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毒デレ!  作者: くらげなきり
8/86

テストと追試と幼なじみ。




「…陸…」

「………」

「…えっと……、…教えようか…?」


今日は一緒に帰ろうと思ったのに…俺のマイエンジェルは追試中でした。

うちの学校はエリート校として偏差値が70を越えている。

…陸は生徒会長だが…お勉強が苦手なのです。


「…う…うん…教えて…」

「…………(か…かわいっ…!)」


素直な陸ひたすら可愛い…!

ちょ、感動もの…!

これ全米が泣くよ…!


「どこ、分かんなかったの?」

「こ…ここ…、数式の組み合わせが…」

「ああ…これは先に出題されていた計算式を応用するんだよ。計算式は大丈夫?」

「………う」

「…じゃあ、計算式の説明からするね」

「…うん…」


…きた…ついに来たぞ、俺の時代…!

勉強を教えつつ俺の頼りになる度とカッコイイ度を陸の中で上積みするチャンスだ!

今まで色々な所で時影さんに後れを取っていたが勉強なら誰にも負けない…!


「こら」

「あいたぁ!?」


脳天に硬い長方形の本で殴られた的な痛みが!

…しかしボトッと俺の頭の上が固定位置だったトリシェが落下してくる。

助かった、痛みがトリシェのおかげで緩和していたのか……し、しかし異世界出身とは言え曲がりなりにも神様になんて事を…!

…いや、でもトリシェをクッション替わりにしたとかゆー兄にバレたら殺される…というか誰だとトリシェにこんな酷い事をした奴は!


「って、国重先生…!」

「小野口…追試中に答え教えちゃだめだろうが」


国重刹羅先生、歴史の先生でゆー兄の同級生である。

うちの学校の先生にしては常識人で気さくな為、生徒に色んな意味モテる。

なんでも初恋は高校入学したてで、成長期前だったゆー兄という話だが真実は闇の中だ。


「答えじゃなくて解き方を教えてたのにー……大体なんで国重先生? 歴史じゃん」

「八代先生が峰山に近付くと吐き気がするとか言い出して仕方なくな…。…で、とりあえずノートを見るのは許可するが教えるのは駄目だ! 大体小野口はクラス違うだろう?」

「えぇー…」


って八代先生、こんな可愛い子を前に吐き気がするって失礼だな!

どういう神経してんだよ!


「…大丈夫ですか、トリシェさん…?」

『………、…弱っているとはいえ…神に対してこの仕打ち……俺に非があるならまだしも……!』








あ…トリシェが珍しく本格的にムッとしている…。

そりゃ思わぬ攻撃で蠅のように叩き落とされれば頭にも来るよね…トリシェ悪くないし…。


「く、国重先生! 小野口くんのこのぬいぐるみは神様が宿っているから会長権限で失礼のない様にと教職員の皆さんにも伝えたじゃないですか!」

「え? …あ~…そういえばそんな話もあったな…。あはは、すまんすまん。それより続きをやってしまえ、峰山! 帰るの遅くなっちゃうぞ」

「…~っ!」

「………」


く…国重先生…完全に信じてないな…。

そりゃ、こんな二十センチもないぬいぐるみに神様が宿っているって現代人に言っても…まず信じないよなぁ…。


「だ…大丈夫か…トリシェ?」


あまりにも膝と手を付いたまま、立ち上がってこないトリシェが心配になる。

さすがに一般人相手に強化魔術使って蹴ったり殴ったりはしないとは思うけど…。


『……』


無言で立ち上がると、無言で俺の腕を伝い肩まで上ってくる。

大人しすぎて……怖いな…。


「…しかし小野口のぬいぐるみは小さいのに凄いな…乾電池かなにかで動いてるのか?」

「いや、だから本当に正真正銘…」

「神様ですってば!」


国重先生本当に全く信じてねぇぇ!?

それ以上刺激しないでぇー!

