神様の理想と、陸の想いと。
壁から生えた枝たちが、複数の個体に変わっていく。
鳥のような身体…でも、顔はまるで龍…!
「…あんたが世界を創った女神…! …ようやく会えたな。…ずっとあんたと話がしたいと思ってたんだ」
『……ほう…貴様、最早人間ではない様じゃのう……。…面白い、妾になんの話ぞ? 申してみるが良い』
「…あんたが世界を滅ぼして人間を絶滅させようとしてるって陸が言ってた。それは、本当?」
あまり疑った事はないけどね、それに関しては。
でも万が一、勘違いとかならそれでいいじゃん?
つか、万事解決じゃん?
…一縷の望みってやつで、聞いてみた。
『いかにも』
………あ…やっぱりそうなんだ。
「どうしてそんな事を…!? この世界にどれだけの命があると思って…」
『命など、巡り巡るものよ。…今絶えたとて、洗い流せばまた生まれる! …勝手にな!』
「か…勝手にって…」
『幾度もそうであった! 汚らわしき人間どもめ、妾の清き大地に呼びもせぬのに勝手に生まれ居出おって…! 幾度流しても、時間が経ち、ある程度の食物連鎖が仕上がる頃になると湧き出しおる…! おかげでちっとも妾の思った通りの世界にならぬ! ほんに、なんと目障りな…!』
「…………幾…度…も…?」
『そうじゃ』
「……人間が…生まれる度…に…?」
『そうじゃ』
「………………………」
…じゃ…じゃあ…初めてじゃ、ないって言うのか…?
世界が成長し、人間が発生する度に創世の女神は人類ごと全ての命を水で流して“掃除”した…?
そんな………そんな…!
「なんでそんな…どうして、そこまで人間が嫌いなんだよ…? 人間があんたに何したって言うんだよ…!?」
『妾の星を食い荒らすではないか。妾の力を利用し、琥麒の慈悲にこれでもかと甘えおる。…琥麒の奴め、妾を封じ、人の世の行く末を見て決めよ…などと甘い戯れ言を申しおってからに…それ見たことか! 人間に神力を奪われ、輪廻の輪に送り返されおった! 己らの味方をした、大恩ありし神に対して…その様な恩を徒で返すような愚行を成すが人間よ。…どう慈悲を与えよと言う?』
「…だからって、今一生懸命生きてる命を全部殺していい理由になんかならねぇよ!!」
『ほほほ…! おぉほほほ…!! ご立派な理由よのう…! 笑いが止まらぬぞ…ほぉほほほほほ…っ! よ、よもや魔王の口から…ほほ、い…命を加護するよう…求められるとは…!』
「……っ……!」
…闇の魔力が、溢れてる。
黎明が今までにないくらい、おどろおどろしい姿に…変わっている…。
…魔王………俺は……魔王になったの?
だから、魔王だから、命を生かす事は…おかしい…?
そんな…!!
「勝手に将也を笑わないでくれる?」
『ほ…?』
「橘…!?」
しゅっ…と俺の身体から橘が分離する。
人の姿を模した獣……幻獣ケルベロス族の橘に、創世の女神は笑うのを止めた。
「…まだ完全に魔王になってない。それに、こいつは世界の命なんて本当は割とどうでもいいって思ってるんだから」
『……ほう…?』
「……将也、正直な気持ちを全部話すんだ。…神様相手に奇麗事なんか長持ちしない
「………」
『……将也が女神の説得してる内に、神子と篠崎遥は俺がなんとかしてみるから』
「…!」
契約石を通じたテレバス…。
そっか…とにかくこの場から“器”を出した方がいいって事か…。
橘に強く頷いてみせる。
俺は橘を信じる…陸と篠崎先輩は頼むからなっ!
