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次話は11月11日午後9時投稿です。
翌朝。
完全に回復したオセロと俺は、街道に向かって歩を進めていた。
「で、あの技は何だったの?」
道中で、オセロが唐突に聞いてきた。
「技?」
「ほら、あんたがタイゼブラに使った技よ。粉々になって吹き飛んだじゃない」
あれか。
俺は腰のポーチからあるものを取り出す。
タイゼブラと戦ったときに使った、口から白い糸が飛び出た小さな赤い袋だ。
。
「それは?」
「俺達が使う武器の一つだ。これは火薬玉って言って、袋の中に火薬が詰まっている」
袋の口から延びる糸には油が染み込ませてあり、この糸に着火することで離れた場所で火薬を爆発させる。
れっきとした忍者の武器だ。
「へぇー。そんな小さい袋がタイゼブラをバラバラにできるのね……」
どうやら火薬を知らないオセロは、火薬玉を手に取ってまじまじと見つめる。
手でいじったり、匂いをかいだり、袋の端を舐めてみたり。
この仕草だけなら、まんま猫だな。
「気をつけろよ。下手に触って爆発したら、オセロの綺麗な顔が吹き飛ぶぞ」
「みぎゃあ!」
胴体が吹き飛んだタイゼブラの姿を思い出したのか、袋を投げ捨てたオセロは慌てて近くの樹に5mほど昇る。
幹に刃を刺して、器用にも地面と平行に頭を抱えて縮こまっている。
俺は投げ捨てられた火薬玉を拾ってポーチにしまった。
「冗談だ。そんな簡単に爆発するような武器を持ち歩くわけないだろ」
「あ、あんたねぇ……!」
がるるるる
威嚇すると可愛らしい犬歯がむき出しになるから、あまり怖くない。
むしろ可愛らしい。
うっは、オセロたんの犬歯prpr。
「悪かったから樹から下りてきてくれ」
溜息を吐きながら、俺はオセロを手招きした。
「お。ここが街道か?」
2時間も歩くと、森が開けて街道らしきものが見えてきた。
その道は、今までとはうって変わって石畳が敷かれ、道幅6mほどの広さまで丁寧に舗装されている。
道の両側では木々が生い茂り、どちらかといえば林道といった表現が正しいかもしれない。
「意外に整備されているな」
「ここは猫人族だけじゃなくて、他種族の商人も通るから当然ね」
自分たちの土地が荒れていると、外の種族から舐められるってことか。
大変だね、領地ってのも。
「なるほど。後は、この道を進んでいけば良いわけか」
「そうね。少し進めば宿屋があるから、美味しい食事もお風呂にも入れるわよ」
お風呂お風呂言うオセロの身体からは、微妙に彼女の体臭が漂ってきている。
たまたま、偶然、思いがけず、図らずも、それが俺の鼻に吸い込まれた。
うーん、フルーティ。
「嗅ぐな!」
バレた。
故意じゃないのに。
「どうやって止めろと……」
「あたしの半径2m以内に近づいたら息を止めなさいよ」
「無茶言うな」
微妙に間が離れた状態で街道を歩き始める。
すると、オセロが思い出したように口を開いた。。
「あ、そうだ。一応言っておくわ」
「何を?」
「街道は見通しがいいから、盗賊に注意しておきなさい。周囲の林に潜まれていたら、向こうからは丸見えなのにこっちは見えないから危険なのよ」
そういえば盗賊も出るって言ってたな。
怖い世の中ですこと。
「しかし、盗賊となると少し面倒なことになるな」
「ええ。こっちは2人だけど、襲われるとしたら何人になるか分からないからね」
加えて、俺は忍者だが紳士だ。
一億歩譲って女性を取り押さえることはできるが、殺すことはできない。
できるはずもない。
おかげで暗殺対象が女性の任務はすべて失敗扱いですハイ。
「一応、手が無いわけではない。オセロが手詰まりになった時は俺に任せておけ」
「あら。まだ何か隠し玉があるの?」
忍者だからいっぱいあるさ。
「オセロだって、いくつか隠しているも……」
