君が俺の為に死ぬというのなら、俺も君の為に死のう。
どうしたら陸の涙を止められるか、俺は一応考えた。
考えて、泣きやませるのを止めようと思った。
だって陸は、多分、ずっと我慢していたんじゃないかって思ったから。
泣いたら周りが心配する。
時影さんも俺も空さんも。
去年の夏休み、八草に酷い事をされた時でさえ…陸は泣かなかった。
やっと弱いところを出してくれたんだから…俺は、それを全部受け止めてあげなきゃじゃん…?
だって陸は、俺の弱いところを受け止めてくれたんだから。
…次は俺の番だよね。
っていうかいっそずっとこのままでもいいかも……至福…!
「……泣くつもりとか…なかったんだけどな……」
あらかた泣き終わったらくしゃくしゃな顔で鼻をかむ陸。
いやいや、泣き顔も大変可愛かったです。
「…………………なんで笑ってるの」
「いや…可愛くて和むなぁって」
「……………」
不審者を見る顔の陸も可愛いーなー…!
「……将也…俺は君に、俺の事なんか忘れて欲しいんだけど…」
「…多分その論争、永遠にいたちごっこだと思うよ。俺は陸の事が好きだから、諦めないって決めている。…陸は俺に、陸を嫌いになって欲しい…何故なら自分は消えてしまうから。俺に悲しい思いをさせたくないから、嫌いになって欲しい…でしょ? …けど俺は、そんな陸の気持ちを分かっていてあえて言うよ。…何回でもね」
「………そう…」
もう一度鼻をかんで、ティッシュで目許を拭いてから…陸は深々ため息を吐く。
お互いに譲れないのは、同じ……そこをようやく理解してくれたらしい。
「………そうだね…」
「?」
「……君のこと、本当に好きだったよ…一年生の時からね…。…でも君は、理音に夢中だったし、男は無理って公言していたから…俺は……自分の力が、普通の霊能力とも違っていたのも…どんどん強くなっていくのも相俟って……駄目だな、って…思うようになったんだ…、……合わないなって…君と俺は…無理だな、…って…」
「………」
「力が強くなって…自分の役割を自覚して…月科先輩から全部聞いて…自分の生まれた意味を理解して……そうしたら…将也の事…ただ生きていてくれるだけでも、なんだか…それだけで嬉しいって思えてきた。…未来が見えるようになった頃……自分が消えなきゃいけないって思い知った時…恐くて堪らなかったけど……その代わり君が生きて過ごす未来を守れるんだって思ったら…それはとても…幸せに思えた。…誇らしくて、嬉しかったんだ」
…初めて聞く、陸の本音。
ほんの少し、寂しそうで…でも…清々しいかのように微笑んでいる。
陸の…それが抱えていたもの。
「…だから決めたんだ、君の生きてる未来の為に死のうって。…君のためになら、俺…なんの後悔もなく死ねるから」
「………」
「…あのね、将也……俺…君のこと、大好きだよ。世界で一番…君が好き。…たから君には俺のために、生きて欲しいんだ。…本当に俺の事が…好きなら生きて欲しい…」
――俺が、ずっと見たかった笑顔。
だから、こういう時に…そういう顔で笑うなよ。
…俺は………、…俺は…っ!
「……ごめん、聞けない」
「……………」
「…俺も、君が好きだから……君のために死ぬって決めたんだ」
…静かに、一筋涙が伝う。
本当に悪いとは、思うよ。
君の命懸けの想いに応えてやれないなんて、最低だって思う。
…でも、譲れないんだ…俺も。
橘とも、王苑寺先輩とも、空さんとも、楽都とも、片森先輩とも、約束したから。
「……変えられないから…運命…」
「……?」
「………篠崎先輩の…言うとおり……なのか……」
「…………」
―――運命は変えられないから、運命…。
…あ、篠崎先輩が言っていた…。
あれ…そういえば…篠崎先輩、陸に「俺の代わりに死ななくてもいい」…って…。
「…あのさ、陸…教えてくれない…?」
「…?」
「陸の視ている、未来」
「…………」
…しょ…正直陸が見ていられないくらい失意のどん底みたいな顔してて…辛いんだけど……。
「どんな未来か分かるなら、どんな未来でも変えられるよ」
「…………」
…………。
駄目だ…眼が死んでる……陸…。
「………」
…俺の事で、こんな風になっちゃうなんて…。
そんなに…想っててくれた…んだ………。
…俺って本当に馬鹿…、もっと早く…気付けば良かったのに…。
……もっと早く、陸の事を見ていたら…!
「陸」
「………柱が立つんだ…」
「………、…柱…?」
「…神様が…この世界の一部として具現化した姿……神子を飲み込み…その器…肉体を苗床にして…大きな……大きな柱が立つ………柱はこの国…この土地だけに…慈悲を与えて……他の国…土地はどんどん…涸れていく……たくさん…死ぬんだ……」
「…………」
「…八人の王が…神様と意志の疎通の為に選出されて……君は…闇の王になる……闇の王になったら…君は死なないけど…ずっと……心を閉ざす……ずっと独りきり………闇の王にならなければ…魔王になって…闇の王に討たれる……誰も君の死を…悼まない……」
「……っ…」
「……そんな未来………俺は、嫌……」
「………陸…」
「…いやだ…」
王様にも、魔王にもならないで…か…。
…そういう意味、だったんだね…?
いやだ、とまた泣き出した陸を抱き締めて…俺は改めて思い知った。
……どこまでも、俺のためだけに…陸は足掻いているじゃないか…!
なんだよ、これ…、つまり…俺は…!
「…篠崎先輩が器になったら……将也が…そんな風に…なる、なら…俺が………俺が器になる…! 俺が死ぬから…! それしか、運命を変える術がないなら…俺が……だから…!」
「…………」
…全部、俺のせいだったんじゃねーか…!!




