財布の中身がなくなりました。
「次の仕事もありますから…撮影する時間はありませんが、一時間くらいならモール内でお買い物してきてもいいですよ」
「マジで? ありがとう葛西さん!」
思わぬアクシデントで明後日まで予定が仕事で埋まった訳ですが、葛西さんがそんな粋な気を利かせてくれた。
「土産だ土産だー! マイエンジェルにお土産だー!」
「ケイトくん、キャラだけは崩さないで下さい!! 素に戻ってます! ケイトくーん!!」
そんな訳で。
「チッ…変装しても俺のアイドルオーラって隠しきれないんだもん。サングラスと帽子とマスクでなんともならねーよって」
『…確かにチラチラ見られてるよねぇ』
(…なにあの人、肩にぬいぐるみ乗せてるわよ)
(かわいいけど…、…男が…?)
(え、男が肩にぬいぐるみ…?)
(…ぬいぐるみ…)
(怪しい男が肩にぬいぐるみを…)
↑とても悪目立ち。
『神子殿に何買って行こうか?』
「陸が好きなもの…甘いもの……じゃなくて……掃除機とか?」
『…実用的だね……。…でも神子殿はそういう方が喜びそうだよね…』
「だろ…?」
『でも一時間しかないんじゃあ、ゆっくり選べないよね。好き色とかもあるだろうし』
「……陸の好きな色…」
緑、って言ってたのを聞いたことがあるような…ないような…。
……緑か…真宮兄が頭とか緑だよね。
……なんだ、この絶妙な不快感…!
『…そういえば将也、クリスマスもプレゼントあげてないもんね』
「あ、あげたし! ちゃんとパフェ作ったし!」
『パフェなんてあんな具とソースと生クリームを重ねるだけのお菓子で許されるわけないだろー。お前自分が何貰ったか覚えてる? マフラーだよマフラー! しかも手作り!』
「ぐっ…」
『…あ、あの帽子かわいいよ。ほらほら』
「…帽子って…」
と、トリシェが指差した(指とかないからほぼ腕だが)のはウィンドウのマネキンが被ったニット帽。
…可愛い…、陸のあのわさび色の頭に栄えそうな薄いパステルオレンジ。
『…ただ…問題は神子殿がアレに合う服を持っているかどうか…』
「なさそ…あ、空さんがクリスマスに陸にあげてた(正しくは押し付けていた)ワンピースとか、合いそうじゃん?」
『あー……、…そだね………(将也ってやっぱ相当空とフィーリング合うんだな…)』
「なんで残念がってんの…?」
とりあえず値段を見る。
5800円…お手頃…、か?
「…はっ!」
『どうした』
「那音姉の気配…!?」
「あるぇー、将也じゃぁーん! なにしてんの、こんなとこに独りぼっちで」
やっぱり現れたあああぁ!!
俺、今一応変装してんのになんで一発バレ!?
説明しよう!!
那音姉に他の男(主に那音姉の野球部信者)が近付くとガンギレするゆー兄の怒りの矛先が主に弟の俺、将也に向けられ、とばっちりで幾度となく殺されかけた訳だ! いや、マジ冗談じゃなく言葉通りの意味で!
その為、俺はいち早く那音姉の気配を察知し逃走を計る事で命を繋いできたのだ! いや、冗談じゃなくマジで!!
「あ…あれ…ゆー兄、那音姉…デート…?」
「うん、芳那の会社が提携してる楽器店が出店してるから挨拶も兼ねてねー、ねー?」
「ま、敵情視察も兼ねてな」
やっぱりゆー兄も一緒か。
ま、ゆー兄が那音姉を一人でこんなただっ広い店にやる訳がないけど…。
…ちなみに芳那さんとは那音姉のお父さんである。
芳那さんは楽器の掃除をする道具を作っているんだ。
これが需要はあるのに、作ってる会社が少なくて、芳那さんの会社がシェア97%を占めてる。
…がっぽがっぽらしいよ。
「将也はなにしてるのー?」
「次の仕事まで時間があるから、陸になにか買ってこうと思って…」
「へぇー、…OK! おれが選んであげるーぅ!」
「え、あの…」
聞いちゃ…いない…。
さすが那音姉…。
ぴょんぴょんくるくるしながら、俺が見ていたお店に入って…即出てきた。
…そして隣の紳士服ショップに入っていく…。
……那音姉…陸は女の子…なんですが……、…いや…那音姉は、陸が女の子って知らないんだもんね…。
…で、でも…あの……。
「……さっき鳴海ケイトが捕り物やってたらしいな」
「…あ…うん…俺の私物を盗もうとした奴が居てさ…」
「…そんな事あるもんなのか」
「結構あるよ、楽屋荒らしとかさー…。言った事ないけど、ハンカチとかメガネとか化粧品とか俺、結構盗まれてるんだから」
「…まさかトリシェをまた盗まれた…なんて事はねぇだろうな…?」
「も…勿論です…」
『やだなー、盗まれてたら俺ここに居ないよ~』
トリシェのフォローで俺は命拾いしました。
…と言うか、さすがゆー兄ですよね…マジ怖ェェェ!
