諦めない人間の意志が起こす奇跡。
「おや、支水兄様。ただ見学されているだけとは些か意外です」
「刹那か…。…まぁな…」
「…どうされたのですか? ご機嫌斜め…という感じではない様子ですが」
「見定めている」
「はい?」
「…橘の言っていた言葉を。その結末をな」
「…………」
………少しずつ、ぼんやりとしていく。
目の前で陸が泣いているのも、橘がなにか叫んでるのも見えてはいるんだけど……でも…ぼんやりするんだ。
視界じゃなくて、頭が…すごく…ぼんやりする。
「…将也っ…嫌だ、嫌だ…! こんなの酷い…! こんな未来…見えてない! 酷いよぉ!!」
「将也! お前、馬鹿ふざけんなよ! お前が信じろって言ったから、俺は万能願達、業神に使ったんだぞ!? その結果がこれって…!」
…やだな…俺…陸に…笑って欲しいのに…。
…どうしたら、俺は陸を笑顔に出来るだろう?
どうしたら、俺は陸に……あ…そうだ…橘に作ってもらった…契約石の指輪…。
「っ…?」
ポッケに…ゆっくりとだけど手を入れて…取り出した。
橘も居るし、多分伝わるよね…。
陸の目の前に出して…陸が受け取ってくれたのを見て…なんだか全部やり遂げたような気持ちになった。
なのに、陸が首をうんと横に振って泣く。
あれ…ダメだった…?
……やだな…俺は…陸に笑って欲しいのに。
どうしたら陸を笑顔に出来るんだろう?
俺は陸に笑って欲しいんだ。
俺はずっと…本当に…ただ、君に……。
「…将也……いかないで…!」
…瞼を開けて…いられない。
耳に残るような陸の声。
そんな事、初めて言われたな。
いってらっしゃい…っていつも送り出してくれたのに…。
でも…なんか………、嬉しい。
「将也…」
唇に柔らかな感触。
いってらっしゃいのちゅー…そういえば初めてしてもらったかも。
永遠に無いって言ってたくせに。
でも、まだ満足出来ないよ…陸…。
俺、もっともっと陸と色々な事、したい。
キスだけじゃない、その先も。
…あと、君とデートもしたいし…陸の事、もっとちゃんと…笑顔にしたいんだ。
(………だめだ、消えられない…だって、俺は……)
目を開く。
真っ白な世界。
頭上が光り輝いていて、ひたすらに眩しい。
俺は…この光りを知っている。
「……月科先輩…」
「やあ、腹に穴を開けたわりに元気そうだね小野口将也くん。女の子を泣かせるのは、感心しないね」
「す…好きで泣かせてるわけじゃ……って、…あれ…?」
後光を纏い目の前に現れた金髪青眼の美少年は月科翔先輩。
龍神、麒麟の王が人間に転生した姿…。
でもなんでここに…?
それに…意識がはっきりしてきた…!
「あ…?」
「…将也…」
り…陸が俺の腕の中に!
これはなんの奇跡だ!?
「………。…目の前でイチャつくのやめてくれる? ムカつくから」
「せ…先輩なんか絶好調ですね…」
「僕はいつでも絶好調だからね」
…月科翔先輩はいつでも絶好調らしい。
いや、そんな事より、なにがどうなってんの…!?
月科先輩は…もう亡くなっているはずだ…!
『琥麒…』
「やあ、リリレルナ…久しぶりだね。いつ見ても君は本当に美しい…」
「…いっ!?」
月科先輩が語り掛ける相手…それは巨大な…それこそ…日本列島丸ごと覆ってるんじゃねぇのと思うような…龍…!!
上空一面…夜時間のオーロラ魔法陣よりでかい!
これが創世の女神!?
な、なにが起きたわけ!?
「将也」
「トリシェ…!」
「…よくやったね。…さすが俺の子!」
「え…あの…な、なにが?」
いつもの青い服じゃない、真っ白衣装…腰に純白の輪っか付きトリシェが降りてきた。
こちらも後光を放っている。
いや、どっちも神様だから光っているのは…普通?
でも俺…確か創世の女神に憑依されたはずで…。
「……自覚ないの? やっぱり将也はどっか残念だね」
「う…うるせ…」
俺を馬鹿にするトリシェ。
しかし、ゆっくりとまた…空の龍と月科先輩へと目を向ける。
手を伸ばした月科先輩に、空の龍が顔を降ろしてきた。
懐かしむように…愛おしむように…。
…なにか特別な関係のようでもあるかのように……。
「……リリレルナ……強く気高い我が永久の友よ…どうか怒りを鎮めておくれ。君が人間を憎む気持ちを、どうか飲み込んでおくれ。…この世界の母たる君が、世界に根付きし生命を全て流さんとする…その決意のなんと悲しい事なのか…」
『…琥麒…優しく儚き我が永久の友よ……何故に人の子などを加護するか…。其方を利用し、その力を奪い貶める…妾の力を無理に引き出し、自らの繁栄ばかりを願い、他者を蹴落とすおぞましき生き物を…何故! 其方の慈悲をくれてやる価値もないではないか』
「…君はそう言うけれど、君が今得た新たな肉体は、君の忌む人間達によって生み出されたものだ。…有無の力……古の三大女神たちのみが扱えた奇跡の力……人間は、秘めているのだよ。…女神たちが失った力を…!」
…小難しい話をしている。
トリシェに説明を促すと、にっこり笑まれる。
…チッ、さすが神様…中身さえ考えなければ本当に綺麗な人だよなぁ…。
「…光と闇は表裏一体の属性…、本来交わらぬ光と闇が、交わるとどうなるか……知ってるよね?」
「……有無の力…?」
「そう」
……有無の力…それは、光の神器『エンシャイン・アヴァイメス』と闇の魔剣『イクスカリバーン』を融合させたゆー兄が得た……古の三大女神の力。
有を無に…無を有に…あらゆる物質、精神、事象に至るまでを自在に消したり作ったりできる力の事だ。
「…お前の闇魔力と神子殿の光魔力が融合して有無の力となり…彼女の新たなる器を生み出したんだよ」
「……そ…そんな…事…あるの…?」
「普通は無理。光と闇は表裏一体…交わる事はありえない。…でも、そのありえない事を、お前と神子殿は成した。有無の力は創世女神リリレルナの新しい器を、創り出したんだ。…さっき混乱した神子殿の輪廻の力に今は亡き琥麒もまた有無の力で新たに転生した。…奇跡だよ、これは」
「…………」
俺の身体の中に居座った創世女神が、俺の闇と陸の光が交わった事で発現した有無の力で器を得た。
陸が揺らした輪の影響で、月科先輩も有無の力で復活したって…?
