うちのトリシェが一番です。
篠崎先輩が作った結界は、空間に被せるだけの簡易な結界。
陸だけが居なくなった居間。
結界内は俺とトリシェと時影さん、そして篠崎先輩と芦屋先輩。
『お前は本当にお馬鹿さんだよ…将也…。一緒に来てどーすんねん……』
「だって…俺だって結界破りは知りたいもん。…陸が結界に閉じ込められてたら颯爽とぶち破って駆けつけたいもん」
「…そうだね…今日教わっておけば近いうち必ず役に立つよ。コツさえ掴めば…魔王の闇魔力で応用利くし」
「そうなんですか…?」
「そうだよ。光と闇は表裏一体…加護の光と、覆う闇…どちらも元々同じ力。反作用的なもの。…結界は基本的に光と闇の魔法術式を組み合わせて編み上げる。そこに自分の得意な属性を追加したりして補強したり、独自性を合わせる事でより複雑で難解な術式にする…それで更に強固にしたりする事も多いけど……ま、基本は必ず光と闇の魔法術式は使うね。使えない奴はそもそも結界を作ったり出来ないもんなんだ」
「へえ…?」
まるで化学的な解説だ。
首を傾げつつ、しかしなんとなく言ってる事は分かり易い?
そんな俺の様子に、篠崎先輩は笑みを作る。
「魔法って…科学の一部なんだよ。科学が進化すると最終的に魔法科学ってもんに行き着く。俺はただ果てしない未来から、魔法という科学を逆輸入して使っているだけ」
「…し…篠崎先輩も未来が見えるの…?」
「どうかな? 俺の場合は二十歳まで生きたことがない…だから統計でモノを言ってる。俺はただの器。当然記憶も勝手に引き継ぐものだから…」
「…?」
『…………』
「…同一だから、分かるだけなのかもしれない。…「ああ、またか」ってね」
「…また??」
「…篠崎殿は…神子様よりも難解な事を申される…」
「知ってる。それはもう言われ慣れた。分かってもらおうなんて思ってないから聞き流せばいい。…俺はただ、狂った存在。世界が変わっても時代が変わっても、その真実だけは変わらない」
………難解だ。
「俺の分かんない話なんかより、早くそこの神様に結界破りを教えてもらえよ。お前たちが殺し合う未来には、必ず必要になる技術なんだからさぁ…?」
「…は…?」
「………」
突然凶悪な笑みに変わり、そんな事を言い出す。
もー、篠崎先輩マジ意味深。
さすが最強の奇人の通り名を持つ男…。
「…トリシェ…とりあえず何からやればいいの?」
『…バイオキメラを出せ、二人とも。芦屋くんは、なにか武器ある? 武器があるなら、それのがやりやすいよ』
「いや…俺はそんな物騒な物は…」
『まぁ、そりゃそっか』
とりあえず俺と時影さんはバイオキメラを発動させる。
…あれ…魔槍状態のままなんですが…?
『…お前の魔王化した血を注いだからだよ。血に含まれた闇魔力の波長の影響がモロに出ているんだ。…黎明はまさにお前の分身だね…、これから先も黎明の様子を見れば、自分がどのくらい魔王化しているか分かるだろう』
「…………」
こ…言葉が出て来ない…。
黎明の姿が…今の俺の状態…?
魔槍解除出来ない…この黎明が…今の俺…。
俺…俺、本当に…魔王に………。
「……い…いやだ……俺、魔王になんか…なりたくない…」
『………なら、もう無茶やらかさない事だね。今回は橘の光魔力のおかげでこの程度に留める事が出来たけど…本来なら、あの日、お前は魔王に覚醒していたんだから…』
「………」
き…肝に銘じよう…。
「…橘の…おかげか……大丈夫だったんだよな、あいつ…?」
「橘の奴なら、隕石事件の後三日間寝込んでたぜ。…今はケロッとしてて、昨日もノンアルコール持ち込みで生徒指導室に叩き込まれたくらい」
「…生徒会役員としていまいち自覚がないんだよな…橘君…」
「…………」
※篠崎先輩と芦屋先輩は橘と同じ南雲生徒会役員です。
「………」
橘の奴は…心配するだけなんかとても無駄だったな。
……、…じゃあ………八草沙幸…は…。
…ダメだ…怖くて、聞けないや…。
…俺は人殺しになってしまったんだろうか?
…あいつを殺す。
そう、決めてはいたけれど……実際殺したんだとしたら……。
…そりゃ沙織先輩は兄貴である八草沙幸をそりゃー「クソ兄クソ兄」と嫌悪しまくっていたが…、沙織先輩と竜哉兄が結婚した事で…物凄く嫌だが…一応戸籍上………親戚関係ではあるのだ。
気にするなってのが無理な話だろ?
…決めていたから…後悔はしないけど……でも……。
「八草沙幸なら生きてるよ」
「!?」
まるで俺の心を読んだがごとく、篠崎先輩が不敵に笑んだまま教えてくれた。
……生きている……その言葉に、俺が感じたのは悔いだ。
「…支配神の他に、あいつはもう一体…神を飼っているから」
「…え…?」
『!? 馬鹿な…シャルトス以外の…神!? そんなの俺知らない…感じなかった…!』
「っ…それは…一体どのような神なのでござろうか」
トリシェも時影さんも知らなかった…八草沙幸が使役している……もう一体の…神…!?