フォローありがとう、トリシェ!
トリシェがああ言わなかったら…絶対バレてた自信があるよ…!!
「将也ー、お財布!」
「早いな!?」
入って数分でお財布って…!
しかし那音姉のセンスの良さは小さい頃から知ってるので、素直に渡す。
「……」
『そう不安そうな顔すんなよ。那音はセンスいいし、多分…』
「…?」
更に数分後、ホクホク顔の那音姉が袋を三つも持って現れた。
……え…あの………その店……、……平均価格三万円弱のブランド店……。
「買ってきたよー! お財布の中の現金全部使っちゃった!」
「遠慮も容赦ねぇな!!」
「万札14枚も入ってたよー、うふふ!」
「…………………」
「あ、足りなかったからカード使っちゃった」
「……あ…ハハ……や…やっぱり…?」
だよね…お店の平均価格的に…使うよねぇー…。
「…っていうかお前、そんなに持ち歩いてたのかよ」
「…だって買い物するつもりだったから…」
「それにしたって多すぎだろ」
「…それを全部使い切った那音姉はどーなんの!?」
「……なにそんなに買ったんだ…?」
「一式だけど?」
…と、那音姉が紙袋の中身を見せてくれる。
「…スーツ」
「必要になるかなぁと思って」
「…陸との結婚の時に!」
「いや、おれと優弥の結婚式とかおれと優弥の結婚式とかおれと優弥の結婚式とか」
「…………」
「…………」
『…………』
ゆー兄と那音姉、入籍はしたけど式はまだあげてません。
那音姉は露姫さんと梅松さんカップルと一緒に四人でやりたいんだって。
「……ありがとう…。こっちは…?」
「陸くんへのプレゼントでしょ? かわいーシャツとかインナー見付けたがら」
「………ありがとうございます…」
…おかしいな、メインこっちじゃね?
なんで今日、今、ここで俺の分のスーツ買ったの?
…あ、でも本当に紳士服ショップにしては陸にお似合いそうな、落ち着きのある色合いの服がいっぱい…。
「じゃあ最後の、それは?」
「優弥の服」
「なんで俺のお金で買ったの!?」
「なんで将也の金で買った!?」
俺とゆー兄の声がハモりました。
「えー、だって将也にクリスマスプレゼント貰ってないもーん。おれたちは将也にちゃんとクリスマスプレゼントあげたのに」
「俺ケーキとか食ってねーし!」
「そっちじゃないよー。陸くんの作ったマフラー、おれが毛糸を選んでー、優弥が買ってー、陸くんが編んだんだよ! ちなみに編み方を教えたのもおれ! ラッピングしたのもおれ! 陸くんが「将也にクリスマスに何をあげたらいいでしょうか…」という悩みにマフラーを提案したのは優弥!」
「あがっ…!!」
「まさかお別れに使われるとは思わなかったけどねー」
…俺はあの日から毎日そのマフラーを使っています。
現在進行形で…今まさにしてる…!
そんな裏話があったなんて…!
「………」
「だからって、なにも今勝手に…しかもあえて俺の服とか買うことねーだろうが」
「おれは優弥がカッコ良く着飾って写真に撮らせてくれたなら、それだけで万事OK!」
「アホか!!」
「アホじゃない! 優弥馬鹿だ!」
「変な宣言すんじゃねぇ!」
「なんとでも言え!」
「逆ギレすんな!」
なんだこの痴話喧嘩!
『……平和だねぇ』
「……あの…ゆー兄、那音姉…ありがとう」
「え」
「え?」
二人のアホな痴話喧嘩に割ってお礼を言った。
陸にマフラーを編ませてくれたのが二人なら、言っとかなきゃじゃん?
…だってこのマフラー、俺の一番の宝物だもん。
「…いや…多分…陸の勇気になったと思うから、これ」
「…将也…?」
「………、…俺自身、陸に手作りマフラー貰えてめっちゃ嬉しかったってのもあるけどさー…それだけじゃなくて……陸は優しいから…俺を傷付けるって分かりきっている話をするの、相当勇気必要だったと思うんだよね…。…ゆー兄と那音姉にも、もしかしたら罪悪感とか感じてるかもだったろーしさ……、…でも、同じくらい勇気になったんじゃないかなって…そんな気がするよ。…だってこれ貰った俺は絶対ハンパなく喜ぶっていうのも…分かりきってるわけだもん」
「………、…将也…」
「だからありがとう」
まー、他にも…二人には色々してもらってきたし…感謝してもしきれないんだけどさー…。
ゆー兄に至っては俺の育ての親代わりな訳だし。
「…あ、葛西さんからだ」
『自由時間終わりだね』
「ごめん、ゆー兄、那音姉! 俺、この後も仕事だから!」
「あ、うん、頑張ってねぇー」
電話を取って待ち合わせ場所を聞くと、駐車場の車に既に居るらしい。
とりあえず那音姉が買った紙袋は全部那音姉にお任せしました。
俺、この後も仕事だもん。
……しかし……。
「…まさか財布の中身全額使われるなんてなぁ………」
『さすが那音だよね。…予算を言わなかった将也も悪いけど』
ですよね。