こんな…奇跡…って…あり?
『………』
「君が人間を嫌いなのも、許せないのも、もう幾年月…語り合った…。結局君は僕を信じてくれなかった…。でも、それでも僕は人間たちを愛してる。君の創ったこの世界で、愚かに、暖かに、愛と憎悪にまみれながらも、それでも懸命に生きる…この弱くて強い、可能性の生き物が愛おしい…!!」
『……琥麒…! 其方を利用する生き物を何故…、…何故…!!』
「…僕も神…龍神、麒麟族の長……命を守り、真義を司る神。…僕は命を守るのが理の神だ。…君がまたこの星の命を全て流すというのなら、僕はまた、全力でそれを阻む!」
……月科先輩…!
…創世女神が世界を流そうとしたから、月科先輩は自分ごと創世女神を封印した…。
でも別に、不仲だったわけじゃないんだ…?
…創世女神は月科先輩を利用する人間が許せなくて…それで……だから全て流そうとしたのか…。
当の月科先輩が、それを望んでいないのに…。
…月科先輩が苦しめられているのを見ていられなくて…、創世女神は人間を流そうとしたのに…月科先輩は自分の全てでそれを阻んで……余計、創世女神は悔しかったに違いない。
創世女神がやりすぎなのは分かるけど、月科先輩……それって女神様が、月科先輩の事を好きだったからなんじゃ…?
『…………』
「リリ?」
『……妾は旅に出る…今度こそ創るのじゃ…人の居ぬ世界を! …もう此処には、戻らぬ…』
「え…?」
『……この世界は其方に任す! 妾は出て行く! …妾はどうしても許せぬ! …じゃから…! ………後は、其方の好きにすれば良い……妾の代わりに…其方ならば…良き世界とするであろう…』
「…君は!」
『言うな!』
「……………」
陸が俺の服を強く掴む。
神様同士でも、こんな………恋を…。
「………あとの事は…賜るよ…」
『……………………………』
オーロラの奥へ…ゆっくりと消えていく創世の女神。
旅に出る…人の居ない世界に。
大好きな相手をただ守ろうとしただけなのに、その相手があまりにも…何もかも受け入れてしまうから…想いは届かない。
…相手を信頼して、託すけど…でも…多分…本当は…………。
「………」
「………」
月科先輩は…少し寂しそうに彼女を見送った。
俺たちはそれを、ただ見守る事しか出来なかった。
創世の女神、リリレルナ……俺…少しだけあんたの気持ちが分かるよ。
俺の好きな人も…痛みも、苦しみも、我慢して受け入れてしまうから…。
だから余計にそんな相手を傷付ける奴が許せないんだよね…?
「……また君を孤独にしてしまったんだね…リリ…、僕は……」
「…創世神は孤独なものさ。…寄り添う相手が居ただけでも奇跡。…龍神、麒麟の王…いや、琥麒、君は新たな創世神としてこの銀河に君臨する事を甘受するのかい?」
トリシェが問う。
月科先輩は微笑んだ。
「勿論だよ、輝きを齎す希望の英雄神。…君の意には添わないかな?」
「………俺がこの世界に、子供たちを根付かせようとしたのは…この世界が不死鳥の創世神だったからだからね……まあ、ちょっと残念かなー…」
「………子供たちか…」
と、月科先輩が俺をまっすぐに見据える。
光輝く、二体の神様…。
「…残念がる事はないんじゃないかな? 君のご子息は人の身で有無の力を発現させるという奇跡を…僕たち神にして見せた。…人間の可能性を、確かに示したのだから」
言われて俺は陸と顔を見合わせた。
…俺と陸の闇と光が有無の力に…。
…でも…普通…光と闇が融合するなんて事はないはず…。
ゆー兄も『エンシャイン・アヴァイメス』と『イクスカリバーン』の融合には…俺たちの本当の父親……古の三大女神の生まれ変わりでもあったキング・アーサーの助力があって出来た事って…。
「…でも…どうやって有無の力に出来たか…分からないし……なあ?」
「う…うん…」
「………それ言う? いや、いいけど…」
「え?」
なんか変な事…聞いたのか?
トリシェがにんまりとしたのが…不気味…。
「…愛の力の、奇跡じゃない?」
…………陸がやけに胸に顔を押し付けてくるワケだなぁ…と、顔が赤くなるのを感じながら…思った。
橘「いや、諦めなかった将也と神子の執念だよ」
将也「てめぇなんか色々ぶち壊しだよその台詞」




