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マリアノツルギ  作者: 由岐
1章 花香る国
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11.採取依頼

 俺のマリア、アキレアのお兄さんは彼女の最初のマスターだった。

 どうしてお兄さんが亡くなってしまったのか気になったけど、今はまだ聞けない。きっと俺が簡単に触れてはいけない話題だからだ。

 いつか彼女自ら話してくれるまで待っていようと思うのだ。

 彼女がお兄さんと果たせなかった、邪神を討つという悲願。どんな思いで旅をして、最期を迎えたのか。俺は新たなアキレアのマスターとして、その覚悟を受け継いでいきたいのだ。


 翌朝、セロウズさん達と一緒に宿屋で出された朝食を食べていた。メニューは牛乳と焼きたてのクロワッサンだった。


「アキレア、調子はどうだ?」

「疲れ取れたアルカ?」

「ええ、問題無いわ」

「それなら良かった。今日は依頼をやるつもりなんだろ?」

「そのつもりだよ」


 グリフォンから逃げ回っていただけの俺だったけど、それにしては後からやけに疲れが出て来た。

 不思議に思って今朝アキレアにそれを伝えてみると、マリアが魔法を使うとその力の代償としてマスターの体力や精神力が削られるからだと教えてくれた。

 レベッカさんも魔法を使っていたけど、俺と違ってセロウズさんは疲れた様子は見せていない。

 彼は剣士だし、マスターの経験も長いから体力も精神力も高いのだろう。

 もしもこれからマリアが増えていったら、俺にかかる負担はもっと増えていくんだよな。……貧弱すぎるよ俺。


「俺達はそろそろこの町を出ようと思ってんだ。ちょっと王都で装備を新調したくてな」


 ちらりと目をやると、彼の鎧や剣はかなり使い込まれているようで、確かに買い替え時かなと感じた。


「ワタシも新しい棍棒買いたいヨ!」

「魔物の討伐依頼ばっかこなしてるもんだから、結構早くガタがきちまうんだよ」

「報酬が良いから選んでるのか?」

「んー……細かいこと考えないで倒すだけで楽だから、かな」


 そういえば、今の俺は主人公の初期装備のままだった。

 アキレアやセロウズさん達はちゃんとした装備だが、これは流石にまずい……。


「あんたもまともなものを買い揃えないとダメね。武器も無いし、ちょっとは闘えるようにならなきゃあたしが大変だもの」

「やっぱりそうだよな……」

「この町にも武器屋とかはあるみたいだけど、物を見比べて買うなら王都みたいなもっと大きい場所の方が良いわ」

「じゃあ、依頼が終わったらショウとアキレアも王都に来ればいいアル!そしたら向こうで一緒に依頼やるヨ~」

「おお、面白そうだな! どうだ、その内四人で依頼やってみないか?」

「是非お願いします!」

「まあ……構わないけど」

「楽しみにしてるネ!」


 同じ依頼を他のマスター達とグループで受けても大丈夫らしい。

 そうやって手を組んで、魔物討伐などをこなしていく人も少なくないそうだ。

 朝食を終えて、俺達は宿を出た。


「じゃあ、また会おうぜ」

「はい。二人とも気をつけて」

「バイバーイ!」

「さよなら」


 セロウズさん達は街道を西へと進んでいった。そして、俺とアキレアは町の南にある丘へと向かった。

 俺がこの世界の文字がわからないのはまだ伝えていないから、さり気なくアキレアに依頼書を預けて目的の植物を探すことにした。


「依頼は二つだったよな」

「ええ。必要なのは……まずこの花ね」


 丘には辺り一面ピンク色の花が咲き並んでいた。

 タンポポのような丸くて小さな花で、アキレアは根を傷付けないように丁寧に花を掘り出した。


「この花はモモタマ草って言うの。繁殖力が強くて観賞用として部屋に飾る人も多いんだけど、染め物にもよく使われる花なのよ」


 俺も彼女がしたように花を掘り出して、土を落としてからギルドで借りたかごに入れていった。

 渡されたかごの大きさが必要な量の目安で、この花のように繁殖しやすい植物だと少し大きめのかごが用意されるんだとか。

 ある程度モモタマ草を集めた俺達は、今度は丘から少し離れた雑木林へやって来た。


「今度は何を集めれば良いんだ?」

「わざわざあたしに聞かなくても、依頼書を見れば良いのに……まあ良いわ。次はリリンの実よ。この辺りにあるリリンの木からとれる、小さな白い実だから」

「わかった」


 魔物に注意しながら二人でリリンの実を探していく。

 モモタマ草もそうだけど、この世界には見たこともない植物が沢山あるんだな。


「あ、俺ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「マスターが居るマリアって、他のマスターとも同時に契約出来たりするのかな」

「無理よ。フリッグは、例えフリッグマスターであっても他のマスターからマリアを奪わせるようなことは認めないわ。契約を結んだマリアは、マスターがその契約を解除しない限りそのマスターにしか従属しないの」


 フリッグは愛の女神だったよな。愛って恋愛みたいなものだけじゃなくて、友愛とか敬愛とか色々ある。アキレアとお兄さんの場合は家族愛だな。

 マスターとマリアは、色んな愛を一対一で育んでいって、それを原動力にしているのかもしれない。

 だから他のマスターがそれを邪魔出来ないような決まりになっているのではないだろうか。


「だけど、マスターが死んだらその契約は破棄される。欲しいマリアを手に入れるため……ただ単に旅を邪魔するため……マスターを殺すやつも居るの」


 彼女はどこか遠くを見つめてそう言った。


「……ショウ。あたしはもうマスターを失いたくない。あんたと……近い将来増えるかもしれない仲間と一緒に、絶対にディジオンを倒したい」

「俺も……君をこれ以上悲しませたくないから。俺、死なないから。絶対に。君を残してなんていかないよ。約束する」

「……絶対、絶対死なないでよね」


 俺の質問のせいで少ししんみりとしてしまったけれど、こうやってちょっとずつ心の距離を縮めていければいいな。

 少し時間はかかったけど、俺達は無事にリリンの実を見つけてギルドへ依頼品を届けた。

 二つの依頼で得た報酬はコイン六枚。またアキレアに馬鹿にされたけど、この世界では日本と同じような貨幣制度でお金をやり取りしていると教えてもらった。

 今日もらったコイン六枚は、日本でいう六百円程度。子供のおつかいレベルって感じかな。

 もっと報酬が良いクエストをやらないと、装備品なんて買えないよな……。



 

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