片森泉先輩は俺の天敵です!
「…………」
まず三者三様な反応だった。
真宮兄の驚愕に染まった表情。
片森先輩の心底怒りに満ちた表情。
カノトさんのドン引きな表情。
…ファクタス氏のにんまりした表情…。
「…っ…陸に何かするつもりか…!?」
「なんでそうなんの!?」
「ストーカーが『死ぬ時は一緒に死ぬ』とか言うって事はつまり――…!?」
「だから俺はストーカーじゃないってば!! いい加減信じて下さい!!」
「…ストーカーじゃないなら将也って神子のなんなの?」
「橘テメェェェ…!! 俺の味方するっつったじゃねぇかぁぁぁっ!」
「いや、割と純粋な疑問。ガチな質問」
「…………」
そう真剣に聞かれ…俺もとりあえずよく考えてみる事にした。
ストーカーではない、断じて。
俺付きまといはしてない。
メールは一日数回…今日何時に帰りますとか、何時の番組にでますとか…明日の朝ご飯は和食がいいとか…かなり日常生活必要最低限な内容。
電話は数日に一回くらい…買い物頼まれたりする時とか。
うん、立派にストーカーではないぞ!
「…えっと…元彼…同級生…生徒会役員同士…。…あと下宿先の大家さんと下宿してる住人…義姉の雇い主…友達……」
「大家と住人が一番しっくりくるな」
「…………」
……ここは橘の奴を殴っておくところかな…?
「なんだ、大家と住人か」
「…………」
…それであっさり解決するのか片森先輩…!?
「…小野口くん…、君は死ねばいいよね」
「…………」
真宮兄の台詞には重みがあり過ぎて直視出来ない…!!
「……ま…まぁ…西雲は多いって言うもんね…」
「…………」
カノトさんに目を逸らされて優しく言われたぁぁぁ!!
「…でも元彼って何?」
「……………」
片森先輩の眼差しが鋭く変わる。
…俺は…今日、生クリームに殺されるかもしれない……!
息を飲み、距離を取るべく後退る。
片森先輩が手の平を上に向けると水が円を描きながら回転し…真っ白な生クリームパイが現れた。
何もない場所から物質を生み出すなんて…王苑寺先輩かっ!?
あ…王苑寺先輩…どこからともなく現れてくれたりとかしないかな…。
「将也、任せろ」
「任せた! 全力で任せます!!」
そうだ、俺には最高の味方…橘が居てくれたんだ!
ブラックホール胃袋を、今日この瞬間までふざけんなと思っていたけど…そうか、お前の胃袋はこの時の為にあったんだな…!
「上等だ、避けきれるもんなら避けきってみろ!」
「ぎゃー!?」
水の玉が片森先輩の周囲に無数に現れる。
それはシュークリーム型の生クリーム!
「イズミ、食べ物を粗末にするのは…!」
「大丈夫! 俺特製、水飴クリームだ!」
「結局食べ物じゃないかっ」
片森先輩特製水飴クリームなる白いクリームはビュンビュン俺たちの方に飛んで来やがる。
俺、こんな恐怖を感じる相手はゆー兄と露姫さんと那音姉以外で初めてかもしれません。
「吸〜…、引! とぉ!」
「橘…!」
K面ライダーかっ!?
飛び上がった橘が黒い靄を纏い…巨大に………きょだ……。
『グォアアアアアアアアアアアア!!』
「わー!?」
「なんだと!?」
公園を埋め尽くすばかりの巨大な獣が現れた!
三本の尾を揺らめかせ、口を開けた獣は飛んで来たクリームを全て食べきった!
……俺、初めて幻獣ケルベロスの原形を見た…。
……戦闘中でもなんでもない…この状況で…か…。
いや、俺にとっては戦闘と遜色ない状況だけど!
「……に…人間じゃなかったのか…こいつ…!」
「………」
…正直、片森先輩も相当人間じゃないレベルですよ。
何もないところからお菓子を出すって…王苑寺先輩よりも難解。
『…甘ーい、おいしーっ』
「その姿ではしゃぐなぁぁぁぁっ」
一瞬大人しくなり、味を噛み締めてから飛び跳ね出す橘。
ふざけんな!
18両編成の電車並の長さ、ビル3階相当の全長でぴょんぴょんとか震度5弱の揺れが起きるっつーの!
やるなとは言わないから、せめて小型(でも狼並)でやりやがれ!
『あ、わり』
「……」
今更小型になっても、揺れで転けた俺の顔面傷だらけは元に戻りません。
「…お前等、一体何者だ…!?」
『…少なくとも、将也は神子の敵じゃねーよ。神子が犠牲にならなくてもいいように…来年も生きられるように戦うって決めてんだ、あんたたちと目的は同じだと思うが?』
「………、…どういう意味だ…?」
「…え…?」
顔を地面から上げると、片森先輩も真宮兄もカノトさんも驚いた顔をしている。
橘は陸が創世女神の器になって居なくなるって事を言ったのだ。
…その事を…聞き返された…?
