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別に連載している小説の文章量が多くてちょっと苦戦。
「危ないところを助けてもらったにゃ~」
目の前で、猫耳女のシャムがニャーニャーと笑う。
オセロとは異なり、黒い猫耳と尻尾の少女だ。
髪は銀色で、外見は二十代の美女だったがどうにも子どもっぽい。
彼女を助けた後、俺とオセロは荷台の中に入ってゴトンゴトンと揺られていた。
街道の先にあるクーガ村まで行く途中だと話すと、シャムの行き先も同じだったらしい。
彼女の厚意に甘んじて、俺たちは一緒に送ってもらっていた。
幌つきの荷台には大小様々な木箱が大量に積んであり、薄暗い室内はランタンの明かりで照らされている。
残った三メートル四方の空間に座って、俺たち二人とシャムはくつろいでいるところだ。
「気にするな。困っている人を助けるのは当然のことだ」
「そうよ。お互いさまよ」
貸しは空に投げ、借りは石に刻め。
俺の好きな言葉にオセロも同意見だった。
「いやいや、そういうわけにはいかないにゃ~」
そう言って、シャムは懐から一つの袋を取り出して放り投げる。
咄嗟にその袋を掴むと、中からはジャラジャラと金属の音が聞こえる。
十中八九、金だろう。
「いい。別に金が欲しいわけじゃない」
「そうじゃないのにゃ」
迷惑そうな顔をした俺に、シャムは首を振った。
「シャムは商人にゃ。それはこの馬車に積んだ荷物で大体分かるにゃ?」
「……まぁな」
人が数人寝転がれそうなサイズの馬車には、その面積の半分に大小様々な木箱が積んである。
ある木箱からは果実の芳醇な香りが。
ある木箱からは武器特有の金属音が。
「商人は金勘定に厳しいにゃ。助けてもらって何もしないってのは、自分の価値を無にしているってことにゃ」
真剣な表情で話すシャム。
「それに、この馬車に積まれてる食べ物は少なく見積もっても五千エレクは下らないにゃ。そのお礼にゃ」
その言葉にオセロが口を挟む。
「じゃあ、何で護衛をつけなかったの?」
確かに。
食べ物だけでも被害額が大きいのなら、武器も含めると相当なものになるだろう。
「ついさっきまでは獣戦士の護衛が二人ほどいたのにゃ。でも、契約で前の村までだったのにゃ。次の村までは残り三キロもなかったし、大丈夫だって油断した途端に襲われたのにゃ」
ついてないにゃー、と叫ぶシャム。
彼女自身を見ると、そこまで筋肉がついておらず、戦えるようには見えなかった。
「それに、ちょうど甲虫に餌をあげてる最中だったのにゃ。鎖につないだままで、甲虫たちも身動きができなかったのにゃ」
この大きい荷台は、馬車の如く前方から牽引して動く仕組みになっている。
その馬車を動かしているのは、これまたでかい昆虫が二匹。
元の世界で言う、カブトムシだ。
カブトムシが巨大化して馬車を曳いている。
まぁ、日本でも五円玉を引かせたりするくらいだし、それが2mもある巨大な姿になれば荷車も曳けるだろうよ。
(もしかすると、この世界の昆虫は全部巨大なのか……?)
何となく推測するが、当たってない事を祈るのみだ。
蜂の大群が巨大化して襲ってきたらジ・エンドだぞ。
「というわけで、素直にそのお金を受け取って欲しいのにゃ」
思案から帰ってくると、シャムが両手を合わせて頼んでいた。
ここまでされては無下にするわけにもいくまい。
「分かった。その代わり、俺たちに次の村まで護衛させてくれ。オセロもいいか?」
「ええ、もちろん。ここで会ったのも何かの縁よ」
「ほんとにゃ!? ありがとにゃー!」
その言葉を聞いて抱きついてくるシャム。
オセロには及ばないけど、ふかふかムニムニの柔らか戦車がフルヒット。
「ちょ、ちょっと! 何してんのよ!?」
身体が固まっている俺を置いて、オセロが目を丸くしている。
まるで、俺へ叫んだ自分自身に驚いたかのように。
「にゃ? 感謝の印にゃ」
「べ、別に抱きつかなくても……」
ごにょごにょと、普段のオセロには似合わない小声で続ける。
な、何なんだ?
