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マリアノツルギ  作者: 由岐
2章 雨降る魔王の国
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11.紫の森を抜けて

 マルトス侯爵とグレイさん、カエさんと一緒に俺とイーファンさんは炎駒の塔を出て魔力のコアを探すため、ウィントハーレンに向かっていた。

 炎駒の塔があるこの地域から北のウィントハーレンに行くにはかなり時間がかかるらしい。

 実際に、カオシアの北の領地に到着するまで一週間かかった。

 カオシアは森が多く魔物も多く住み、貴重な薬草が群生しているため馬車が通るような道はそう簡単に作れない。

 そうなると、空を飛べる魔物に乗るかひたすら歩いていくしか移動手段がないらしい。

 長い移動時間のお陰なのか、彼らと打ち解けることは出来たのだけれど。

 ビエルに乗っていけばきっとすぐに着いただろう。だがアジュガもコバも居ない今、ビエルは呼べない。

 侯爵様達とたどり着いた街には、炎駒の塔に似た青い塔が建っていた。

 幸い、あの街を出てから降り続いていた雨は止んでいた。


「あの塔も麒麟の塔なのか?」

「そうだよショウちゃん。あれは聳弧(しょうこ)の塔って言うんだ」

「……ていうかグレイさん、ちゃん付け止めて」

「そんな可愛らしい格好でいられたら、そう呼びたくなっちゃうんだよね」


 実はまだ女装は続けていた。

 ウィントハーレンにはアキレア達も向かっているから、途中で出くわしても困らないようにするためだ。

 宿屋の中では普段の姿に戻るのだけれど、役に立たない今の俺が新たな力を得るまでは彼女達には会いたくない。

 あわせる顔がない、といった方が正しいかもしれないが。


「じゃあそのカッコでショウくんって呼んであげた方がいい?」

「カエさんまで……普通に呼び捨てで良いから、俺の見た目には触れないで下さい」

「今日中にはカオシアを出るぞ。この国から一歩出れば、いつ魔物に襲われるかわからん。闘えぬ者は後ろに下がっていろ」


 マルトス侯爵は魔族と人間のハーフだから魔法が使えるし、剣も持っている。

 護衛をつけているといってもたくさんの魔物に囲まれた時ぐらいしか苦戦はしないだろう。

 マスターとマリアのグレイさん達はもちろん闘えるし、イーファンさんも魔族だから闘える。

 つまり、「闘えぬ者」は俺しか居ない。槍は炎駒の街に置いてきてしまったからだ。

 カオシアを囲む結界は、外から見れば晴れ渡った空が広がる森の国に見えるが、中は雨雲だらけの魔の国だ。

 だがこの結界の中に居る魔物は草食系のものばかりで、魔族や人間に襲いかかることはない。

 結界外の魔物達は人間の肉の味を求めて人を襲い、喰らうらしい。人間やエルフ達から恐れられているこのカオシア帝国の方が、魔物の脅威を感じずに済む平和な国なのかもしれない。


「あなたのことは私が守るわ。闘えないあなたをここまで連れてきたのは私だもの」

「俺達はマルトス侯爵の護衛だからね。ショウちゃんのことは君に任せるよ」

「またちゃん付けした……」

「諦めた方が良いよ。グレイって変なところで頑固だから」


 グレイさんは呼び方を変えるつもりはこれっぽっちもないらしい。


(まかさこの歳になってちゃん付けされるなんて思ってなかったよ)


「結界の外に出れば、極寒の地ウィントハーレンだ。防寒対策は充分にしておくように」


 春のスプラエン、梅雨のカオシアという暖かい国にしか来たことがない俺には、ウィントハーレンの寒さがどれほど辛いものなのかがいまいちわからない。

 おまけに、今はまだ4月だ。もうじき5月を迎えるけれど、元の世界では5月が寒いなんてことはありえない。

 しかし、国境の結界が近付くにつれて何枚も重ね着して準備しているみんなの姿を見れば、ウィントハーレンの冬の気候がどれだけ厳しいものなのか具体性を帯びてきた。

 俺もイーファンさんとカエさんから女物の防寒グッズを借りて、国境を越える準備は調えられた。


 森を抜けると、そこは一面の雪景色だった。

 今はまだ結界の中に居るし重ね着しているから暖かいはずなのに、その景色を見ただけで肌寒く感じた。


「覚悟は良いか?」


 先頭を歩いていたマルトス侯爵が振り返る。

 俺達が頷くのを確認して、全員で結界を越えていく。

 ビエルに乗ってアキレア達とカオシアに来た時のような衝撃は感じなかった。

 どうやらあの揺れは結界に入る時にしか起こらないようだ。

 厚みのある結界の壁の中は、暖かくも寒くもない。しかし、そこを抜けた瞬間身体中が凍ったような感覚になった。


「寒っ! 寒っ! 死ぬっ! 寒っ!!」

「これがウィントハーレンだ。この国の生まれでない限り、ここの寒さにはなかなか慣れぬだろうな」

「あははー……やっぱり寒いねぇ玄武の国は」

「寒いっていうか痛いっていうか……。ねぇグレイ、くっついて歩いてもいい?」

「もちろんだよカエ。さあおいで」


 雪国だろうがなんだろうがところ構わずいちゃつくこの二人。


(これがリア充の力か……。別に悔しくなんかないし)


「人間は気温に左右されやすい生き物ね」

「私達は寒暖差に強いからな。ああいう反応をする人間を見ると微笑ましくなる」


 魔族組のお二人は寒さなんて大した問題にはならないらしい。

 若干辛そうにしているグレイさんとカエさんに比べて、魔族二人の様子はカオシアでの時と全然変わらない。


「吹雪になる前に街へ向かうぞ。そこで身体を休めた後、コア探しをしてもらう」


(俺、ちゃんと街まで行けるかな……遭難しないように頑張ろう)



 

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