「……知らないの…?」
「何をだ」
「お…小野口くん…りっくんが犠牲にならなくてもいいようにってなに…? りっくん…やっぱりなにか危ない事に巻き込まれてるの…!?」
………知らないんだ。
道守―――輪廻の神子を守る者が…神子が犠牲にならんとする運命を。
陸は自分を守る道守に、創世の神の器になる事で消えてしまう事実を告げていなかったんだ…!?
…時影さんは、多分知ってる。
空さんは「時影は駄目だった」って言ってた。
片森先輩や、親友の真宮兄にもなにも言ってなかったのか…。
『……』
「……」
橘と横目でアイコンタクトする。
大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。
陸を助ける為に、俺はあらゆる力を利用する…!
「…陸に聞いてないの? 先輩たち…」
「だから、なにをだよ!?」
「…陸、死ぬ気だよ。世界を救う為に」
「……は…?」
カノトさんは立場上微妙な顔をしていたし、ファクタスって奴は始終にやついていて何考えているか分からなかったけど……俺は片森先輩にも真宮兄にも、陸がやろうとしている事を、俺が分かっている限りの事を説明した。
輪廻の神子を守る道守と陸の親友は、当然陸が居なくなる事を…絶対認めようとはしないだろう。
例えそれで世界がどうなろうとも。
……それを期待して話した。
俺は陸を死なせたくはないんだから。
…味方は居てくれた方がいいじゃん?
「………りっくん…」
まぁ…真宮兄は道守って訳じゃなさそうだし……多少喧嘩が強いってだけじゃどーする事もできないんだけどね(体験談)
「…あの馬鹿……相談しろよせめて! …つまり八草先輩はそれで陸を連れ回してたって事で、お前がこないだ八草先輩と戦ったのはそういう事だったわけか!?」
「(片森先輩色々省略する人だな…!)…はい、そうです。俺は陸を利用して…自分の目的の為に「死んでもらう」なんて言う奴には渡したくないですから…!」
「……で、助ける方法とかあるのか?」
『無い』
「ない!?」
『無いよ。…人間に創世神は説得出来ない。俺のにーにーずも、この世界を救う事に意味なんか感じないだろう。将也の保護者の神様は異世界の神だから、逆に喧嘩になる。神子を助けるには、神子の代わりになる程の力を持つ誰かを差し出すか、創世神を殺して世界を滅ぼすか……方法はそれだけ』
「…そんな…!」
「……っ、…お前…どうする気なんだ? 創世神って、この世界を創った神様なんだろ…? 勝つつもりなのか…? それで、世界を……」
「説得する、絶対。…どんな事をしてでも、俺がどんだけ陸を好きで…この先も一緒に生きていくんだって事を…分からせる。…力ずくでもね」
「…………」
『…………』
片森先輩たちも橘も、キョトンとした顔をする。
「…説得出来なくて、陸が取り込まれたら一緒に創世神に殺されてやろうかなって思ったけど…もう、そういう逃げは止める事にした。絶対に二人で生きていく。創世神に俺がどんだけ陸を大好きか思い知らせて諦めて貰うんだ」
「……」
「……小野口くん……」
俺も、陸も、望まれて生まれてきた。
すごく愛して貰ってる。
別に望まれて生まれてきた訳じゃなくて、愛されてない人間が犠牲になればとか…そんな事は思ってないけど…ただ、死んだら酷く哀しまれるのが分かっているなら、死ねないよね。
「……ま、そのくらいの覚悟じゃないと助けるなんて無理かもね。…で、なんて言って説得する気?」
「んー、別に特に考えてねーや。ただ、俺は陸関係理不尽なまでにムチャクチャ言える自信あるし? …陸も呆れて根負けして付き合うのOKしてくれたし!」
「………ま…将也らしいな…」
人型に戻った橘が、少し呆れたように笑う。
片森先輩がコリコリ頬を軽く掻いて…。
「……とりあえず事実確認して陸に説教した後…どーするか決めるか…。…世界を滅ぼさないで、陸も助かる方法か……うーん……あんま納得はいかねーが、それが最善な気もするしなー…」
「………」
「ま、なんかあったら協力する。陸関係ならな!」
「あ、ありがとうございます!」
「…ただし、陸の嫌がる事したら…生クリームバズーカで生クリーム塗れにして生クリームの沼に叩き落としてやる…!!」
「……………」
……か、かかか片森先輩…め、め、眼が…マジだ…!!
な…なま、生クリームバズーカで生クリーム塗れにされて生クリームの…ぬ、沼ぁ!?
「………あ……は…はい……き、肝に…命じます……」
「………(…ケーキ屋に屈する魔王…)」