あのノーパン露出狂の変態神以外にも…まだ…!?
……でも…そうか……、そうでなきゃ、俺の大魔槍の一撃を消し切るなんて…。
「矜持神、人間の誇りや尊厳を司る人間から派生した神…」
『あ…あいつ…!?』
「トリシェ、知って……」
…んの? と続ける事の出来ない程の…殺気。
頭の上から、俺の身体が動かなくなるくらい濃い殺意がっ!
このちまいぬいぐるみから、どうやったらこんな殺気が出るんだよ!?
「トリシェ殿!!」
『……そう…、そういえばあいつも那音…女神イブには興味を持ってたもんね。…そろそろ復活してもおかしくはないか…』
「トリシェ?」
時影さんに咎められて殺気は収めてくれたけど、トリシェは不機嫌全開で負のオーラ出しまくり…。
一体『矜持神』って?
人間の誇りと尊厳を司る神って、トリシェと仲良くできそうな理に思えるけど…?
「なんだよ、仲悪いのか?」
『良いわけねーだろ。あいつは生まれたばかりの那音を自分のエゴの為にかっ攫おうとした。…ただそこに居合わせただけの医者の身体を奪い取って…! …なにが人間の誇りと尊厳だ…! 光属性ではない憑依型の神は、憑依した人間の心を、人格を破壊するのを知っていたくせに! 一度壊れてなくなった精神は…いくら俺でも治してやれない…!!』
「………」
トリシェの前で……人を、消したのか…。
人を、人の心を。
「…光属性ではない神なのですか…」
『矜持神は『八霊属性』という、地水火風雷氷光闇の、上位属性まで扱える強力な神だよ。因みに支配神は『四霊属性』…地水火風のみしか使えない神』
「では、以前戦った際に結界を作ったのは…」
『あの時、結界を作ったのは八草沙幸。その後は俺があんにゃろめを結界に隔離した。あいつは結界、作れないからね』
「設定がゲームっぽいね」
『設定とかゲームっぽいとか言うな』
「しかしその八霊属性というのに、光は入っているのですよね? 何故…」
『特化してないからだよ。俺も八霊は全部使えるけど、光属性特化型なの。えーと…分かり易く言うと地水火風雷氷が5、光10、闇1…みたいな?』
「聞くまでもないかもだけど俺は?」
『ホント聞くまでもねーな…。将也は闇属性!』
ですよねー…。
「トリシェが闇も使えたとかちょっと驚き。あんまイメージないやー」
『…初めて俺が光属性って言った時は、全力で否定したくせに……』
「だってそんなイメージなかったしー」
ゆー兄の敵役を演じていた時のトリシェは、全く光属性に見えなかったのです。
例の『敵役スイッチ』が入ってる状態だったんだから。
『…しかし…矜持神が八草に憑いていたなんて…。じゃあ、あれは八草沙幸じゃなかったってこと…? 八草沙幸に憑いた矜持神を、八草沙幸だと思い込んでただけ?』
「さぁ? ただ、あいつに矜持神が憑いてんのは間違いないよ。…ま…支配神もプライドが高い神だ…他の神の下につくタイプじゃない…。俺は、神どもが八草の野望を隠れ蓑にしているだけの気がする」
『確かに…。…チッ…まぁ、どっちにしろ俺の気に食わない神がニ体も八草沙幸に協力しているって事だね!』
「……」
篠崎先輩はあまり興味なさげだ。
…けど、八草に神がニ体憑いていた…。
俺が戦った支配神の他にも…。
……、…那音姉を狙っていた神…トリシェが燈夜兄の身体を使わなければならなくなった、もう一つの理由…。
矜持…人間の誇りと尊厳を司る神…ね。
「その矜持神って、強いの?」
『ムチャクチャね。…神格は俺と同じくらいだから…支配神よりは上位格の神だ。八霊属性は攻撃力も高いし…実力そのものはMAX状態の神楽並だろうね』
「…そ…そんなのに狙われてるの…那音姉…!?」
『そうだよ。…矜持神は優弥がいつか本当に対峙しなければならない神…。…あいつは俺と同じように肉体のない神だ。多分、自分で使う器…肉体を…産ませるつもりなんだよ…至高の女神であるイブに』
「………っ」
…ゆー兄は…那音姉が大好きだった。
だからこそ、ゆー兄が那音姉を選ぶなら…いつか那音姉を狙う神と戦う事になる。
トリシェは…その神との対峙を前提に、ゆー兄から那音姉を離そうとした。
トリシェはゆー兄を死なせたくなかったから。
でもゆー兄は那音姉を選んだ。
那音姉と離れるくらいなら、神を殺してやる…って。
ゆー兄の性格と覚悟を分かっていたから、トリシェはゆー兄の敵役を演じたんだよね…。
「…そっかー…そんな神と戦うつもりなら…ゆー兄、あんだけ強くなっちゃうわけなのかー…」『矜持神は多分、今も那音を狙っている…優弥にもこの話はした方がいいね』
「…八草が陸を狙ってて、矜持神が那音姉を狙ってる……あれ、支配神は何を狙って…」
『俺だよ、あいつの狙いは』
「……そういえばそんな事言ってた…。けどなんで?」
『知りたくもねぇし』
「……………」
トリシェは本当に、支配神と分かり合えないらしい。




