俺はやっぱり陸が好き。
「………」
運命は変えられないから、運命って言うんだから。
変えられない運命、決められた未来。
本当、未来が見えるとろくな事がないらしい。
けど、多分…陸は篠崎先輩と違って、変えられる運命を信じたかったんだ。
泣くのも我慢して、消える事への恐怖も抑え込んで…。
…死ぬしかない…裏を返すと「生きたい」と言ってるようにしか聞こえない言葉。
そうだよね…死ぬのは恐い。
嫌だよね……だって君だって…あんなに望まれて生まれてきて、あんなに大切に想ってくれる人たちが居るんだから。
俺も嫌だよ…喧嘩したままなんて絶対嫌だ。
「っ…!!」
「はいちょっと待って」
「くぇっ」
勢い良く一歩前へ。
しかし勢い良く、襟の首根っこを後ろから引っ張られる。
つ、詰まった!
こんな酷い事をする奴は1人しかいない! タイミング的に!
「た、橘またテメェかっ! ぐぇほ!」
「…とりあえず冷静になろうか」
「れ、冷静だし!」
「そうは見えないし」
「冷静だっつーの!」
「あ、アイス当たった。ラッキー」
「この寒い中当たり付きアイスとか食ってんじゃねーよ! 見てるこっちが寒々しいっつーの!!」
「支水兄もどー? 甘くておいしいよ、新感覚だよ」
「………貰う」
「貰うのかよ!?」
「貰うのかよ!?」
俺とゆー兄の突っ込みが被った!
「…………くっそ本当自由だなお前…!」
「将也が縛られすぎなんだよ。…運命なんて、あってないようなものなんだから」
「……あってないような…もの…?」
と、棒アイスを支水さんと千歳さんに献上した橘は、モナカアイスを取り出しやがった。
…あの…寒くないのんでしょうか…?
今1月なんですけど。
1月の夜間なんですけど。
気温三度無いんですけど。
普通に息白いんですけど。
「人の努力で打ち破れるもの。努力っつーか、まぁ根性? 諦めなければどうという事もないよね」
「…お前…その性格からは考えられないくらい愛と勇気と希望に満ち溢れた事を平然と言うよな………」
「将也もそのへたれぶりからは考えられないくらい自分の顔に自信満々な事をよく言うよね」
「日本屈指のトップアイドルに失礼だよお前!」
全国のファンに謝れ!
あと俺にも!
「………だ…大体…目の前の現実、見て言えよ……あの半透明なでかいやつ……あれ…なんだろ…? …あれが……っ」
「そうだね……創世女神リリレルナ…。間違いなく、この世界の意志が具現化した姿だ」
「………っ……間に…合わなかったん…だ…俺……陸を…泣かせて…トリシェに…ここまで飛ばされて…なにも出来ずに……ただ、助けられて……っ」
なんて惨めなんだろう。
助ける…守るなんて息巻いて……俺は結局、肝心な時にいつもこうなんだ。
創世の女神を説得するとか言って、説得以前の問題だったじゃないか…!
なんだよ、これ…!
俺…俺は…っ!
「……陸……」
「諦めるのか?」
「………諦め…たくなんか…っ…でも…」
「なら諦めんなよ。まだ間に合うんだし、ほら」
「…え……」
橘に促され見上げた先には相変わらず、山そのものを覆うような白い光の結界。
その中で半透明なモノが山からそそり立ったまま暴れている。
…あれが…なに?
「…トリシェと神楽のW結界。あれは創世の女神と言えど、器を吸収していない状態じゃあ易々とは破れない。…あの二人、どっちも結界系得意だからね」
「……………」
「神楽はうちの一族の神子だから、神属性と相性がいい。例え魔力属性が違っても、効力は倍で発揮できる」
「…時間はまだある、って事か」
「うん、そう。…そこまでたくさんはないけどね。…今の力が弱った二人の状態を考えると…本当に踏ん張ってもらったとして…ギリギリ朝まで保つか微妙」
「…将也」
ゆー兄、空さん…橘……。
俺…まだ諦めなくても……いいって事…?
まだ、終わってない?
陸に…会える…?
俺…、…また陸に、会いたい…!
「千歳」
「う、…なんでしょう」
「女神イブを連れてこい。里へ帰る」
「…は、はぁ!? だ、だって神楽がっ…」
「イブの安全が第一だ。捨て置け」
「し、支水、お前っ」
「ユウヤ…貴様は誰の守護者だ? 優先順位を間違えるな。やらぬというなら今すぐやめてしまえ。俺はどちらでも良い」
けど、そんな中でも支水さんは冷静です。
那音姉こと女神イブを最優先に考える…ゆー兄が支水さんに噛みつこうとしても、冷たい眼で冷淡に言い放つ。
…ゆー兄が優先すべきなのは那音姉だ。
創世の女神が完全に復活して、神子の器を得られなければ……世界は水で流される…!
