稲田さんは絶滅危惧種な大和撫子です。
片森先輩に紹介する女の子をリストアップしようにも、俺…意外に女友達少ないんだよな…。
芸能人だとあせびさん?
片森先輩と同い年だが…清楚ではない。
そして優しくしてくれるような感じでもない。
稲田さんは沙上さんを好きみたいだから…あー、でも稲田さん以外清楚で優しくしてくれる女の子が思い付かない…!
…とりあえず今度…聞くだけ聞いてみよう…ダメ元で。
「……あ…葛西さんからだ」
「?」
「俺、今から仕事行かなきゃなんですよ。…陸に伝えといてもらえますか?」
「…おー、分かった」
葛西さんから着信。
相変わらず速いな…。
「…ん? …仕事って…お前なにしてんだ?」
「俺、Ri-3の鳴海ケイトですよ」
「………………嘘だろ」
「顔同じじゃないですか」
「………竜哉先輩と同じ…あれ…? でも…髪…」
「ケイトの時はカツラです。俺、髪伸ばしてるんで」
何故なら燈夜兄と間違われて、刑事に追い回される事が多々あるので…!!
「ま、マジでー!? じゃあ岡山リントとも知り合い…!?」
「ま…まぁ…」
素の岡山リントは…ただの柄の悪いガキだがな…!
「…サイン貰ってきて…! 俺、大ファンなんだ…!!」
「……………………………」
…ほ……本当に可哀想な人だ…!
俺、同情の涙で前が見えません…!
って訳じゃないけど…リントこと直にサインを貰い、上品にティーカップで紅茶を飲んでいた稲田さんに…ダメ元でお願いをする事にした。
「…稲田さん」
「…あ…おはようございます、ケイトくん」
「…稲田さんって、大学行くの?」
「はい、北雲大、受かりました」
「…………」
「……ケイトくん…?」
っ、神よ…!!
これほどの癒し系清楚大和撫子がこの時代に存在する奇跡に感謝します……!!!!
年下の俺に対しても敬語!(芸歴は確かに俺の方が先輩ですが!)
『…涼ちゃん、こんなに可愛いのに、なんで沙上は靡かないんだろうね』
「な、なにを言い出すんですか…!」
「(照れた! 可愛い!)…最近、バラエティーとかも呼ばれてるんだって?」
「…は、はい…けど、私目立つお仕事はしたくなくてお断りしてます…。…ライブショーも、まだ恥ずかしくて…」
『えー、可愛いのに勿体ないよー。もっと涼ちゃんの可愛さは全国に知らしめて然るべきだよー』
「わ…私…可愛くなんかないですよ…! トリシェさんの方が可愛いですっ」
……これだよ…。
こんな可愛い大和撫子がこの時代に居るなんて…奇跡じゃん?
普通この位の歳のアイドルって小さい頃からちやほやされてる奴らが多いから、態度もでかいし「私可愛いんだから当たり前」みたいな面ばっかりなんだよね。
「おっはよー! あ、ケイト、アタシにもお茶!」
「おはよう、なこな。お茶ならこっちにあるよ」
「お、紅茶かぁ。涼が入れたやつなら間違いないよね!」
「…………」
この様に!
アイドルの頂点に登りつめた事のあるアイドル娘は、一応事務所の先輩である俺にも横柄です!
「…ケイトくん、時間あるなら…ケイトくんもどう…?」
「じゃあ貰おうかなぁ〜」
稲田さんが入れた紅茶って美味しいんだよね!
