陸が俺に冷たい。
「…小野口将也くん」
「………は…はい…?」
…昨晩、真宮兄と和解をした翌日早朝…で、ある。
朝食(卵かけご飯とお味噌汁と焼きアジ)を食べていた俺に、エプロンを外したマイエンジェルが仁王立ちで見下ろして…フルネームを呼ぶ。
あの…これマジ切れモード時のマイエンジェルな御姿なのですが…俺、なんかしたっけ…?
とりあえず、正座しておこう…。
「…昨日、楽都と二人きりだったらしいけど…俺の友達になにかした?」
「・・・・」
俺は無罪だと叫びたい。
「いや、っていうか無罪でしょ! そもそも二人きりとかじゃないし!? 橘も居たし! 陸以外に俺が欲情する事はまず無いし!」
「一番最後余計だし!」
『……(神子殿「し!」移ってるしー)』
酷い、陸!
俺は真宮兄と二人きりでもないし、浮気とかもしてないのに疑うなんて!
……疑うなんて…?
……あれ…いや、微妙に違う…。
「っていうか俺が真宮兄になんかした前提で疑ったよね、今!? なんで!?」
「…楽都可愛いし」
「陸の方が可愛いから大丈夫だし!」
「なにが大丈夫だ!? 絶対なにかしただろ!? 触ったりしただろ!? 絶対!」
「触っっ………」
触ってない、と言おうとし、別れ際に握手をしたのを思い出した。
…触っ…、…いや、でも陸の言ってるようなもんじゃないし!
「ほら、黙った! やっぱり触ったんだろ!?」
「違うし、触ったっていうか、ただの握手だし!」
「うるさい馬鹿死ね! 俺の友達に触るな変態スケベ! 今後楽都に話しかけたり触ったりしたら有栖川先輩に呪ってもらうからな!」
「陸、その報復なんか洒落にならないんですけどぉぉぉぉ!?」
「食べ終わったらちゃんと流しに持ってっとけよ!」
「はいっ! って待って陸ぅぅぅぅー!?」
…そう吐き捨てて、プリプリ怒った陸は時影さんを引き連れ、神楽殿のお掃除に向かわれました。
3月で学校を辞めてしまう陸はまだ1月なのにもう学校休んでます…。
…俺は今日も学校です…。
「……、…怒ってる陸すげぇ可愛いんだけど…!」
『………そう…良かったね(…もう適応してきたな…このお馬鹿さん…)』
ちょっと聞いた?
食べ終わったら流し場に持ってっとけよ、だって!
なにその捨て台詞…! 可愛い…可愛い…!
「…あーもー、朝からマジ癒されるわー…!」
『…お前、怒られた自覚ないだろ…』
「え? あ、俺怒られたの? なに怒られたんだっけ…?」
『………(末期…)』
なんかトリシェの対応がいつもより冷ややかな様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
幸せな気持ちに浸りつつ、陸の手作りご飯を食べながら先程の陸の可愛い怒り顔を思い出す。
これはもう脳内フィルムに永久保存決定だよね…!
そんな俺の幸せタイムを携帯の着信が阻む。
まさか…! いや、しかしこの着信は…!
「…い…居留守使っちゃ駄目かな…」
『駄目だろ』
仕方なく、通話ボタンを押す。
『ケイトくーん! 決まりましたよ、次のドラマ!! あと沙上さんが、新曲が出来たから事務所に一秒でも速く来いとの事です! なのでついでに新しいショッピングモールの開店イベントでゲスト出演にも行っちゃいましょー! じゃ、迎えに行くのでよろしくお願いします!』
「葛西さんテメェェェ!」
ここぞとばかりに仕事入れまくりやがっただとぉぉ…!?
『ショッピングモールって、東区に新しく出来たやつ? 五百店舗くらい入っててすごい広いんだろ?』
「……ああ…、…俺がCMでやったやつな」
『…いいじゃん、神子殿にプレゼントでも買いに行くつもりで行けば。…将也ももうすぐ誕生日だしオトーサンが欲しいもの買ってあげちゃうよ』
「マジで? 俺、エルメズのストール欲しいな」
「遠慮しろや」
「…って、ワギャアアアアアァ!?」
いきなり障子が開いた!
片森先輩が現れた!
え、嘘、ちょ、なんで!?