俺が今、創世の女神を説得しなきゃ…、みんな…。
「…俺、行ってくる! 創世の女神を説得してくる! 陸も返してもらって、世界を滅ぼすのも止めてもらう!」
「将也…!?」
「絶対なんとかするから、ゆー兄は那音姉んとこ戻りなよ!! 間違っちゃだめだ、ゆー兄は! せっかく両想いになったんだから!」
「…っ…」
「行こう、橘!」
「へーいよっと」
モナカアイスをがっつり食い終わった橘の奴は獣型に姿を変える。
乗れって事らしい。
いつも転移魔術のくせに…。
『あ、支水兄』
「? なんだ」
と、俺が跨がろうとしたら、橘が支水さんを振り返る。
『…支水兄もまだまだ修行不足かもね。力ばかりあっても使い方が貧相っていうか、範囲が狭いもん。そういう生き方もありだけど、俺は支水兄の視野がもっと広ければいいと思う。強さって、そういう形しかないわけじゃあないと思うから』
「…は…?」
「ーーーーっっっ!?!?」
千歳さんとゆー兄の顔が一瞬で青ざめたのと、支水さんの顔がどんどん険しくなるのが…素直に怖かった。
俺の股に頭突っ込んで、無理やり背中に乗っけると橘の奴は颯爽と逃げ出した。
「…………お…お前恐ろしいな…。…上級上位兄って逆らっちゃ駄目なんじゃねーの?」
『逆らっちゃ駄目って事もないよ、恐くて逆らえないってだけ。…そりゃ支水兄は本当むっちゃ恐いけどさー……神楽を見捨てるとか、ちょっとムッときちゃったんだもん』
「………」
…こいつ…、神楽さんの事で……。
「…橘って、結構神楽さんの事、好きだよな」
『だから…神楽はもっと俺を甘やかすべきだよね』
「いや、それはどうだろう」
そこは賛同しかねるな。
『結界ん中、入るよ』
「え、あ…どうやって…!?」
『こーやって』
足元のふわふわが突然消える。
落ちる! と思ったが毛が靄になり、靄は俺の身体に衣服として再構築された。
武装モード…び、びっくりした…!
あれ、でも前回とデザインが微妙に違うような……?
…首もとふさふさファーが増えている気がしますが…まぁいいか、暖かいし。
「え…これでどうやって…?」
『下から入るよー』
「うぉえ!?」
ぐぅ、と身体が急降下する。
だからテメェ橘この野郎…!
俺は墜ちる事に悦楽なんざ感じねぇんだよっつぅのにぃぃぃぃぃ…!!
「うぉっ」
すぽ、と山の中腹辺りから結界の中に入り込めた。
え…なにこれどういう原理?
『咄嗟だったから、瓶を逆さまにしたような…被せる形の結界になったんだろうね。下の方はそこまで頑丈に作られてない。…わざとかもしんないけどー』
「…そういう構造…」
確かにいきなり下からドーンって生えてきたもんね。
瓶を逆さまにして、閉じ込めている感じな訳か…。
「でも、それじゃまた地面に戻って別な場所から出てきたりとか……」
『やんないと思う』
「なんで」
『負けたみたいでムカつくから』
「………そういうもんなのか…?」
『だって創世の神様だもん。異世界の神と獣相手に屈した感じがして絶対やらないと思う』
「………そういうもんなのか…」
『プライド高くなきゃ、肉体が封じられた状況で復活しようなんて思わないよ』
…よく分かりません、その気持ち。
しかし橘の分析は、あながち間違ってもないらしい。
結界の中では半透明なモノが次第に色合いを強めながら、鋭い爪で結界を引っ掻いている。
なにあれ…龍の…爪?
「……なんか…すごく、息苦しい…」
『無理もない…生身の人間ならもうこの殺気にやられてるよ』
「…殺気…?」
『言ったろ、人間には出せない濃度の殺気は…それだけで人を殺せるんだよ』
「……お前を纏ってるから、耐えられているって事か…」
神楽さんの殺気、トラウマもんだもんね。
とりあえず階段を登りながら、山頂の峰山神社を目指そう。…重苦しいのが登れば登る程、濃くなる。
うう…気持ち悪い…。
『そんなつらい? …んー…じゃあこれならどう?』
「ん…?」
ふわっと黒い靄が上がると、またデザインが微妙に変わった。
袖とか裾とかが伸びたし、手袋はめとる。
耳にも耳当てみたいなのが付いたし…え、防寒?
「……あ…れ?」
重苦しい感じがほとんど消えた…?
『覆う面積増やしてみた』
「自由自在ですな…」
『幻獣ってのは何も珍しいからそう呼ばれている訳じゃない。…人間の望む望まざる姿もまた、その名の由来』
「………つまり、俺が望む姿、必要な姿に…なれるって事?」
『将也が必要としなきゃ、やらないよ。めんどいし。形が固定化しないのは、今のところ将也の戦闘スタイルがあやふやって事』
「…………すみません」
ゆー兄と神楽さん並に戦いにおいても信頼し合えれば、デザインは固定するって事ですね…。
『一気に上まで行く? …ん? …あれ…なんで人間の匂い…?』
「…え?」
ふわっと浮いて、階段をちょっとショートカット。
境内まで来ると本宅や本殿があった場所はクレーターどころか火山の火口みたいになっていた。
………陸の家…無くなっちゃった…。
火口付近は物凄い熱がグツグツと煮立ってる。
本当に噴火口みたい…、橘が武装してくれてなかったら絶対ヤバいよ…ここ…!
「あれ…まさか人…? …ん、なんか見たことありますねー。…小野寺くんでしたっけ」
「小野口です! …って……貴方は…!」
先程よりも白く色付いてきた創世女神の側に…見覚えありまくりな人が浮いていた。
黒い髪、黒い眼、とても二十歳近い子供が居るようには見えない男。
真っ白なロングコートを靡かせて、同じ顔の息子を引き連れて……。
「…司藤、澪…理事長…!?」




