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マリアノツルギ  作者: 由岐
1章 花香る国
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6.真の契約

 あれからどれくらいの時間が経ったんだろう。

 俺とアキレアは援軍を待ちながら、何とかグリフォンと闘っていた。

 彼女が火事の時にしていたのと同じ水が噴き出す攻撃をすると、俺の首の右側の一点だけが熱くなる。アキレアが使うあの力が原因なのだろうか。

 グリフォンは鋭いくちばしと爪で攻撃を繰り出してくるが、アキレアがそれを斧で受け止める。

 彼女は一対一なんて無理だと言っていたけど、ちゃんと渡り合えていた。

 グリフォンを攻撃しようと斧を振り上げるも、あいつは素早く飛び上がり翼で突風を巻き起こす。

 アキレアは鎧と斧の重さがあるからそれ程でもなかったが、インナーとローブという軽装の俺はかなり吹き飛ばされてしまった。


「ショウ!」


 風でフードが外されて、視界が明るくなった。

 アキレアの呼びかけにとっさに顔を上げると、俺の目の前に三メートルはある巨体のグリフォンが迫っていた。

 尻餅をついて、あまりの恐怖に腰が抜けてしまった俺はその場から動けない。

 アキレアが走ってきているが、グリフォンはいつ俺を爪で切り裂くかわからない。


(間に合わない……!)