「俺は陸が、輪廻の神子が好きなんだ! だから彼女と一緒に居たい! 陸とイチャイチャしたいし、デートで色んな場所に行きたいし、陸とエッチぃ事もしてみたい!! …将来は結婚して陸にウェディングドレス着せて、子供生んでもらって…一生イチャイチャして生きたいんだ!」
『…………』
…あ…なんか女神がドン引きしてる気配…。
「やれやれ…本当に将也ってアホだよね…。ね、神子?」
そんな俺を横目に、橘が陸の結界に近付いていく。
どうするつもりかはわからないけど、橘を信じるって決めたから俺は俺のやるべき事をやろう。
「あんなのの一体どこがいいの? …神子は将也の、一体どこが好きなの?」
「………将也の…好きなところ…」
「そう。…自分の命を懸けてもいい…そこまで想うに至った理由を教えてよ。…将也のどこが好き?」
「………」
「………」
「……眼が、綺麗なところ…。…透き通っていて、強く輝いていて…でも、奥はちょっとだけ寂しそうだった……」
「他には?」
「……いつも笑ってるところ…。…明るくて、周りも明るくなる。…人を気遣えるところ…。
…忙しくても、生徒会の仕事、ちゃんと手伝ってくれた。…新しい役員を探すのも、仕事の合間にやってくれた…だから、一年生がたくさん入ってくれたんだ。…あと、真面目なところも…好き。…頑張り屋で空回りが多いけど、何事にも真面目に一生懸命やる…。…それに、一途で……理音の事振り向かせようと一生懸命だったところ…。…見てて切なくなるけど、格好良くて好きだった…」
「…あとは…?」
「…家族思いなところ…。…トリシェさんを仕事そっちのけで助けに来たり…優弥さんに逆らえなかったり…優弥さんと那音さんとの事、いつも気にかけていた…。二人に幸せになってもらえるようにこっそり、たくさん、頑張ってた。…俺と空兄が本当は親子だって、将也が教えてくれなかったら…きっと一生知らないままだった。将也が教えてくれたから、俺……お母さんの事も…空兄がどんな気持ちで俺を守ってくれていたのかも…知る事が出来たんだ……だから……」
「……ねぇ、神子は――…陸は、本当は将也とどうなりたい? 本当に陸が欲しい未来って、どんなもの?」
「………」
「……将也が笑って生きてるだけでいい? 違うよね? …本当は…」
「言わないで!! だって…だってそんな未来…見えない!! 俺が器になれば、将也は理音と上手く行く! 将也がずっと好きだった女の子と! …その方がいいに決まってる!」
「…本当に?」
「………っ」
「……その未来、将也は本当に笑ってる? 陸が好きな将也の笑顔?」
「…………」
「…陸が好きなのは、将也のどんなところ?」
「……ま…さや…っ…の…」
「………」
「………将也……っ」
…―――突然、橘の身体を黒い炎が包む。
でも、それは一瞬で、黒い炎は巨大な魔法陣になる。
黒くて、赤い光を放つ魔法陣を見て創世神がおののく。
『馬鹿な…!? その力は…! あ、ありえぬ…!』
「え…な、なに!?」
俺を見上げでニヤリと笑った橘が、黒い炎と魔法陣を広げながら教えてくれた。
あの野郎は隠していたのだ…。
幻獣ケルベロスには、黒炎と呼ばれる黒い劫火に一つだけ、特別な能力が付属する。
黒炎能力と呼ばれるその能力は一体につき一つだけ。
神楽さんは『石』
刹那さんは『粉砕』
千歳さんは『雨』
支水さんが『水』
…というように。
ただ大人にならないと使えないというから、皇や千里同様…橘もまだ使えないんだと思っていた。
『貴様のその黒炎…一体なんじゃ!? 一体、なんなのじゃ!? その力は…!?』
「俺の黒炎能力はちょっとばかり特殊でね。発動に色々条件が必要らしいんだ…。ま、どうやって発動すんのかぶっちゃけ俺もまだよく分かってないんだけどさ…」
「………」
な、なんというアバウトな奴!?
いや、橘らしいけど!
「っていうか、発動に条件がいる能力って…一体なんなんだよ!?」
「……万能願達」
「万能…がん、たつ…?」
「どんな願いでも、一つだけ必ず叶える事が出来る能力さ。それは理すらも覆す事が出来る…全能の力…!」
「………あ……」
なに、そのものすごい反則くさい力…!
なぜに、今!?
「…さあ、峰山陸。君の願いを言霊という形にしてごらん。この力は君の想いで発動した、君の願いを形にするために現れた力なんだから」




