↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアノツルギ  作者: 由岐
3章 白銀の国
46/118

10.スプラエン王家の秘密 前編

 招待状を貰った日の夜、夕食を済ませた俺は部屋にアジュガが戻ってくるのを待っていた。

 部屋というのは、俺達が泊まらせてもらっている会館内の俺とアジュガ、そしてコバに割り当てられた部屋だ。

 アジュガは夕食の後片付け、コバはマルトス侯爵とイーファンさんと一緒にコアデバイス製作に励んでいるから、今この部屋に居るのは俺だけ。

 しばらくしてアジュガが戻ってきた。


「アジュガ、いきなりで悪いんだけどちょっと話があるんだ。今時間あるか?」

「ええ、やるべきことは済ませましたから大丈夫ですよ。何のお話ですか?」


 俺とアジュガが向かい合ってソファーに座った。


「リーオのことなんだ。エボルブス国王様からの招待状を受け取った後、彼女の様子がおかしかっただろ?」

「……そうですね」


 アジュガの表情が曇った。


「それと、気になることがもう一つあるんだ。俺がリーオと初めて会ったのは、あの砦の中だった」


 彼女に、アジュガとシンフォリカルポス様が心配していて、俺達が探しに来たと伝えた。

 だけど彼女は妙なことを言っていた。


「妙なこと、ですか?」

「ああ。辛そうな顔をして……もうあの国に足を踏み入れてはいけない……。そう言ってたんだ」


 アジュガは眉間にしわを寄せて、静かに手を組んだ。


「ヘリオトロープ様がそんなことを……」

「アジュガはリーオの世話役だったんだろ? 彼女がどうしてあんなことを言ったのか、どうして今日様子がおかしかったのか……知っていることがあったら教えてほしい」


 リーオが何かに苦しんでいるなら、助けてやりたい。

 そう言うと、アジュガはほんの少しだけ表情を柔らかくして言った。


「そう言っていただけて嬉しいです。そうですね……あなたはヘリオトロープ様のマスターなのですから、知る権利がありますね。お話しします。ヘリオトロープ様のこと……。そして、スプラエン王国の闇の部分を」


 アジュガは静かに語り出した。



 数百年以上昔、スプラエン王国には二人の王子様が居た。二人は仲の良い兄弟だったが、成長していくにつれて貴族達は次期国王、第一王子の兄ばかりをもてはやし、取り入ろうとし始めた。

 その時から兄弟の間に深い溝が生まれてしまい、少年時代のように仲良く遊ぶことは全く無くなってしまったという。

 数年後、兄は王位を受け継ぎ美しい妃を迎え入れ、子宝にも恵まれた。

 弟も結婚し妻との間に子供を授かったものの、産まれたのは娘一人だけ。男の子も女の子も産まれた兄夫婦と違い、女の子しか産まれなかった弟夫婦は更に周りに追い込まれてしまった。

 女性に王位が受け継がれないスプラエンでは、産まれた男児が多いほど喜ばれる。病気や事故、暗殺により王位継承者が失われる確率が少なくなるからだ。

 女児は政治の道具として使われるのが運命であったが、弟夫婦の間に産まれた娘にはマリアの素質があると教団から判断が下された。

 表向きには例え王侯貴族の娘であっても、マリアの素質があれば邪神と戦うのが女神フリッグから人間達に与えられた使命。

 弟夫婦の娘……リリーと名付けられた彼女も、いずれ立派なマリアとなって旅立って行かねばならなかった。


 リリー姫の十五歳の誕生日、彼女にマリアの儀が施された。リリー姫は両親からは勿論、彼女がマリア候補であることを知るスプラエンの全国民からの期待を背負って儀式に臨んだ。

 スプラエン王家からマリア候補が誕生したのは歴史上初めてのことで、彼女が産まれたことにより弟夫婦の立場はある程度回復したのだ。

 そして、彼女のマリアの儀は成功し、マリアとなったリリー姫は魔法陣によって転送された。まだ見ぬマスターとの邂逅のために。


「……リリー姫が旅立った翌年、姫様のお母様が亡くなられました。世界のどこかで旅をする彼女のもとにも、それは伝わりました」


(どうしてこの話がリーオに関係するんだ?まさか……リーオもリリー姫と同じ王家のマリアなのか? だけどリーオの髪は綺麗な赤い色。シンフォリカルポス様の髪は深い青だった。血の繋がりがあるか分からないし、まだリリー姫と関係あると決まったわけじゃない……)


「妻を失った姫様のお父様は、新しい妻を迎えました。そしてすぐ子宝に恵まれ、ローズと名付けられた男の子がお産まれになりました」


 それから時は流れ、兄夫婦の息子が王位継承の儀式を迎える日がやってきた。

 しかし、その息子は儀式当日に亡くなってしまった。


「ど、どうして死んだんだ?」

「殺害されたんです」

「いったい誰に……?」

「……弟夫婦の娘、リリー姫とそのマスターにです」

「何だって!? そんなこと……っ」


 俺が思わず大声で叫ぶと、アジュガは素早く俺の唇に人差し指を当てた。


「お静かにショウさん。これはスプラエン王家の重大な秘密に関わるお話……万が一ウィントハーレンの侯爵さんに聴かれてしまっては、スプラエン王国の弱みを握られることになってしまいます」


 俺はすぐに黙って、アジュガの話の続きを聴いた。

 リリー姫は怨み、憎んでいた。王位を継げないからという理由で父と伯父の絆を引き裂き、女児しか居なかった両親に冷たくあたった貴族達を。

 そして、王位を継ごうとしている従兄弟を。

 式場に乱入した彼女とそのマスターは、大勢の人々の目の前で無惨に従兄弟を殺害した。

 残虐な魔物と邪神を滅ぼすための、フリッグの力で。


「……彼女のマスターというのが、実は数代前のフリッグマスターだったんです」

「フリッグマスターが……何でアジュガはこんな話を知ってるんだ? 」

「お城の書庫の整理をしている時に、偶然見付けてしまったんですよ。特別な封印が施されていた、秘密の文書を」

「施されてたってことは……誰かが封印を解いた後だったのか?」

「ええ。文書の表紙には、封印が解除された時に現れる刻印が浮かび上がっていました。そして、私はすぐに気が付きました。青竜の刻印……この封印を解除出来るのは、シンフォリカルポス様しか居ない、と」


 解除された文書には、リリー姫とフリッグマスターが引き起こした大事件について……他にも世間には見せられないような酷い内容ばかりが記録されていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。