こう見えて強化魔術を使った蹴りとかパンチは本当に壁まで吹っ飛ぶくらいの威力を誇るんですーぅ!!(体験者談)


『…来年の三者面談見てろよ若造…!』

「………」


しかしトリシェが俺の首筋に隠れながら吐き捨てた台詞は保護者全開だった。

…三者面談か…国重先生、うちのクラス担任じゃないし多分ゆー兄が来るって言うと思うんだけどな…。

…うん、でも確かにトリシェは俺の父さんでもあるもんな……そうか…これが大人の対応なのか…。


「トリシェさん、ダメージが大きいなら俺の魔力使って下さい!」

『…平気平気、ありがとう神子殿』

「…音声対応機能まであるのか…王苑寺が作ったのか? あいつ本当にすごいなぁ…」

「…国重先生…生徒の言う事、少しは信じようよ……」

『テメェ若造、あんま失礼なことばっか言うなら出るとこ出てもいいんだぞ! 名誉毀損と傷害で訴えてやる! 金にモノを言わせて日本に居られなくしてやるからな!?』

「こらこらこらー……一応いい先生なんだから止めて上げてー…」



トリシェ…燈夜兄の財力なら本当にやれそうです…。








国重先生の対応は、極々普通の対応だろう。

普通、こんなちまいぬいぐるみに神様が宿っているなんて信じない。

何しろ威厳も有り難みも全くない姿なのだ。

勿論、トリシェも最初からこんな残念な姿だった訳ではない。

俺はゆー兄伝に聞いただけだから、トリシェの元居た世界がどんな風だったか…想像する事しか出来ないけど…。

ただ、トリシェはゆー兄が助けに行った時…既に“死んでいた”

…死んだ後…神様になったんだって。

人間から神様になった奴らは大きく二つ…『実体型』と『憑依型』に分けられるらしい。

生きたまま神様になったら『実体型』

死んだ後に魂や精神が神格化したら肉体を持たない『憑依型』になる。

トリシェは亡くなった後に神格化した『憑依型』

『憑依型』は何かに憑依していないと力を上手く扱えず、しかし…この様に小さくて魔力の蓄積量が望めない器に入ると人間のように睡眠を取って回復する必要があるんだとか。

つまり今のトリシェは、本来の力の半分も使えない弱った状態。


「……」


そう、少し前まで…トリシェの器はこのぬいぐるみではなく、俺やゆー兄が長兄だと思っていた燈夜兄だった。

トリシェが抜けた後の燈夜兄は、精神的にほとんど成長しておらず、まるで幼児みたいだったんだ。

実は燈夜兄は生まれた時に未熟児で、死の淵に居たらしい。

『憑依型』…そして『光属性』という珍しい属性だったトリシェが器にする事で、燈夜兄は一命を取り留め成長を早めた事で肉体は安定…今はすっかり健康体になった。


元々異世界で神になったトリシェがこの世界で血も繋がらない俺たち兄弟に…ここまでしてくれるのには深い理由があるみたいだけど…。

…それは、やっぱりゆー兄に聞いて欲しい。

トリシェを助けたのは…ゆー兄だからね…。




『…? どうしたの将也』

「んー…そういえば燈夜兄って本当は順番的には何番目だったのかなーって」

『あの子は二番目だよ。優弥が生まれた後、一悶着あってね……その時、身体を借りたら成長しちゃってさー、仕方なく優弥を次男って事にしたんだよ』

「へぇー…じゃあ結局「兄さん」かぁ」









「…終わりました…」

「おー、お疲れ!」


割とヘロヘロになった陸がテスト用紙を国重先生へ提出する。

いや、本当にお疲れ様です…。


「…理音さすがに帰ったかな」

「は?」

「今日一緒に帰る約束してたんだ」

「…マジで…?」


教室を出てから知らされた真実。

…陸は俺という彼氏がありながら、隠し事が多すぎだと思います。

校舎をでて校門へ近付けば…居るな…。

まあ、あいつ真面目だし約束したら自分から破る事まずないもんなぁ…。


「あ、陸ー!」


時影さんと雑談中だったらしいが、陸の姿を見つけた途端表情を一変…くそう、可愛いなぁ…。

母親譲りの推定Iカップはありそうな胸を揺らしながら手を振る。

…コート着てても揺れるだと…けしからん…!


「…げ…将也」


そして俺の姿を目にした途端に表情を一変させる…Gでも見るかのような、イヤーな顔に。

…こいつー、日本屈指の大人気アイドルグループの鳴海ケイトにその顔…!


「なんで将也が居るんだよ!」

「いいだろ学校同じだし同じ家に帰るんだから。そもそもお前、南雲の僚に帰るのになんでわざわざ西雲まで来てるわけ?」

『やっほー、理音ちん久しぶりーぃ』

「あ、トリシェさん! お久しぶりです!」

「………」


そしてトリシェにはちゃんとお辞儀までしやがる。

ムカつくなー…!


