18.花園へようこそ
翌朝、ギルドの前で俺達はマルスの実の依頼主が寄越してくれる予定になっている迎えを待っていた。
一晩経っても緊張は解けないままで、若干体調が悪い。軽い吐き気がするのだ。
(メンタル弱すぎるよ俺……)
「顔色悪いけど大丈夫アルカ?」
「多分大丈夫……だと思いたい」
レベッカさんが心配そうに俺の顔を覗き込む。
(セロウズさんの言う通り、レベッカさんって優しくていい人だよなぁ)
そして、俺のマリアのアキレアはセロウズさんにもっとしゃっきりしろと注意している。
「んなこと言ったってよぉ……」
「気が乗らないなら一緒に来なくても良いのよ? 付いて来るなら、相手に失礼の無いようにちゃんとした態度でいなさいよ」
「めんどくせ……」
流石アキレア。あのセロウズさんを叱るとは。
苦笑いでその光景を眺めていたら、大通りの方からやけに豪華な箱馬車がやってきた。まさかあれが俺達を迎えに来たのだろうか。
中から白い髪のお兄さんが出て来て、丁寧にお辞儀をする。冷たくも温かみのある緋色の瞳の男性だった。
「皆様をお迎えにあがりました、峰ヒギリと申します。マルスの実の依頼をお受けしていただいたショウ様、アキレア様、セロウズ様、レベッカ様で間違いございませんでしょうか」
「は、はい」
「それでは、こちらの馬車にお乗り下さい。我が君が皆様をお待ちしております」
ヒギリさんに促されて、俺達は馬車に乗り込んだ。
アキレアと一緒に王都まで乗ってきた馬車とはレベルが違う。腰掛けても尻が疲れない柔らかさで、窓や扉の装飾も凄い豪華だ。
(これはやっぱりお金持ちの偉い人に会わなきゃならないんだよな……)
俺達四人とヒギリさんを乗せて、馬車は走り出した。
「あの……俺達はどこへ向かっているんですか?」
「到着すれば分かります。皆様を危険な場所へお連れするようなことは決してございませんので、どうかご安心下さい」
目的地を教えてもらえないとは、本当にに大丈夫なのだろうか。
(うわーヤバい。すっげー不安)
今の俺に、窓から見える街の景色を楽しむ余裕は一切無い。
ヒギリさんはセロウズさん並みのイケメンだと思うけど、会ってから今まで一回も笑っていない。ずっと無表情を貫いている。
こんな無愛想な人はなかなか居ないだろう。
こちらから話しかけない限り、ヒギリさんは全く喋らない。
彼の醸し出す雰囲気であまり雑談が出来ない空気になってしまい、車輪が石畳を進む音と馬のいななき、そして街の喧騒だけが聞こえる中で、俺達は無言の時間を過ごしていた。
「もうじき到着致します」
ふと窓の外を見ると、あまり建物が建っていない緑の多い景色が目に入ってきた。俺達を乗せた馬車は橋を渡り、一際大きな門をくぐり抜けた。
門の両側には、王都の門にもあった青竜の像が置かれていて、さらに門番らしき人も立っていた。
ちらっとみんなを見てみると、依頼主に会うのに乗り気だったアキレアとレベッカさんまでもが、門を過ぎた辺りから若干慌てているような表情をしていた。
やはり怪しいところに連れて行かれてるのではないだろうか。俺が座っているところからでは馬車を降りることも出来ない。
不安は大きくなる一方で、遂に馬車は止まってしまった。
ヒギリさんは扉を開けて、俺達は恐る恐る馬車を降りた。
「……え、何ここ」
俺達が着いた場所は、真っ白な石に芸術的な彫刻が施された大きな噴水と、充分に手入れが行き届いた薔薇が印象的な庭園だった。
何より一番驚いたのが、そんな庭園の向こうにそびえ立つ立派な建物だった。
ヒギリさんは顔色一つ変えず、冷静に言った。
「シンフォリカルポス・スプラエン国王陛下の城、リューエルシアン城へようこそ。さあ、我が君へのお目通りに参りましょう」
ここは青竜が守護するスプラエン王国の王都イーサル。
俺達はこの国の国王様に呼ばれていたのか。
(そりゃあみんなの様子もおかしくなるわけだ。俺なんてプレッシャーで胃痛が激しくなってきたからな)
俺達はとんでもない依頼を受けてしまっていたようだ。
ヒギリさんはどんどん城の方へ歩いていく。俺達もそれに続いていくけれど、これから国王様に会うという人生最大の緊張のせいで、さっきからずっと心臓が激しく脈打っている。
小鳥のさえずりや木々が風に揺れる音なんて全く耳に入らない。
高校受験の時のプレッシャーを遥かにしのいでいる。面接であんなに緊張していたあの時の自分がバカみたいだ。
日本の総理大臣にすら会ったことがないのに、いきなり国王様に会うなんてどんな罰ゲームだ。
ドクンドクンとうるさい心臓の音を聞きながら、俺達は城へ招き入れられたのだった。