「と、とにかく、そいつは男なんだから、むやみに抱きついちゃ駄目よ」
「にゃ? こいつ男なのにゃ?」
尻尾で疑問符を浮かべると、シャムはスンスンと鼻を鳴らして首筋の匂いを嗅ぐ。
こいつらの尻尾は、分からない事があると皆こんな可愛い仕草をするのだろうか。
いいぞ、もっとやれ。
「……確かに今までに嗅いだことない種類の匂いがするにゃ」
この世界では、男は暴力的で女を襲うことしか考えていないと言われているかと思ったが、そうでもないらしい。
少なくとも、シャムは違うようだ。
「むふふ~。なんだか落ち着く匂いだにゃ」
ふにゅりふにゅりと形を変えて、控え目な胸が押しつけられる。
どんなサイズでも、おっぱいは最高です。
「……」
な、なぜかオセロの機嫌が悪い。
尻尾が膨れている時は、確か怒っている時だったか。
「……どうした?」
「別に、何でもないわよ」
シャムに抱きつかれる俺。
それに、胡坐をかいて貧乏ゆすりをするオセロ。
妙な空気を纏ったまま、馬車ならぬ甲車は道を進んでいった。
道をある程度進み、シャムがタンポポ珈琲を淹れながら、思い出したように言う。
「そういえば、この道を少し進んだところの宿屋には、温泉があるらしいにゃ」
「温泉っ!?」
その言葉に、オセロが目を輝かせて飛び付いた。
「そ、そうにゃ。温泉、好きなのかにゃ?」
予想外の反応にびっくりしたシャムが聞き返す。
「ええ。あたし温泉大好きなのよ!」
「へぇー。犬人族ならともかく、猫人族にしては珍しいにゃ」
まぁ、猫は水を嫌うしな。
そういうシャムも猫人族だから思い当たるところはあるのだろう。
「温泉か……」
俺も風呂好きだから、元の世界でもよく入ってたな。
暮らしていた所にも温泉が湧き出ていて、里長のジジイから女湯を除く任務が……。
あれ?
この世界、男湯なくね?
微妙に固まっていた俺を見咎めたのか、オセロが話しかけてくる。
「ねぇ。ジンはお風呂嫌いなの?」
「いや。俺も温泉は好きだが……」
「じゃあ、いいわね。シャムは温泉苦手みたいだし、一緒に入りましょ」
「ぶっふぉ!?」
思わず、コップの中で珈琲を吹き出してしまう。
「な、何よ……あたしじゃ不満ってわけ?」
なぜ俺が珈琲を溢しそうになったのか、オセロはおそらく分かっていないのだろう。
「い、いや、オセロに不満ってわけではないが、むしろこの場合は魅力的なことが問題で……」
「は? 何言ってるのよ、こ、こんなところで……」
しどろもどろになって慌てる俺たち。
多分これ微妙なすれ違いを生んでいるんじゃないかな。
ほら。シャムが『あーハイハイごちそうさま』って顔で見ているじゃないか。
「何にせよ、宿屋に生きて着かないと温泉にも入れないにゃ。その分は護衛を頼むにゃ」
「大丈夫よ。ジンがいれば問題ないわ」
俺を頼りにするのはやめてくれませんかね。
こちとら防御力の無い普通の人間なんだからな、多分。
「まぁ、一応お金を貰ったんだし、こっちも対価はちゃんと払うわ」
その言葉でスイッチが切り変わったのか、オセロが目をつむって真剣な顔で周囲の音を探るようになった。
こればかりはオセロやシャムの領分だ。
俺は戦闘で多少の貢献ができれ万々歳。
おとなしく座って、何事もなく宿屋に着くことを祈るとしよう。
新たにこの小説の内容をバージョンアップして連載を開始しました。
「最弱にして最強の異世界ハーレム」
もう一つ連載しているR18小説「異世界の女どもを、自我を残したまま操れる術を手に入れた。」のほうもよろしくお願いします。