6.豪雪のマリア
秋夜城には数多くの冒険者とマリア達が警備にあたっていた。それに加えて、城には攻撃と回復魔法を扱う白虎隊も居る。
正面から挑んでも苦戦するのは確実だ。そこで俺はこんな提案をした。
警備の依頼を受けて、内部に堂々と侵入する。そうすれば怪しまれる事無く秋夜城に近付けるのだ。
「緊張しますね皆さん」
「ああ……上手くいくのかなぁ」
「いかせなきゃ困るの!」
「とりあえず今は待機なんですよね」
俺とアキレアとリーオ、そしてパクナは南門の警備を任された。
東門はセロウズさんとレベッカさんとアジュガ、西門にはグレイさんとカエさんとヒギリさんが居る。
上手いことバラけた俺達は、他の冒険者達とそれぞれ割り当てられた門の周りで日が暮れるのを待っていた。
フォレイヤでは起床と帰宅を知らせる鐘が鳴る。その鐘の音を合図に、三ヶ所の門から城内に忍び込む作戦だ。
「そろそろ日が沈むわね」
(いよいよか……)
人目を気にしながら、俺達は門の側に近付いていく。
そして白秋の都に除夜の鐘のような音が響き渡った。
俺は皆とアイコンタクトを取って、静かに門を押し開ける。
門の奥に人の姿は無かったが、警戒は解かずに城の中に入り込んだ。
「みんなと合流して黒檀国王に会わないとな」
「だけどどっちに進めば良いのかわからないですね」
なるべく足音を立てないように、勘を頼りに廊下を歩き回る。
すると、曲がり角の向こうから誰かの足音と話し声が聞こえてきた。
門の外には白虎隊らしきエルフの姿は無かった。という事は人気の正体は白虎隊である危険がある。
(やっば!)
引き返そうにも足音はどんどん近付いてくる。
「こっちで合ってるの? アザミさん」
「軽々しくアザミの名を呼ぶな。間違い無い。何者かが城内に侵入したのは確か」
(気付かれてるのか!?)
少年と少女の声に焦り、情けない事に足が竦んでしまった。
しかしアキレアやリーオ達は立ち向かう気満々のようで、アキレアは斧を構え、リーオとパクナはいつでも魔法を出せるように待機している。
(俺、ヘタレにも程があるな)
不意打ちを狙って、俺は不安を抱えながらも槍を手に取った。
そしてタイミングを合わせて曲がり角から飛び出して攻撃を放った。
「ファイアアロー!」
「ダークウェイブ!」
リーオとパクナの魔法の後、俺とアキレアも武器を振り下ろす。
だが壁のようなものに阻まれ攻撃出来なかった。
「なっ!」
俺達の目の前には、冷たく厚い氷の壁が立ちはだかっていた。
つるつるとした表面は鏡のように姿を反射させ、パチンと指を鳴らす音を合図にそれは一瞬で消滅した。
暗い水色の髪の少年と、耳が尖った薄水色の髪のエルフの少女は、先程の攻撃など無かったかのように平然としている。
「南門からの侵入者ってきみたちだったんだね」
「なんでバレてるのよ!」
「うちには有能な結界師がいるからね。冒険者さんたちには城の外を警備するようお願いしてあるはずなんだけど……」
「城内への侵入は禁じられている。違反者は我等白虎隊が強制的に排除する」
城内に結界が張り巡らされているという事は、セロウズさんやグレイさん達が突入した事も知られているはずだ。
俺達のように他の白虎隊に気付かれているかもしれない。
せめてヒギリさんだけでも黒檀国王に合わせなければ、フォレイヤにやってきた意味が無くなってしまう。
「そういうわけだから、ここは大人しく城から出て行ってもらうよ? きみたちが他国からの刺客だったら困るからね」
少年は腰の刀に手を掛け、エルフの少女アザミは一分の隙も無い気迫で鋭く睨みつけてくる。
「わたしたちはどうしても、嶺禅国王陛下にお会いしなければなりません」
「ここで引き下がるわけにはいかないんだ!」
「ぼくらとやり合うの?」
「必要ならやるしかないから。それが、師匠の罪の償いになるなら……!」
「分からない。実力差は明らかなのに何故引き下がらない」
「仲間が居るから……独りじゃないから。相手が誰であろうと戦えるのよ!」