「どうしたの?」
俺がいきなり口をつぐんだのを見て、尻尾を?マークにするオセロ。
その可愛さに見惚れる前に、俺はオセロの手を掴んで走り出した。
「な、なになに? どうしたの!?」
「オセロ。あれが見えるか?」
俺は疾走しながら道の前方を指さす。
オセロが俺の指を追って視線を動かした。
遠くには一台の馬車があった。
映画で観るような、リアカーのような荷台に幌がアーチ状に掛けてあるもの。
キャラバンと言われるタイプだ。
遠目からでも人の三,四人は泊まれそうなほど大きい。
問題は、その馬車の周囲にあるモノが三匹纏わりついていることだ。
「コングローチ!」
その姿を見て、オセロが声を張り上げる。
「コングローチ?」
「そうよ。すばしっこいくせに、外皮は硬いわ腕力もやたら強いわ、面倒な虫よ。昔はゴキブリって言われていたらしいわ」
そう。その姿は、日本でも台所でおなじみの黒いG。
それが人間サイズまで巨大化して馬車を襲っているとなれば、身の毛のよだつ光景だ。
「どうしよう……きっとあの馬車の中に誰かがいるわ!」
近づくにつれて馬車の中から『たすけてにゃ―!』といった悲鳴が聞こえる。
無理もない。
「オセロ、お前は1体を引きつけてくれ。俺は2体を倒す」
「し、勝算はあるの?」
「当然」
背負ったリュックの中に手を入れて答える。
俺の顔を見たオセロは、こくりと頷いてさらに加速した。
オセロの後を追って馬車に接近する。
彼女は馬車の向こうにいたコングローチを相手にしていた。
「俺の相手はお前らだ」
馬車の前面に張り付いていた二匹が、俺に気付くとこちらに振り向いてくる。
馬車から飛び降りると、奴等は二足歩行で走ってきた。
ゴキブリが立ちあがって迫る光景は結構怖いものがあるな。
「しかも速い」
接近してきたコングローチの殴りを横っ跳びで回避する。
こいつら、ゴキブリの癖にゴリラみたいに太い腕をしてやがる。
「だから『コング』ローチか。なるほど」
一人で納得して体制を立て直す。
パンチを空振りしたコングローチは近くの林に頭から突っ込んでいた。
もう一匹は少し距離がある。
「チャンス到来っと」
林に頭から突っ込んだコングローチへ近づく。
俺は道中で拾ったレモンを取り出すと、ちょうど立ちあがったコングローチの、
「そぉいっ!!」
口の中に突っ込んだ。
ついでに、殴りかかって来たもう1匹にもクロスカウンターでレモンを突っ込んでやる。
「はぁはぁ……ジン、助太刀に来たわよ! こいつらを協力してたお……あれ?」
泡を吹いて倒れるコングローチ二匹を見て、目を丸くするオセロ。
そっちも倒すの速いな。
「えっ、えっ? ナイフで倒したわけじゃないのよね?」
彼女の方に振りかえると、返事の代わりに開いた両手をプラプラさせる。
「ど、どうやって倒したの?」
ゴキブリは匂いの強いハーブや柑橘系の果物を苦手としていて、これらに含まれるdリモネンという成分は、10分の1に希釈してもゴキブリを動けなくすることができるほどの強力なものだ。
日本の家庭では、ゴキブリの通り道に霧吹きでレモン水を吹きかけたり、台所で柑橘系の洗剤を使うだけで意外に効果がある。
そんなものを直接口に突っ込んでやれば当然こうなるってわけだ。
俺はククリナイフでコングローチの喉を切り裂きながら、オセロに説明してやった。
「へぇー。ジン、結構いろんなこと知ってるのね」
何でもは知らないよ。知ってることだけ。
例えばオセロの乳首はうっすらピンクとかね。
「ま、まぁ、何はともあれ倒せたわけだし、中の人たちを出してあげましょ」
オーケー、ボス。
新たな猫耳との対面だい。
男性用R-18小説の方も投稿始めました。
「異世界の女どもを、自我を残して操れる術を手に入れた。」
『現代忍者』は純愛のみですが、こちらは色々とアレです。
お子様やハードなものが苦手な方はご遠慮ください。