「神子様、お荷物をお持ちいたします」

「いいよ、別に。その代わりちゃんと守ってね、今日は理音も居るし」

「…、…かしこまりました、神子様」


そして隣は隣であんな事言ってるし…俺どんだけ陸の中で護衛能力ないの…!?


「で、相談ってなんなの?」

「それが…」

「お姉ちゃーん!! コーンスープ買えたよー!」

「うごっ!」

「…………」


…突如、理音の背後から抱き付いてのしかかる男。

理音を「お姉ちゃん」と呼ぶにしては、ちょっとでかすぎる。

無理もない…身長は俺や時影さんと同じ185くらいはある。


「と…燈夜兄も居たんだ…?」

「うん! ぼく、理音お姉ちゃんのごえーだからー!」

「燈夜くん重い…! 重いよ!」

「あ、ごめんなさぁい」

「………」


誤解しそうだから改めて記す。

身長185センチは間違いない。

俺が「兄」を付けている時点で俺たちよりも年上です。

満面の笑顔で理音へ缶のコーンスープを差しだし、褒めてとばかりに輝く眼を向けるこの男こそ……元長兄、小野口燈夜だ。









「聞いて聞いて将也お兄ちゃん、ぼくね、じどーはんばいきで飲み物を買えるようになったんだよ! この間、理音お姉ちゃんに教えてもらったんだー!」

「へーすごいすごい」

『将也、棒読みすぎ』


改めて紹介します。

この見た目長身の成人男でありながら、舌っ足らずな喋り方をする学ランが痛々しさを醸し出す男の名は小野口燈夜。

我が小野口家の長兄で、元々はトリシェが器として使っていた存在だ。

トリシェ乖離後はゆー兄が扱いに困り、那音姉の妹であり俺の同い年の幼なじみ、柳瀬理音の護衛として体育会系の体力馬鹿学校『南雲学園』の生徒として編入。

現在に至る訳だが…見ての通り、なんか理音が面倒を押し付けられているようにしか見えない。

しかし実際トリシェが使っていた身体として、その知識量・身体能力は計り知れず、発想力や頭の回転のスピードは俺を上回る。

戦闘能力はゆー兄並という恐ろしい精神的幼児だ。


……しかし……将也お兄ちゃんって…。

慣れない………。



「…で、相談って?」

「陸ブレないなっ。…あ、うん…それが燈夜くんの事なんだけど…ほら、あたし達来年三年生で生徒会卒業じゃん? 人手不足で燈夜くんを役員にしたはいいけど…それでもまだ足りないし……燈夜くんを生徒会に残しても大丈夫かなって」

「…そういえば燈夜さん、一年生って事で編入させたんだっけ…?」

「うん…一般常識は残ってるみたいなんだけど、人見知りが激しいし…見た目これじゃん? 友達もいないみたいで…」

「そっか…それは確かに心配だね」


俺、身内なのに完全にスルーされている…。

いや、頼られても困るけど……っていうか…。


「人見知りなの? こいつ」

「こいつって言うな! …すっごい人見知りだよ…まぁ、うちの生徒会メンバーに対してなんだけど…」

「……あの面子じゃ無理もないような…」


理音の通う南雲学園の生徒会役員の顔ぶれはパーフェクト秀才・奇人・橘、そして会長に理音…。

…基本変人の巣窟だ、西雲も南雲の事は言えないけど…。


「クラスでも浮いてるみたいだし」

「そりゃ無理もないって…」


見た目コレで中身アレじゃ。


「女の子からはすごくモテる…っていうか構ってもらってるみたいなんだけど…!」

「…そりゃ友達出来ないって…」


中身がアレで見た目がコレだから女子からすると構いやすいのか…!

そりゃ男子は面白くなかろう!








