13.フリッグの印
日本とは全く違う雰囲気のスプラエン王国の王都イーサルは、花の都とも呼ばれているそうだ。
装備品の店を探して街を歩いていると、沢山の花壇や植木鉢がある家や花屋、それに花をイメージした装飾品や雑貨屋が立ち並んでいるのがわかった。
「この国……特に王都イーサルの人達は、花を大切にしているの」
「凄いな……どこを見ても花だらけだ」
「もうじき花祭りの時期だと思うわ。数日もすれば、街がもっと沢山の花で飾り付けられるはずよ」
多くの人で賑わう大通りでは、祭りが近いからか行き交う人々の表情が明るかった。
戦争の直中だとしても、こうした年に一度の行事は楽しみたいんだろうな。
「さあ、着いたわよ」
アキレアに案内された店は、大通りから離れた場所だった。
さっきまでの喧騒があまり聞こえない、静かで落ち着いたところだ。
店内にも花が飾られていた。何となくだけど、こうやって花を見ると元気を貰えるような気がする。
お店のご主人は可愛らしいお爺さんだった。あの火事の町のジジイなんかとは違う。癒やし系オーラが漂っていた。
「おお……アキレアちゃんかね。久し振りじゃの」
「半年振りかしら。今日は連れの装備品を揃えたいの」
彼女はここの常連だったのか、お爺さんと仲が良さそうだ。お爺さんは俺にぐぐっと顔を近付けてきた。
「見ない顔じゃの……この前一緒に来たマスターとはそりが合わなかったかね?」
「性格最悪の変態野郎だったわよ! ホント、あんな男と旅したなんて人生の汚点だわ!」
「俺より前に、別のマスターが居たのか?」
「消し去りたい過去の人間よ! あの男、今度会ったら斧で真っ二つにしてやろうかしら……」
お兄さんの後にアキレアと契約したマスター……どんなことをしたのか知らないが、ご愁傷様とだけ言っておこう。
お爺さんは俺の身体のサイズを測っているのか、腕やら腹やら触りまくってくる。くすぐったい。
「おや、この子は……」
お爺さんの視線は俺の首に集中している。
「君、名は何じゃね?」
「よし……あ、違いますショウです」
(ヤバい、ちょっと本名言いそうになった!)
何となくだけど、吉田松成なんて名前じゃこの世界に馴染みそうにないからな。
松成の松はしょうとも読める。だからショウ。
ショウも微妙かもしれないけど、松成と名乗るよりはまだいけそうな気がする。
軽く不審者っぽい返答をしてしまったが、お爺さんはにこにこと微笑んでいた。
「なあショウちゃんや。お前さん、フリッグマスターじゃろ?」
「えっ、わかるんですか!?」
「お前さんの首のところ……わしには見えるぞ。フリッグの印がの」
お爺さんが指でちょんと触ったその場所は、アキレアが魔法を使った時に熱くなる部分だった。
アキレアも俺の首を見てみるが、その印は見えていないようで首を傾げている。
「ねぇお爺ちゃん、フリッグの印って何?あたしにはそんなの見えないんだけど」
「見える者には見えるんじゃよ。人間以外の生き物でも稀に見えたりするんじゃぞ?」
人間以外でも見える印……? あれ、何か前にもこんな風に首を見られたことがあったような……。
ああ、そうだ! グリフォンに襲われた時だ! あの時、もう死ぬのかと思ったら急にグリフォンの動きが止まって……俺の首を見ていたんだ。
「なあお爺さん、この印ってグリフォンにも見えるのか?」
「グリフォン? 見えるんじゃないかの。どうしてそんなことを訊くのかね?」
「あたし達、つい最近グリフォンに襲撃されたのよ。そういえば……あのグリフォン、妙だったわね」
「あの賢い魔獣に会って命拾いするとは奇跡的じゃの。グリフォンはどんな者でも容赦なく殺す生き物じゃ。めったに人間の前には現れぬがの」
グリフォンとはそんなに凶暴で強い魔獣だったのか。
セロウズさんとレベッカさんはあっという間に追い払ってくれたが……もしかして、まだあのグリフォンは本気を出していなかったのだろうか?
「賢獣グリフォンに出会う少年か……。ふむ、どうやら何かが大きく動きだそうとしておるようじゃの。何せ、同じ時代に二人ものフリッグマスターが現れたのじゃからな」
「……っ、あの白髪男っ!」
アキレアがお爺さんの言葉に強く反応した。
「あの白髪頭のフリッグマスターが……あの男が……!」
「アキレア……?」
「あたしの兄さんを殺したのは、お爺ちゃんが言ったもう一人のフリッグマスター……あたしはあいつを殺して、兄さんの仇を討ちたいの……!」
彼女の怒りと憎しみの矛先は、この世界のどこかに居るただ一人の男に向けられていた。




