本人は至って通常運行らしいです。
人間には耐えることの出来ない濃度の殺意の中で、二人の人間が浮遊していた。
光の結界は優しい色なのに、殺伐とした空気。
黒髪のその人は、優しい笑みを浮かべているのに何故かとても気持ちが悪い。
その人は司藤澪。
人間を全部神様にする、と言い放った人。
「…司藤、澪…理事長…!?」
「あれ、君…僕を知ってる人? 見たことはあるけど…僕、君を知ってたかな…?」
うーん、と笑顔で首を傾げる。
あ…記憶に残ってないんですね……、なんか無駄にホッとしました。
しかし不気味なのはもう一人…篠崎先輩の方だ。
押し黙り、俯き気味でぼんやりとしている。
「……篠崎先輩も……一体こんな所で何してるんですか…!?」
「…、…今の遥に話しかけても無駄ですよ。…もう精神は引き抜いてしまいましたから…」
「………、…え…あ…、…は?」
『…あいつ……なんて事を…!』
精神引き抜いた?
精神って、心だよね…?
心を…引き抜いたって事?
そんな事、出来るの…!?
「…もしかして君も創世の女神を捕まえに来たのですか? それは困ります、僕、この日の為に大分頑張ったので」
「…捕まえに…!? なに言って……篠崎先輩に一体何したんだよ…!?」
「……? え…だから…捕まえるには檻がいるから……、…君はなにをしに来たのですか…???」
「…檻……?」
この人、本当になにを言ってるんだろう。
…駄目だ、会話が成立してない…!!
『…あいつ…! …将也、あいつ篠崎の身体を使って創世の女神を捕縛するつもりだ…!』
「え…!?」
ほばく………捕縛!?
捕まえる…あ、え? 神様を捕まえるって…えええ!?
「なんで!?」
『知るか』
…トリシェの、言っていたことを思い出す…。
篠崎先輩が器になったら…トリシェ以上の巨神が復活する…って。
まさか、本当に…?
「……篠崎先輩に…創世の神様を憑依させて…なにをするつもりなんですか?」
橘の浮遊魔法を使って、同じ目線になる。
笑んだその人は優しく諭すように…俺に言う。
「人間全部神様にして、滅ぼしてしまうんですよ。いらないでしょう? 神様たちに疎まれて、見下されて、無知なまま満足して、欲にまみれ、見るに耐えない争いを繰り返し、変わろうともしない…本当に虫螻のような生き物であり続けるくらいなら」
「………俺は、人間のあり方とか…興味ないから……貴方の言っていることは…分からないけど……それは、貴方の勝手な解釈、勝手な結論に…聞こえるんだけど……」
「んん…まあ、それは色んな人に言われるけれど…考え方って人それぞれでしょう?」
にこ、って……。
この人……本当何言ってんの…?
そう思うなら、なんで人間なんかいらないって事になってんの…?
そんな考え方で、なんで篠崎先輩を器にしようって事になってんの…?
「…っ、どっちにしろ…篠崎先輩を器にさせるワケにはいかないんだよね…!」
黎明を取り出す。
その時…「え?」って思った。
黎明の姿がノーマルに戻ってる…!
…なんで…? 俺、魔王化進んでたハズなのに…!?
「…僕の邪魔をするのですか…?」
「…まぁ、そういう事になりますかね…」
『将也…!? 時間ないって言ってんじゃん!?』
「でも篠崎先輩を見捨てるわけにもいかないよ…! …陸は篠崎先輩の代わりに器になるって言ってた…、そうしなきゃ…俺が魔王になるよりも酷い事になるって……」
『…神子が…っ』
俺も出来れば無視したいけど、陸の先見の力は絶対的だ。
本来器になるという篠崎先輩がこんなタイミングで現れるなんて、陸の見た未来が限りなく近付いている証拠のように…思えてならない。
…篠崎先輩が器になれば…陸は消えなくて済む……。
そう、思わないでもないけど…!
…じゃあ君は、篠崎先輩なら死んでもいいって言うのかよ…!?
ああ、本当に陸の言うとおりだよ…!
篠崎先輩なら消えてもいいのか?
それは違う、篠崎先輩は…まるで死にたがりみたいな事ばかり言っていたけど…陸に「代わりに死ななくていい」って言ってた。
それって優しさだよね。
自分の死を受け入れて、なにもかも諦めている笑顔も忘れられない。
俺は陸に嫌われたくないし…、だから…!
