俺と陸。
「…じょ…上級上位兄…」
その気になれば、10分やそこらで人類を絶滅させるのも容易いという…幻獣ケルベロス族の上級上位兄が…動かせる…。
「……でもなんか神楽さんとか千歳さんとか木吏さん見ちゃったから…いまいちイメージが……」
あんなイメージです。
「…まぁ、あの上の奴らも…割と適当だけどな。…生キャラメルとかでフッツーに釣れるし」
「生キャラメル…」
やっぱりお菓子で釣れるのかよ…!!
「…でも長の代理はそうでもない。…マジで怖かった。…露姫の五倍くらい」
「そ……それは…こ、恐いね…!」
「本気でキレた時の梅と那音くらい…!」
「めっちゃ恐いじゃん…!?」
「…二人にしか分からん基準で会話せぇへんといてくれはるか?」
梅松さんと那音姉がマジギレした時って、誰も逆らえないんだよ…恐くて!
ほら、あの二人そんなにほいほい怒るタイプじゃないから…!
「………」
…けど、上級上位兄……橘が言ってた、神楽さんよりも上の…。
「神子殿」
「は、はい…?」
「君の視た未来にケルベロスは居たか?」
「………。…はい、神楽さんと…橘…、千歳さんと…白夜という方、支水…さん?」
「白夜と支水か…!」
「誰?」
『上級上位兄の内の二体だね…。支水は確か半神化したケルベロスだ、長の次に強大な力を持つ奴だよ』
「あ……前に橘が言ってた…?」
『そう』
人間をハウスダストくらいにしか思っていないという……。
でも白夜って?
聞くと、ゆー兄が神楽さんの異母兄の一人で八雲さんみたいなミニチュア系だと教えてくれた。
第7子、白夜……しかし彼もまた、神楽さん同様ケルベロスとしての力の核…『霊剣』を失っているらしい。
「…しかし、それだけじゃまだよく分からないな…。…神子殿、もう少し詳しく教えてくれないか?」
「…………」
「陸?」
ゆー兄の頼みに、陸はまた俯く。
俺が近付くと後退りして、首を振る。
「…話…しても変わらない…! だって…話した未来も、変わらなかった…! 今のこの状況だって、将也は分かってくれない…!!」
「り、陸…」
分かってくれないって……、だって…そんな……そんな未来…!
俺のせいで陸が犠牲になる、そんな未来…俺が受け入れられるはずないじゃん…!?
「変わるよ! 未来が分かるなら、その通りにしなきゃいいだけの話だろ!?」
「そんな単純じゃない! 変えられない未来しか、俺は視えない! 例え変えられる可能性があったとしても…一つでも間違えば結果は同じだもん! トリシェさんが君のお父さんに攫われた時は本当に幸運だったんだよ! 君があの時、箱を開けなければ未来は俺が視た通りだったんだよ!?」
「でも変わったじゃないか!」
「君は視えないから、そういう事が言えるんだよ!!」
「っ」
それは、その通り…だけど!
「俺はただ、ただ君が生きて幸せになってくれるならそれだけで良かったのに…! 君が男なんか無理って言ってたから、俺の事を好きになる未来なんかやっぱり嘘なんだって、そう思えてたから……そんな夢みたいな未来を視れただけで、俺は満足だったのに…! …だから…、…なのに…!」
「陸…」
「なんで……、…結局…こうなってるじゃないか…!? 未来が変えられるって言うんなら、俺の事なんか見捨てろよ…!!」
「そんな事出来るわけないだろ!?」
「なんで分かってくれないの…!? 俺が器になれば万事解決するのに!」
「分かるわけないだろ…! 俺は陸が好きなんだって言ってるじゃんか…!! なのに陸が死ねばいいなんて、そんなの分かれって方が無茶なんだよ!!」
「分かってよもう! 俺は、将也が好きだから将也に生きて幸せになって欲しいって言ってるんだ!」
「君が居ない世界なんかで俺が生きていられるわけないって言ってんの!」
「だから、俺の事なんか嫌いになればいいだろ!!」
「出来っこないよ、そんな事!!」
「なんで!? どうしてだよ…! 未来が変えられるって言うんなら…証明してよ…!! 俺の事…ほっといてよ…!!」
「どうしてはこっちだよ! そんなの…陸が器にならなきゃいいだけの話じゃないか! 陸が器にならなくていい未来があるんなら――」
「っ…じゃあ君は篠崎先輩なら死んでもいいって言うのかよ…!?」
「――……」
詰まった。
しまった、と思った……これは、地雷だった…。
陸が、許すはずはない。
一気に冷める。
冷静さが戻ってきて、なんとか弁解しなきゃって……。
「篠崎先輩だって…死にたいわけじゃないのに……あの人だって、本当は助けて欲しくて、あんなに………っ」
「あ…あの、陸…っ」
「…だから、未来を…俺が…代わりに、っ器に…なれば…! そうすれば…きっと……っ…」
ヤバい、ヤバい…!
