4.不死鳥の女王
新年明けましておめでとうございます。
ありがたいことに、ブックマーク件数が100件を超えました。どれだけの時間がかかるか分かりませんが、今年も全力で執筆して参ります。
そこは、部屋とはとても呼べない空間だった。
降り注ぐ太陽。生い茂る南国の花々に、煌めくオアシス。最早この世の楽園とでも言うべきその場所に、彼女は居た。
「ほら、みんな女王にご挨拶して?」
木陰に置かれた天蓋付きのベッドに、程良く引き締まった美しい脚を組んで腰掛ける女王様。
気怠げに開かれた宝石のような澄んだ青い眼に、白銀のしなやかな髪。それを束ねた毛先はほのかな紅色で、アキレアに負けず劣らずの豊満な胸を曝け出すかのような挑発的な服装は、正しく砂漠の国の美女というべき魔性を秘めた姿だった。
身に付けた耳飾りや首飾りさえも、彼女の底知れぬ美には遠く及ばないだろう。
(絶世の美女って、彼女みたいな人のことを言うんだろうな……)
恐ろしさすら感じてしまう美女を前に、俺は意を決して口を開いた。
「えっと……お初にお目にかかります。俺は、フリッグマスターの……」
俺の言葉を遮るように、女王様は右手を伸ばした。
「え……?」
すると、隣に立つフリードさんが小声で言った。
「陛下のお側へ行って下さい」
「え、ど、どういうことですか?」
「陛下の手に触れて下さい。そうすれば、貴方のことが解りますから」
彼の言葉の意味が理解出来ないまま、俺は言われた通りに女王様の元へ歩み寄っていった。
(手に触れろって……)
黙ったまま伸ばされた細い柔らかな手に、俺の手が重なる。
(これで何が起きるっていうんだ?)
そのままの姿勢でいると、俺を見上げる女王様の眼がかっと見開かれた。
「お前が……!」
一体何が起きたのか、女王様は俺の両手を引き寄せた。
「……この日を、どれほど待ち望んでいたことか……!」
彼女によって近付けられた身体は、小さく震えているようだった。
青い眼には、薄っすらと涙が滲んでいる。
どうしたら良いのか戸惑っていると、女王様は俺の手を離して言った。
「お前達が何故、妾を訪ねてやってきたのか……この男の記憶を見て解った。妾はお前達の探し物の在処を知っておる」
「ほ、本当ですか!?」
「妾は嘘は嫌いじゃ。だがの……目的のものを得るには、そう簡単にはいかぬぞ」
女王様はアキレア達を手招きすると、一緒について来たゼラとフリードさんに目をやった。
「お前達はいらぬ」
「なぁに? 仲間はずれなのォ?」
「お前は着替えを済ませてくるがよい。フリードは支度を手伝うのじゃ」
「支度、と申されますと……?」
「この者達には、これからヒバリの館へ行ってもらう。お前はこの者らを案内するのじゃ。拒否は認めぬぞ」
そう言われたゼラは、嬉しそうに笑って頷いた。
「女王に頼まれたってんじゃ、オレが外出歩くのも堂々と出来るしねェ。いいよ!ショウ達を案内してあげる」
「お前は本当に単純な人間で扱いやすいわ」
「そうとなったら早速お着替えしなきゃね! 行くよーフリード!」
「は、はいゼラ様! では、私どもは外でお待ちしておりますね」
元気一杯に部屋(部屋というか中庭というか)を飛び出していったゼラの後を追い、フリードさんも出て行った。
「あの、ヒバリの館という場所には何があるんでしょうか?」
「説明は後で……。それより、お前にとって重要な話がある。このマリア達に聞かせても良いものか、確認しておきたい」
真剣な面持ちでそう言った女王様。
(俺にとって重要な話って何だ?)
「……妾がマリアだということは知っておるな?」
「はい」
「マリアには、本来人間が扱うことの出来ない力……魔法を使うことが出来る。火や水を操る力、治癒の力……結界能力や強化魔法を使うマリアもおる。その中でも、朱雀の力を借りたマリアの能力……記憶の読み取りが、妾には可能なのじゃ」
「だから陛下は、ショウさんに側に来るように命じたのですね」
「その通りじゃ。妾のこの力は、あらゆるものの記憶を、この手で触れることで読み取るもの。お前のその記憶も、全て読み取った」
「俺の……記憶を……」
(それってまさか、俺の本当の名前も、生きていた世界も全部……!?)
「そ、それじゃあショウの家族は!? 記憶を失う前のこともわかるんですか!?」
アキレアの言葉に、女王様は小さく頷いた。
本当に彼女が俺の記憶を全て読み取ったのだとしたら、俺が記憶喪失だと嘘を吐いた過去も、リリー姫を捜してここまでやって来たことも知っているはずだ。
「……その話を先にしたかったのじゃ。ショウ」
女王様は、複雑そうな表情で俺を見る。
「これからお前とマリア達が成そうとしていることは、お前の過去にも関わることじゃ。それをマリアに知られたくないのであれば、ヒバリの館の後は、お前一人でどうにかせねばならぬようになる」
「俺一人で……」
俺の過去……つまり、この世界に来る前の俺。吉田松成としての過去。
今までなんとか誤魔化してきたけれど、この異世界で俺の本当の姿を知っているのは女王様だけだろう。
彼女はリリー姫の居場所を知っている。それは間違い無い。
けれども、リリー姫を見付け出す為には、何らかの形で俺の過去がアキレア達に知られてしまう。
(俺がこの世界の人間じゃないって知ったら、アキレアやリーオ、ラネールはどう思うんだろう)
「どうするショウ?」
「俺は……」
硬く握り締めた拳に、そっと手が重ねられた。
「アキレア……!」
「あたしは、あんたにどんな過去があろうが関係ない。あたしはショウを信じてるから」
左手にも暖かい手が触れた。
「わたしも、ショウさんを信じています。あなたがどこの誰であっても、わたし達の大切な仲間だということにかわりはありません」
「リーオ……」
「……ショウくん」
ラネールは俺の前に立って、いつもの笑顔を浮かべた。
「本当に短い間でしかないけど、私もアキレアちゃんやリーオちゃんみたいに、君のことが大切なんだ。君の為に、タリエルの為に……この世界の為に、ショウくんのことを知りたいって思うの。だからショウくん。私も、君のマリアにして!どうしても、君の力になりたいんだ」
「ラネールまで……」
(何でこんなに怖がってたんだろう)
皆の暖かな笑顔が、俺の不安と恐怖を全て拭い去ってくれた。
(凄い情けない顔してるんだろうなぁ、俺)
皆の笑顔に応えたいのに、どうしても泣きそうになってしまうんだ。
「……答えは出たようじゃな」
「はい……!」
ラネールは服の胸元を開き、俺はそこにある彼女のマリアの印に口付ける。
印の色は青に変わり、俺の首にあるフリッグの印がシオンのような赤い花の模様として出現した。
「ありがとう、みんな……」
こうして俺の三人目の聖女が加わり、俺はシオンの望むフリッグマスターの形へと近付いたのだった。