 そう思って俺はぎゅっと目を瞑った。

 しかし、グリフォンの攻撃は一向に繰り出されなかった。

 恐る恐るまぶたを開けると、グリフォンはじっと俺を見下ろしていた。

 だが視線は顔ではなく、どうやら首の方へいっているようだった。

 さっきまであれだけ暴れまわっていたのに、急にどうしたのだろうか。


「おーい! まだ生きてるかー!」

「助けに来たヨ~」


 やっと援軍が来た!俺とアキレアは喜んだ。

 だけど、来た人数はたった二人。もっと人を頼めなかったのか。

 グレーの髪の剣士と、茶色い髪の棍棒を携えた女性がグリフォンに向かっていく。するとやつはそちらに気をとられたようで、その隙にアキレアが俺を立たせた。


「腰抜かしてんじゃないわよバカ!」

「し、死ぬかと思ったんだから仕方ないだろ! ……それより、あの二人が応援に来てくれた人達なのかな」

「そうでしょうね」


 男性は素早い剣さばきで、女性もそれに負けない動きで攻撃を叩き込み、時折雷を落として男性を援護している。あれは魔法だろうか。


「あの二人、凄く強いな……」 

「あの人もマスターね。それに、あの女性も……マリア」


 俺以外のマスター……あんなに闘えるなんて凄い。俺と同じフリッグマスターじゃないのかな。

 連れているマリアは一人だけみたいだし……剣士だからステータスも高そうだ。アキレアが援護せずとも、二人の連携攻撃でグリフォンは圧され気味だ。


「よし、行くぜレベッカ!」

「わかったアルヨ~!」


 マスターが気を引いて時間を稼いでいる間に、レベッカと呼ばれた女性が詠唱を始め、グリフォンの周りに巨大な魔法陣が出現した。


「いっくヨ~!」


 棍棒を高く振り上げると、グリフォンの頭上に突如出現した黒雲から大きな雷が落とされた。

 身体が痺れた隙を狙って、彼女のマスターが一気にジャンプしグリフォンに一太刀を浴びせた。


「グワッ! グワァァァ!! グワァァァァァ!!」

「おっしゃあ!」

「やったネ! ワタシ達の勝利ヨ~!」


 彼の攻撃はグリフォンの左目に当たり、やつはふらふらと飛び立ち、もと来た方へ飛び去っていく。

 グリフォンを撃退した二人がこちらへ駈けてきた。


「よお、二人共怪我してねぇか?」

「大丈夫です! ……多分」

「アナタもマリアネ? ワタシ、レベッカアル! ヨロシクヨ~」

「た、助けてくれたのは感謝するけど、馴れ馴れしくしないで!」


 レベッカはアキレアに拒絶されても、笑顔を絶やさずグイグイ仲良くしようとアピールしている。

 またアキレアの機嫌が悪くなるなと思ったが、レベッカのマスターが彼女を制した。


「レベッカ、その子が嫌がってんだろ?程々にしといてやれよ」

「うー……しょうがないアル」


 彼女はまだアキレアと話したかったらしく、少しふてくされていた。


「俺、ショウっていいます。あの、応援ありがとうございました!」

「ショウの……マリアの……アキレアよ。本当に助かったわ」

「いいってことよ。俺はセロウズだ。で、自分で言ってたがコイツが俺のマリアのレベッカ」

「ワタシのマスター、レベッカのダーリンなのヨ~!」

「だだだ、ダーリン!?」


 ダーリンってアレだろ?この人達夫婦ってことなんだろ?マスターとマリアって結婚してても良いもんなのか!


「マスターとマリアの結婚はちょっと珍しいもんな。ま、こんなに驚かれたのは初めてだけどよ」


 自分でもリアクションがデカかったと思う。だけどセロウズさんとレベッカさんは夫婦っていうより、親友同士みたいな振る舞いだったから、まさか結婚してるだなんて思いもしなかったんだ。


「……婚姻の誓いを立てたってことは、二人の契約は第三段階。だからあんなに強力な魔法を使えたのね」

「そゆことネ~。アキレアはどうアルカ?」

「契約を交わしたのは昨日だけど、第二段階よ。真の契約を交わすつもりはなかったんだけど……」

「もしかして、ショウはフリッグマスターなのか?」


 アキレアは無言で頷いた。すると、二人はとても驚いた様子で顔を見合わせていた。

 セロウズはすぐに笑顔になって、俺の肩をがっしりと抱いてきた。


「そりゃすげえや! フリッグマスターにお目にかかるなんざ、一生に一度あるか無いかっつーぐらいだからな!」

「そ、そうなのか?」

「フリッグマスターは仮契約無しにいきなり真契約が出来るし、複数のマリアと契約出来る女神に愛された男だ。そんなことも知らねーのか?」

「あたしのマスター、何でか知らないけど物凄い世間知らずなのよ」


 仮契約無しで真契約……だから俺とアキレアは、もう既に契約の第二段階なのか。

 ていうか、契約にランクが付けられてるなんて知らなかったな。こうなるならもっとちゃんと説明書を読んでおけば良かった。

 セロウズさんは剣士兼普通のマスターで、レベッカさんとは第三の婚姻の契約を結んでいるから強い魔法が使える。

 俺は様々な能力が低いフリッグマスターで、第二の契約を交わしたアキレアはそこそこ強い魔法が使える。

 そしてアキレア以外のマリアとも同時に契約が出来る……。


「じゃあショウ、これ知ってるアルカ?マリアは誰でも第三の契約出来るわけじゃないんだヨ! つよーい絆で心が繋がって、フリッグに認めてもらわないとダメアル!」

「まあ、結婚が絶対条件ってわけじゃねーから。恋人とか親友とか、とにかく互いを信頼してないとならないんだ。そうなる前に、旅の途中で死んじまうやつも少なくないんだ」

「そうなんだ……」

「契約のランクによって、周囲の見る目も変わるわ。性格が合わないからってパートナーをひっきりなしに替え続けて、絆を深めないまま仮契約ばかりをするマスターがほとんどよ。そういうマスターに引っかかる女は、強いマリアになれないのが多いわ」


 じゃあ、第三段階まで到達したマスターとマリアの相性も関係するし、セロウズさん達は物凄い人達じゃないか。


「ショウみてえなフリッグマスターの場合、マリアとの出会いは女神の導きだから相性が抜群で、だから最初から真の契約が出来るんだって言われてんだぜ」

「自分と相性が良いマリアに巡り会った数が、フリッグマスターのマリアの数なのヨ!」


 俺が本当にフリッグマスターだったとして、フリッグの導きで出会ったアキレアと俺の相性は抜群だって言うなら……俺達もいつか第三の契約が出来るようになるってことなのか。

 それに、まだ他にこの世界で相性の良いマリアが居るんだとしたら、またフリッグの導きで仲間が増えることもあり得るんだな。

 どんなマリアに会えるのか、今から少し楽しみだ。



 

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