「片森先輩!? 今、朝なんだけど!?」
「は?」
「じゃ、ない…! なんでここに…!?」
「勿論、陸に説教しに」
昨日言っていた事を有言実行しにいらっしゃったらしいよ。
「…俺もあいつも基本忙しいから、朝飯の時間帯狙わねーとと思ってな。どこだ? 俺も今日仕事なんだよ」
『あれー、片森洋菓子店の跡取り息子じゃーん! 久しぶりー、随分立派になったねー』
「………ぬいぐるみが喋っ…」
『俺だよ俺。竜哉の兄貴をやってた燈夜の中身!』
「燈夜さんの…中身ィ!?」
『まぁ、俺の事情は長くなるから割愛してー…神子殿なら神楽殿だよ。今日はそこをお掃除するんだって』
「……、…わ、分かった…ありがとよ」
………。
…トリシェって、顔が広いよね…。
「…なぁ…あの人…」
『片森洋菓子の息子だよ。優弥と竜哉の同級生に彼のお姉さんが居てね…………まあ…優弥も竜哉もなんだかんだモテるから…よく家まで来たよね…将也ちっちゃかったから覚えてないかもしれないけど、たくさんお菓子頂いてたじゃないか』
「………」
『でも将也も知り合いだったの? 学校違うのに先輩、だなんてさ』
…よーく記憶を探ってみる…。
俺を弄り倒す露姫さんの脇で、毎日毎日、山のような甘いお菓子をドッサドッサ置き去っていく女の子が……ああ…そういえば居た気がする…。
ただ女の子ってだけで、どういう人だか全然覚えてないけど…。
「うぷ…っ!!」
『え!? い、いきなりどうしたの…!?』
「…わ…わかんない……お…思い出そうとしたら…なんか…すっげー気持ち悪…っぐふぅ…っ!!」
『……だ…大丈夫?』
な…なんだこの凄まじい気持ち悪さ…!?
…ぐ…だ、ダメだ、なんか甘ったるい………陸のお味噌汁で癒されよう…!
「ぷぁっ!」
『…………。…将也…』
「……なに…?」
『…いや……無理して思い出さなくてもいいよ…うん……(…そうか…優弥たちが甘いもの嫌いになったのは…あの甘い物でラブアタックのせいか……将也はとばっちりだがな…!)』
「小野口」
「ギャアアアァッ!?」
気持ち、まだ口の中が甘ったるい気がしてお味噌汁のおかわりを貰おうと立ち上がった時だ。
障子の向こう側から片森先輩が再登場した。
「…なに叫んでんだ? ……お前確か王苑寺と同じ西雲の生徒だったよな? あいつ最近ウチにケーキ買いに来ねーけど、どうかしたのか?」
「…はい?」
「陸が出歩かないのは、まぁ狙われる頻度が上がったかららしいってのは聞いてたんだけどよー…王苑寺は協力とかしてくんねーのか? ほれ、昨日言ってた件」
「…あ…」
「…そういや、よく分からない事言ってたよなー。でも今も学校に住んでるんだろ? あいつが味方してくれりゃー、陸んちのセキュリティーも完璧にしてくれんじゃねー?」
相変わらず抽象的だが、片森先輩の言ってる事はごもっともなんだよね。
俺もそう思って、昨日学校に行った時に王苑寺先輩の家に行ってみた。
だが………。
「それがパスワードが変更されてて王苑寺先輩の領域は入れなくなってたんですよ…。メールも返ってくるし…電話も番号変えちゃったみたいで繋がらなくて…」
「なんだそりゃ…完全に雲隠れじゃねーか。…いくらヤバい研究ばっかしてたからって…。…クラスは?」
「王苑寺先輩は一年の時に卒業試験受かってた人だから、学校そのものは自由登校なんです。…クラスも…今三年生はほとんど来てないから、話しも聞けないし…」
「……、…あいつ陸に割とマジっぽかったしな…。陸に好きな奴が居たから、イイ兄貴分気取ってたけどよ」
「…え…」
…そ、いえば…真宮兄が言ってた……陸は俺を、一年生の最初の頃から好きだった、って…。
…王苑寺先輩……あの人ほんとやることなすこと格好いいなちくしょう…。
「だからって雲隠れするとか…あの気障野郎…」
「…………」
「…あのゲロ甘党の気障野郎め…! 居なくなられたらうちの売上が下がるだろうがっつの…!」
「………………」
『………………』
あれ、なんか別な小言も混ざってない…?