ティーパックなのに、パックじゃないみたい。
「稲田さんって、お茶入れるの本当に上手いよね」
「一年生の時は生徒会の書記だったから」
「………そ…そうなんだぁ…」
補足説明します。
この稲田涼さんは天下無敵のお嬢様学校、北雲女学院の生徒会役員。
今は生徒会卒業してらっしゃる。
王苑寺先輩や片森先輩と同じ、今年卒業する三年生である。
…なんつーか…やっぱり書記ってお茶入れるの仕事なのか…。
ティーパックですら最近まともに入れられるようになったと定評がある俺って…。
「…そういえば、沙織ちゃん元気かなぁ…。今はケイトくんのお兄さんとアメリカの学校に通ってるんですよね?」
「まあ…らしいですけど…。連絡とか別に取り合ってないから分かんないッスよ」
「…そう……、…沙織ちゃんにはたくさんお世話になったから…元気だといいな…」
再度補足説明します。
うちの竜哉兄の嫁、旧姓八草沙織先輩は稲田涼さんの同級生で同じ生徒会役員(元生徒会長)である。
きつめの美人で、何故竜兄があんなハイスペックな総理大臣の孫娘と出会い、学生結婚に至ったのかは…ぶっちゃけ謎のまま。
……そして名字で分かる方も多いだろうが…沙織先輩は八草沙幸の実妹だ。
彼女自身は兄を毛虫の様に詰り嫌っている。
だがしかし、つまり…不本意だが…非ッッッ常に不本意だが…!
…俺と八草沙幸は義理の兄弟って事。
沙織先輩は「あんなクソ兄を兄だとは思わなくて良いわよ、微塵も必要ないわ」といつもの無表情で綺麗に言い切ったけどね。
…要するに、沙織先輩は非常に常識人なのだ。
竜兄の話を聞いたゆー兄の話では、俺たち兄弟がクローンである…しかし、普通の人間と何ら変わりない生体組織を持っていると突き止め、それをゆー兄や竜兄に教えてくれたのは沙織先輩なんだって。
……ゆー兄と竜兄がずっと苦悩し続けていた、クローンは短命という問題に決着をつけた人物……それが八草沙織という人だ。
ゆー兄も竜兄も、彼女には大恩を感じている。
経緯は不明だが…その事実はゆー兄と竜兄を十数年の苦しみから、確かに解放したのだから。
取っ付きにくくて笑顔もない、冷淡で毒舌な彼女を竜兄が選んだのだって…多分…沙織先輩が竜兄にとって救いの女神だったから…だと思う。
稲田さんがこんなにも信頼を寄せる人でもあるのだから、俺としては那音姉と同じくらい誇らしい義姉だ。
「…あの…ケイトくんのお兄さん…どういう人なんですか…?」
「ヘタレかな」
『お前が言うな』
「俺よりヘタレかな」
『……。…頭も良くないし柄も悪いしねぇ…。…でも、生まれ付き『魔王の素質』がからっきしだった特別な子でもあった。…天性のザ・普通! …可もなく不可もない…そんな男だよ』
「…なによそれ……涼の友達の旦那、そんなんで大丈夫なの…?」
「…普通な人って、一番なんか安心じゃない…? …えーと…沙織ちゃん、なんでも一人でやれるわよって感じの子だったから…」
「……稲田さんって本当に優しいよね…」
「え!? いきなりどうして!?」
トリシェに憑依され神様レベルのハイスペックだった燈夜兄。
那音姉を守るため、神様と戦えるレベルのハイスペックだったゆー兄。
そして『魔王の素質』でなんでもできちゃう天才肌の俺。
こんな兄弟に囲まれた竜兄は普通にグレた。
しかしゆー兄が恐すぎて家に帰っては来れず、気付けば基本行方不明。
偽の両親が、そんな竜兄と真剣に向き合う事もなく、当時ゆー兄の敵役を装っていたトリシェがそんな竜兄と接触を持てるはずもなく…結局は放置され続けていた。
…そんな竜兄を、そんな沙織先輩が…見つけた。
…考えただけで竜兄にとって沙織先輩がどのくらい奇跡的な存在なのかが分かる。
普通の人からすれば、全然お似合いじゃない二人。
でも二人は普通じゃない家庭環境という共通点があった。
竜兄くらい普通に慣れてない普通の人間じゃなけりゃ、沙織先輩を日本から連れ出すなんて出来なかっただろう。
…だから…。
「いや…うん……稲田さんの言うとおりだと思うからさ」
「…?」
「ケイトくーん! 変更の現場分かりましたよー!」
……はぁ…。
葛西さんようやく来たよ…。
「いってらっしゃい、ケイトくん」
「いってきます」
あ、稲田さんに片森先輩の事言うの忘れた。