理音の相談内容は要するに、この乙女ゲーにしか存在しないような見た目は大人、中身は子供の純情キャラの、今後の取り扱いについて…という事のようだ。

首を傾げて、とりあえず自分の事を言われているのは分かるらしい燈夜兄はコーンスープを上下に振っている。

…飲めばいいのに…。


「…理音が心配する気持ちも分かるけど、本人にどうしたいのか聞いてみたの?」

「あ…」

「燈夜さんがどうしたいのかにもよるし、理音は燈夜さんの為にどうするのが一番だと思うのか、ちゃんと考えてそれも本人に伝えてあげた方がいいんじゃない?」

「…そ…そうか…だよね…」


…一般的な女子高生では普通抱かない悩みだよなぁ…。

それにアドバイスする陸も陸だ…、なんて大人な意見なんだろう…!


『…将也も神子殿みたいに、わざわざ悩み相談をされにくるくらいの男にならなきゃ釣り合わないよ』

「うぐぅ…!!」


頭上のトリシェが、俺にクリーンヒットのホームランを打ち込んできやがる。

ごもっとも過ぎて危うく心が折れるかと思った…!!


「本当にいつもありがとうね、陸! 今度あたしにもお弁当作ってきてよ!」

「なんで相談に乗った挙げ句、お弁当まで作ってあげなきゃいけないんだよ」

「だって橘ばっかり陸のお弁当ずるいし!」

「すみません理音さん発言よろしいでしょうか」

「? 何、将也?」

「…橘の野郎が陸のお弁当を食べているって一体どういう……」



あいつ、学校が違うんですけど。



「体育祭とか学園祭の時に各学校集まった時とか。橘の奴、基本食べてるじゃん? なんか朝は優弥お兄ちゃんちで食べてきて、優弥お兄ちゃんとか、うちのお姉ちゃんが作ったお弁当とかも持って来るんだけどー、気付くと食べ終わってるんだよね!」

「それで足りなくなって死にかけてたから…作っていってあげたらすごいテンション上がってきちんと仕事してくれたから…」

「餌付けか!」


W会長の説明に納得したが、俺の堪忍袋にブスリとなんか刺さったぞ!

あの野郎、新婚のゆー兄んちに現れて朝飯を頂いた挙げ句弁当までねだったと!?

しかもそれプラス俺の愛しきマイエンジェルの手作り弁当を食していただとぉぉ…!


「あの野郎…! 橘の野郎…! 俺はそんなに、そんなに甘やかして貰ってないのにいぃぃぃぃ!!」

「…将也って本当に優弥お兄ちゃんっ子だよね…」

「理音だってシスコンじゃん!」

「………(小野口くん…それブラコン宣言だよ!)」

「当たり前じゃん! うちの那音お姉ちゃんは世界一可愛くってなんでも出来る超イイ嫁なんだから! 変態だけど!」

「くそぅ…! 俺だってゆー兄に甘やかしてもらいたい…!」

『散々甘やかされて育った結果、家事スキルが0なんだろうが!』

「ぐがっっ!?!?」








蹴られた。

壁までぶっ飛び、転けてコンクリの冷たい地面にこんにちわ。

そう、これがトリシェの強化魔術使用の蹴りの威力です。


『全く…将也は優弥にどれだけ甘やかされたか分かってないよね…!』

「うー……、…でもトリシェおじちゃんもー…将也お兄ちゃんをすっごく甘やかしてたってゆーやお兄ちゃんがゆってたよー?」

『………………』


燈夜兄の指摘にまさかの沈黙。

…確かに…俺の記憶(すっごい幼少)だと、お風呂や勉強や保護者参観は全部、当時燈夜兄の中にいたトリシェである。


『…俺は基本小さな子は好きなんだよ…』

「苦し紛れにしか聞こえねーよ!」


コンクリに打ち付けた頭が割と本気で痛かったのできつめに突っ込むと顔を逸らされる。

トリシェこの野郎。


「将也お兄ちゃんは愛されて育ててもらったんだねー!」

「・・・」


最終的にそんな事を言い出す燈夜兄。

この人はずーっとトリシェの器として人格が成長出来ないままだった。

でもそれは燈夜兄を生かすための処置でもあったから…仕方がない。

俺たち兄弟は現代の科学では不可能な生み出され方をしたんだもん。


「でも俺は燈夜兄を甘やかさないからな!」

「? うん?」

『…本当どうしてこう心の狭い子に育っちゃったかなぁ…』

「な! 狭くないもん普通だもん!」

「将也キモイ。もんとか言うな!」


今度は理音に殴られた、グーで。










「ところで時影」

「はい、神子様」

「喋らないと空気だと思われるよ」

「………も…申し訳ございません…?」

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