一度決着つけとくべき、だよね!
「にしても…俺、魔王化進んでたらしいのに…なんで黎明が元に戻ってんの…!?」
『…さあ? 詳しくは分かんないけど…さっき神子の神気が凄い勢いで弾けたよね? その時の神子の光魔力が、神気に宿って将也の…魔王の素質を圧迫して縮小させたのかも…。今も、巨大な光の魔力に覆われてるようなもんだし』
「………俺って…本当…周りの人たちに支えられてるんだよな……お前を着てるのも、関係してんだろ…?」
『……多少はあるだろうね…』
ノーマルに戻った黎明を握り締める。
陸と、トリシェと橘…俺の魔王化は、いっつも三人のおかげで完全覚醒には至っていない。
包み込んでくれる…暖かくて優しい光の中…俺は幸せ者だなって思う。
本当は、本当はさ…ゆー兄が羨ましかった。
那音姉とトリシェの光の加護に守られ、魔王の素質を消失した…その境遇が。
俺はそんな風に守ってくれる人が居なかった。
だからこんな事になったんだって…実はずっと思ってた…。
でも…トリシェはちゃんと俺の事も気にしていてくれたし、陸も俺が魔王化しないように神域へ下宿を提案してくれた。
正直橘が光属性ってのが大分意外だったけど、現在進行形で物理的にも守ってくれてる。
「…陸が俺を下宿させ続けてくれたのも…俺の魔王の素質を抑える為だったのかな…」
『そうでしょ。結果的に勘違い男を増長させる事になったっぽいけど』
「とてもうるさいです」
しかしずいぶん、地上から離れたな。
創世の女神は疲れたのか…唸るばかりで暴れなくなっている。
…陸はどこだろう…?
「? なんだあの穴…?」
『…篠崎遥の匂い…。…多分、篠崎遥が魔法でぶち開けた穴だ。…あそこから入ろう』
「は…入るの?」
『入んないの?』
「……は…入るのか…」
篠崎先輩が入ったんなら…入るしかないか……。
まるで植物みたいな根がゆっくりと穴を塞ぎつつある。
迷ってる時間もないから諦めて穴へ飛び込む。
「うわ…」
中は空洞…。
薄黄緑色の体内は脈を打ち、あらゆる方向へ根が張り巡っている。
なにこれキモ!
植物が生きてるみたい…!
『精神体が植物の細胞を間借りしているのか…厄介だな…』
「…厄介なのか?」
『創世神って、生命力の塊みたいなものだから…生命力が強い植物と合体って再生力が半端ない。…もう穴もなくなったしね』
「…っ」
橘の言うとおり入ってきた穴はもうない。
脈打つ根が気持ち悪い。
とりあえず上か下か…どっちに行くべきか…。
「どっちだ、橘」
『上。膜、見える?』
「…ああ…」
薄いクレープ生地みたいな膜が見えた。
小さな穴が消える直前…、という事は…篠崎先輩が通った後って事か…!
飛び上がって、黎明で膜を破ろうとした。
でも、傷一つつかない…!?
「なにこれ…!?」
『結界だ』
「…っ…薄いから簡単かと思ったけど…そうはいかないって事…! なら…!」
魔王化、第一段階解禁!
黎明が魔槍と化す。
練習では一度も出来なかったけど…今なら…!!
「うおお!」
黎明で斬りつける。
スパッと綺麗な切れ目。
すかさず、切れ目から中に入ると…瞬く間に切れ目が消えてしまう。
…は…早! 戻るのむっちゃ早…!
「…!?」
…そして、その空間に佇む人影。
双刀を構えた、時影さん…。
「………やはり、来てしまわれたか」
「………やっぱり、時影さんは陸を見捨てるんだね」
「否。…某は神子様がお役目を果たされるのをお守りする。邪魔立ては許さぬ」
…そんな気はしていた。
この人は、陸の全てを守ろうとしていた。
陸の絶対的な味方。
陸がやると言った事を、決めた事を守る。
俺と違って、抗ったりはしない。
咎めたりもしない。
受け入れ、受け止め…側に添う。
『…? 状況が分かんないよ、将也』
「武士ってのはさ…主君の為に命をかける人種なんだ。…陸がやるって決めた事を、達成出来るように手伝うんだって」
『…は? え…意味わかんない。…だって神子、死ぬかもしれないんだよ…? 騎士なら止めなきゃ駄目じゃん』
「武士と騎士は似てるけど違う。…死を美徳みたいに考えてるのが武士。負けて生き恥を晒すくらいなら潔く死ぬってさ」
『はあ…!?』
橘が珍しくがちでびっくりしてる。
…まあ、ですよね…。
…でも、そんな気はしてたんだよねぇ。
「…なにを一人で喋っている?」
「残念、俺が着てる服、橘なんだよ。武装モードっていってさ、ケルベロスの鎧毛、借りてるんだ。…橘と喋ってんの」
「…幻獣…ケルベロス…」
「そう……神に連なる王たる獣…幻獣ケルベロスの鎧毛。王苑寺先輩製のバイオキメラの威力は俺も知ってるけど、神器も防いだケルベロスの鎧毛を傷付ける事は出来るかな?」
『…あのさ…妙なチャレンジやめてくれる…? 王苑寺のバイオキメラって純粋な破壊力に特化した“兵器”だろ…? 俺まだ禿げたくないんだけど…』
…まー…なんとかなるんじゃないでしょうか?
…と…無責任に言うのは避けます。
「…侮らないで頂こう」
「…!?」
「…斬れぬモノも斬ってみせよう…」
………………気迫。
今まで対峙したことのある…誰よりも凄まじい気迫…。
支水さんの威圧とも、支配心の圧力とも、ゆー兄の圧迫感とも違う…。
肌がビリビリするような、けれど、どこか清々しく…絶対に譲らないというピンと張り詰めたような…そんな感じ。
陸の為に刀であり続けると言った、時影さんらしい空気。
しかし…構えた姿に、見覚えがある。
あの構え……でも…まさか…?
「……その構え…真影月牙流…?」
「…存じていたか」
「いや…ゆー兄と梅松さんと同じ流派…だから…」
「………」
梅松さんちは剣道の道場。
流派発生は戦国時代まで遡る…とか、小さい頃連れてかれた時に聞いた記憶があるが…へぇ、まさか時影さんと同じとは…運命っておっかねぇなぁ…!
遠回しにゆー兄とも戦うような気分。
「…将也殿」
「…なに」
「…引き返す気は?」
「ない」
「…では…」
一層、腰を落とし…刀を水平に構えた時影さんの気迫が増す。
「峰山陸が家臣…真影月牙流、柏葉真一郎時影…参る…!!」