「…先においき」
「………」
「待て…!」
司藤澪が指示すると、頷いた篠崎先輩が暴れまわる創世女神の頭部へ向かって上昇していく。
行かせちゃいけない! 直感的に…!
…しかし俺の前には…司藤澪…!!
「僕にはどうしても君が僕を邪魔する理由が理解出来ないのですが」
「……多分、話しても分かんないんじゃないかなぁ…。司藤理事長、会話のキャッチボールする気ないっぽいし」
「説明してくれます?」
「…やっぱりねー…聞いちゃいない…。…司藤理事長こそ自分の息子をなんで殺そうとすんの…!? まさか知らないわけじゃないよね…!? 『光属性』『憑依型』以外の神様は、人間に憑依したら人格を消しちゃうんだよ!?」
「もちろん、知ってますよ。だから遥の精神はほら…ここに抜き取ってあります」
と、笑顔の司藤理事長が取り出してきたのは小さな水晶玉。
綺麗な赤い光が灯ってる…まさか…あれが篠崎先輩の心…?
「…精神を抜いた器になら、創世神を入れても人格は壊れないでしょ?」
………あれ……お、俺おかしいの?
この人、さも良いことしました風に言ってるけどさ……、…絶対…この人のした事は…許される事じゃないよね…?
親が子供に…する事じゃないよね…!?
「………っ」
ヤバい…なんだこの人…!
気持ち悪い…!! 狂ってる…!
…王苑寺先輩が言っていた意味がしみじみ理解できたよ……、この人は…なにか壊れてる…!
「あきまへんなぁ、父親がやる事やおまへんえ、兄さん」
「!?」
リン…とした鈴の音色を纏いながら会話に参入してきたのは…空さん!
衣装変わってるんですけど…!?
じゃ、なくて…!
「空さん、どうやってここに…!? 普通の人は創世の女神の殺気で死んじゃうって…」
「アホ、俺を誰やと思うとる。俺かて腐っても神誓の一族の末裔や。直系やぞ直系!」
「…え…えぇ〜…で、でも…」
「そない言うならあっちの兄さんのがおかしいやろ。どないなっとるん? 見たとこ神誓の一族とは違う様やけどな…あんた」
と、空さんが見上げたのは司藤理事長。
…確かに…精神を引き抜かれ、影響を受けい篠崎先輩は分かるけど司藤理事長は生身だ。
会話は成立しないけど、話が出来るって事は精神はあるらしい。
どうして無事でいられるんだ…?
「……下劣な奴やな……幻術か…!」
「…幻術…!?」
「本体は安全な場所でぬくぬくしとるんやろ。…これだけ本物に近い幻術は相当に高度な技術やと認めるけどな……俺はああいうのは好かん…!」
「………」
吐き捨てるように言った空さんへ、意味深に笑む司藤理事長。
「世界が滅びるのに、安全な場所なんてないと思いますけど…。…貴方は?」
「嵐山空。神誓の一族の者や」
「己が一族の罪を贖罪しに来たのですか?」
「…せやなぁ…俺がそれできればえぇんやけど…生憎、それぁ俺の娘がやろうとしとるねん。せやから俺は娘の事は娘が選んだ奴に任せる!」
「空さん…」
「…行き、坊主! 陸を頼む」
「………うん…!」
空さんの周りに浮き上がったお札は、トリシェがよく、空さんに与えていた加護の力…!
少し心配ではあったけど、篠崎先輩と陸のどっちも創世神の器にする訳にはいかない…!
時間もないし…!
飛び上がって司藤理事長を通り過ぎる。
…追撃はない。
…陸、待ってて……俺は絶対、こんな運命ぶっ壊す…!
だから…、諦めないで…!
「……篠崎遥……あんたの息子なんやてな」
「そうですよ」
「…おたく、ほんにとち狂った奴やなぁ…俺には自分の子、犠牲にして人類滅ぼそなんて思い付きもせぇへんわ…。子供可愛いないん?」
「すごく可愛いです、とても愛してますよ。…だからこそ…子供たちに相応しい世界を残してあげたいじゃないですか? こんな汚い世界じゃなく…もっと美しく清潔で正しい…そんな世界を」
「そこに子供居らんようになってん?」
「精神はここに抜いてあります。…クローン技術も燈夜くんが確立してくれましたし……なんの問題が?」
「……おたくとは会話にならへんな…」
「不思議とよく言われます」
「………。…俺…おたくを同じ子を持つ親として認められそにないわ。…全力で潰さしてもらう」
「物騒ですねぇー…。…僕は強いですよ?」
「生憎、俺も強いで? …神誓の一族やからな」