アキレアが水を纏った斧を振るうと、アザミはそれを凍らせて動きを制限させた。
その隙をついて少年がアキレアに斬り掛かろうとするが、瞬時に俺が間に入って刀を受け止める。
細い腕にはしなやかな筋肉がついていて、見掛けによらず重い一撃に腕が痺れた。
「アキレアさん!」
リーオが炎で氷を溶かし、動けるようになったアキレアは少年に攻撃を繰り出す。
しかし少年はひらりとそれを避け、代わりにアザミが天井に何本もの鋭い氷柱を作り出し、それは俺達の頭上から降り注いできた。
俺は避けられるものは持ち前の回避スキルで避け、アキレアは落ちてくる氷柱を叩き折り、リーオは炎で溶かし、パクナは闇の魔法で氷柱を吸収した。
「よく避けたね」
「得意分野なもんでな!」
「……風麗」
「あの魔法を使うんだね」
風麗と呼ばれた少年はアザミの後ろに下がり、どんな魔法が来るのかと俺達は身構えた。
アザミは静かに目を瞑り、そしてカッと目を見開いた。
「凍えるが良い……!」
ウィントハーレンの吹雪を彷彿とさせる、猛烈な向かい風と冷たい雪が俺達を襲う。
「くっ……!」
「息、できなっ……」
呼吸も苦しくなる程の激しい吹雪に、立っているのもやっとだった。
「殺しちゃだめだよアザミさん」
「軽々しくアザミの名を呼ぶな。これでも加減はしている」
(これで本気じゃないのかよ……!)
白虎隊は魔法に優れたエルフの部隊だと聞いているが、風麗はどう見ても普通の人間にしか見えない。
もしかしたらアザミの異常な魔法の強さの秘密は、彼女がマリアだからなのかもしれない。
風麗がアザミのマスターなのであれば、人間である彼が白虎隊に居る事も説明がつく。
(やばい……気が遠くなってきた……)
以前ウィントハーレンの雪原で味わった感覚が身体を支配し始める。
「アザミ、風麗。攻撃を止めるんだ」
突然現れた声の主に、アザミは大人しく従って吹雪を止めた。
顔に張り付いた雪を拭い目を開ければ、ウィントハーレンの雪景色のような廊下の向こうに、見知った二人組が立っているではないか。
「すまなかったね、フリッグマスター殿」
「やりすぎですよーアザミさん風麗さーん!」
「軽々しくアザミの名を呼ぶな」
「ハルキ様……」
「ハル……さん?」
俺達を助けてくれたのは、フォレイヤの大名家出身の月下ハルキさんと従者のエキウムさんだった。
「全く……フリッグマスター殿に手荒な真似をするのは止したまえ。彼らは大切なお客様なのだからね」
「えっ、きみがフリッグマスターなの?」
「う、うん……」
見る見るうちに風麗の顔色が悪くなっていく。
「ま、マズった……」
「ショウ殿。他のお仲間の方々は客間に通してある。血気盛んな二人のせいで散々な目にあわせてしまって申し訳ない」
ハルさんがレイピアを掲げると、さっきまで廊下から天井まで覆っていた雪があっという間に消え去った。
「な、何で雪が消えたんだ……?」
「僕も氷の魔法を扱えるからさ」
「アナタも魔族なんですか?それにしては魔力が違うような……」
パクナの言葉にハルさんは苦笑いを浮かべた。
「こう見えても僕、性別は女なんだ。僕はマリアだから魔法が使える。そして、エキウムは僕のマスターなんだよ」
「は、ハルさんがマリア!?」
「黙っていてすまなかった。ただ、この外見では誰もが僕を男だと思い込んでしまうものだから、訂正するのも面倒でね」
「まあまあとりあえずフリッグマスターさん達に謝っちゃいましょーよ!」
「フリッグマスター殿だとはつゆ知らず……とんだご無礼を……!」
風麗が床に額をこすりつけて土下座をする。その隣でアザミは棒立ちだった。
「初めからフリッグマスターだと言えば良かったのに」
「アザミさん! きみも謝るんだよ!」
「軽々しくアザミの名を呼ぶな」
「そ、そんな土下座までしなくていいから……」
ぶっちゃけアザミが謝ろうが謝るまいがどうでも良かった。
俺の脳内は、ハルさんの衝撃的な告白でパニックになっていたからだ。