陸…、俺の大好きな…世界で一番大切で、綺麗な俺の好きな女の子…。
言わせたくない…言わせたくない…!!
「…俺が死ぬしか、ないんだよ!! …なんで分かって…くれないの!! バカぁぁ!!!!」
…聞きたくない。
そう思ってたからなのか、言われた瞬間凄まじい耳鳴りと圧力を感じた。
圧し潰されるような感覚に耳を押さえて膝を付く。
「………ぐ…!?」
い…痛い…!
キーン、って…耳鳴り、スッゲェ…!
「…なん、だ…っこれ…!?」
「!?」
ゆー兄や空さんまで耳を押さえてしゃがみ込んでいる。
な…っ、え?
俺だけじゃないの? これ…?
『ヤバい! 神子殿!』
状況がさっぱり分からない中、トリシェの声がして……重力に引っ張られるような感じも、耳鳴りも収まってきた頃ようやく顔をあげられた。
いっつつつ……こ、鼓膜の奥がじんじんするぅー…。
『……ううっ…っく…うっううっ…!』
「………」
「…は…?」
「神子様…! トリシェ殿、どういうおつもりか!?」
時影さんの怒鳴り声も霞むくらいの聴力だが、視覚は問題ないらしい。
じゃあ…トリシェが人間だった頃の姿に具現化して、陸を結界の中に閉じ込めている様に見える…この光景は幻じゃ、ないのか…?
「トリシェ殿…!」
「黙れ、五月蝿い」
…丸い、水泡のようなふよふよした結界の中に泣きじゃくる陸が閉じ込められてる。
な、なんで…?
切羽詰まった表情で、両手を突き出し結界を御するトリシェの様子は…かなりヤバそうだし……でも…!
「……トリシェ…」
「…ごめん、でも…多分、気付かれた…!」
「……、…」
事態が飲み込めない俺たちとは違い、ゆー兄がイクスカリバーンを抜く。
王の身から出でた魔剣を、刀の姿に形状変化させてしばらく…ゆー兄が険しい顔で辺りを警戒する。
…わかんない…状況が全く読めない…。
ただ…ゆー兄とトリシェが、なにかから…攻撃を警戒している…?
二人の雰囲気に緊張が伝染し、俺も時影さんも空さんも…腰を落として周囲に気を張る。
「……ゆー兄…あの…状況が分からないんだけど…」
「さぁな、俺も知らねぇよ」
「え!?」
「…でもトリシェが「気付かれた」と言った以上、警戒しろ…! 神子殿の身を狙う連中の数も考えて…多分、…ヤバい…!」
「…………」
俺は黎明を、時影さんは双刀を呼び出して構える。
…そういう、事…なら…確かに…!
狭い居間では俺は不利だし…廊下まで進み左右を確認する。
静かだし……特に気配も感じない。
……いや…静かっていうのは、違う。
陸が…泣いてる。
「………」
…でも、だって…陸…そんな……君の言うこと…聞けるわけがないじゃないか…!
俺は陸が好きなのに…、俺の命より、君の方が大事なのに…!
そんな君を犠牲にして笑って生きろなんて、そんなの…おかしいだろ…!
無理だ、出来るわけが…ない…!
「……う、うっ…く…」
そんなの…絶対、嫌だ。
嫌だよ…陸。




