、すぐに木を削って造られた螺旋階段にあたった。

 巨木と言っても幹の直径は15mもない。

 木の中に住むのなら上下に部屋を作る必要があるだろう。

 

 3人で1つ階層を降りる。

 そこはリビングらしく、巨木の幹を横に削った広い空間があり、枝が少ない方向に窓を設置して明るい光が差し込んでいる。

 中央には直径3mほどあるだろう大きな木のテーブルが置いてあった。

 

「ずいぶんと広い。それに大きなテーブルですね。ご家族全員で住まれているのですか?」

「いえいえ、ウチは私と夫、オセロの3人家族ですよ。どうぞお座りください」

「はぁ……」

 

 贅沢な造りだと思いながら座ると、マーイさんは逡巡した後に口を開く。


「その……ジンさんの種族はどうか知りませんが、猫人族は赤ちゃんをたくさん産むので……」


 少し赤かっただけの鼻筋が真っ赤になっている。

 なにこれ意図しない羞恥プレイになった。

 ふひひ。


 赤面を楽しんでいると、対面に着席したオセロが口を開く。


「ママ。ジンはヒト族のオトコらしいわ」


 その言葉を聞いた瞬間、マーイさんは明らかに動揺していた。

 

 黄金色の瞳は大きく開かれ、額から一筋の汗が垂れる。

 しなやかな足は震えて縮こまる尾を巻き込んでいた。

 

 尻尾を足の間に挟んだネコ。

 その行動が示す感情は『恐怖』だ。


「本当に……あなたは男なのですか?」

「え、ええ。間違ってはいないかと」


 間違ってない。

 表面上は真っ当な人間ぴーぽーだ。

 俺は変態じゃない。

 仮に変態だったとしても変態と言う名の紳士であり、保健所に連れて行かれることはないはずだ。

 警察に連れて行かれると鉄の腕輪が2つ贈られるかもしれないが。


「そう、ですか……」


 内心ふざけていたものの、マーイさんの表情は真剣そのもの。

 逡巡の後、彼女は口を開く。


「少し待っていてください」


 絞り出すように言うと、彼女は螺旋階段をさらに下へと降りて行った。


「あんた、ママに何かしたの?」


 してない。

 断じてしてない。

 したいけどしてない。

 目の前のオセロにはしたいけどできない。

 白い布が動くたび、漁業装備と胸部装甲の矛盾に震えが走ります。


 ほどなくしてマーイさんが階段から上がってきた。


「紹介します。私の夫です」


 後ろから現れたのは小さい身体。

 ぱっと見た限り、筋肉の量だけならマーイ以下かも知れない。

 オセロやマーイより濃い褐色の肌に黒髪。

 猫耳と尻尾は銀色で、バラのような斑紋が映っている。

 

 しかし、何よりも異質なのは存在感。

 黄金水晶の眼が俺に向けているものは『見えない殺気』だ。

 日常的に狩りを行い、気配を殺して獲物に近づく時の独特な空気。

 オセロやマーイよりも、暗殺者としての気配が圧倒的に濃密なのだ。


「へぇ、分かんのかぃ」


 その空気を感じ取ったことに満足したらしく、にぱっと花の咲くような笑顔に変わる。

 どうやら、オセロの笑顔はこの人譲りのようだ。


「あんさん、男なんだって? ウチにあの伝説が舞い降りるなんて、猫人生何があるか分かったもんじゃねーなぁ」


 愉快そうに笑うと、娘よりもつつましやかな胸がふるふると震え……。


 え。


 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ。

 俺は(以下略。




 結論。夫は女でした。

 



 妻は女。夫も女。

 キマシタワー。

次回は10月29日午後9時に投稿です。

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