俺はホモではありません。
「で…篠崎先輩たちはなんで陸んちに居たわけ?」
「…篠崎先輩はアルバイト。芦屋先輩は、篠崎先輩が空兄と遭遇しないか心配で来てたんだ」
「なんで風呂入ってたの?」
「…雪掻きしてもらったから、二人とも顔色がヤバい事になってて…」
「………」
もの凄い納得の理由…。
雪掻き、一体どこをやらせたのかはわからないが…この敷地面積を考えるとヤバい事にもなるたろうさ…。
…しかし…理音が言っていた通り、芦屋先輩と篠崎先輩って…やっぱり本物なのかなぁ?
あ、忘れるところだった。
いや、まー、忘れていていいなら…忘れてても良かったのかもしれないけど…。
しかし一応、紹介します! 芦屋凪先輩です。
南雲学園高等部三年で、体力馬鹿学校南雲の生徒とは思えないくらい頭がいい!
それだけではなく、顔を含む容姿もモデルと言っても納得な一級品!
爽やかで優しく紳士的な性格も相俟って、四方高校でその名を知らぬ者なしとまで言われた、完璧超人である!
しかし、篠崎先輩の数少ない友人としても有名で、実は相当ヤバい人なのではないかと俺は思っている。
…案の定…風呂場で男の首筋に噛み付いて血を啜るようなヤバい人だった。
…顔は格好いいし(俺やゆー兄程じゃないけどね! ふんっ!)理音お気に入りのイケメン先輩なのに勿体無いね。
あ、ちなみにクリスマスパーティーに居た瀬能黎先輩と同じ、弓道部なんだって。
…既に二回、日本一になってるらしいよ…。
「でもさぁー、せっかくお風呂に入ったのにまた寒いトコ寮に帰るとか意味なくね?」
「何言ってるんだ、帰らなきゃ駄目だろう」
「いいじゃん。陸、今日泊めて」
「いいですよ」
「峰山君…、あっさり許可出さないでくれ」
ゴロゴロっと、陸の方に転がって、陸のお膝に頭を乗っける篠崎先輩。
な…な…な…っ…!
「ひ、膝枕ズルイ! 俺もしてもらった事ないのにー!!」
「はぁ?」
「陸! 俺にも膝枕して!!」
「やだよ」
「篠崎先輩はいいの!?」
「……。篠崎先輩は…いいかな?」
「差別だ!!!!」
ちょっと真剣に考えてからの「篠崎先輩はいいかな?」って…!?
俺、一応元カレ位置なのに…!
『膝枕ならオトーサンしてあげるよー?』
「黙っててくれませんか」
全長20センチ(触覚部分含)のちまいぬいぐるみマジ黙れ。
「………小野口先生の弟さんって…本物なんですか…?」
『…えぇと…(まさか君にそれ聞かれる日が来るとは思わなかったよ…!)』
「………(お…俺が芦屋先輩に本物扱いされた…!?)」
「………(…芦屋先輩、自分の事は棚上げ…?)」
「………(凪、自分がホモ扱いされてるのマジで知らなかったんだ…)」
風呂場で男の首筋に噛み付いていた人にホモ扱いされるなんて心外だ…!
…でも陸は男って事になってるもんな……そんなら俺、ホモ扱いされても仕方ないのか…そっか…。
…しかし納得いかねー…。
「…芦屋先輩こそ本物だったんじゃ…」
「な、俺は違っ…!」
「そうそう、違うよ。凪は両刀」
「その言い方もやめろ!!」
「俺にも稲田にも欲情したくせに何言ってるんだよ? 本当ムッツリスケベな…」
「違うっっっ」
「い…稲田…? 稲田涼? …芦屋先輩たち、稲田さんの知り合いだったの?」
説明します。
稲田涼さん、とは、うちの事務所の沙上さんのグループ『Prince:Dona』のヴォーカル(沙上さん曰く歌姫)の一人。
北雲女学院高等部三年生で、生徒会役員もしている超清楚系の大和撫子。
今時珍しいくらい控え目で女子女子している可愛らしいお嬢さんである。
同じグループのがさつ女子代表(と俺は言い切る)南野なこなさんの親友で、今年から彼女と共に『Princess:Dona』という新グループで活動する事になっております。
そんな稲田さん、泰久や俺と同じように社長の強制連行→拉致監禁→契約強要の流れで事務所に無理やり入れられた人です。
なのであまり芸能人活動に対してやる気はなく、やるからには頑張る、という泰久タイプの芸能人。
最初は地味で化粧もしてない日陰系だったのだが、俺がゆー兄の同級生の美容師さんを紹介してからはメキメキ素の良さが引き出されている。
…ぶっちゃけ、俺…かなり好みなんだよね…!
稲田さんは沙上さんが好きらしいし、俺は陸が好きだから……好みって程度なんだけど。
「…じ、実は俺の妹の幼なじみで親友なんだ…彼女…」
「凪の初恋の女子なんだよねぇ?」
「やめろ」
「最近じゃ凪の方が釣り合わない感じになってきたよねぇー」
「……元々釣り合わなかったんだよ…俺なんかとは…」
「そうそう、凪みたいなムッツリスケベにあんな地味女釣り合わない釣り合わない」
「………俺の事はどう言ってもいいが、涼さんにそういう事を言うのはやめろ、遥」
「地味女? だってお前の妹と比べたら圧倒的に地味じゃん」
「…そ…それは確かに…優奈は派手な方だけど……」
…稲田さんと芦屋先輩にそんな繋がりがあったなんて…世間って狭いなー。
会った頃の稲田さんなら、確かに芦屋先輩とは全然釣り合わない。
でも、今の稲田さんと芦屋先輩なら、すっげーお似合いだと思う。
…初恋の相手かぁ…なんか甘酸っぱい話聞いちゃったなっ。
「……あ、いや、そうじゃないし! とりあえず篠崎先輩は俺の天使から離れて!」
「うわ、なに…陸、天使とか呼ばれてんの? …引く…」
「別に俺が呼ばせている訳じゃありません」
ようやく陸の膝から起き上がって、長い黒髪をサラッツヤッと見せつける篠崎先輩。
妖艶な笑みといい、白くて細い体といい…空さんが「和風美人!」とモデルにしたがるのも…納得な美人さんだ。
しかし…性格がアレだ…、芦屋先輩ドコが良くて欲情すんのかね。
「将也、体調は…本当に大丈夫なん…だよね?」
「…あ…うん、…体調もう全然平気」
「…そう…じゃ、今夕飯作るね。なに食べたいんだっけ…?」
「……、…うどん!」
「(消化に良いな!)…わかった、待っててね」
元気ないのバレバレな笑顔…。
それでも笑ってくれた事を、素直に喜べばいいのかな?
『オイ』
「いたいいたい!」
『気になるなら夕飯作り手伝うフリしてそれとなく聞いてみろよ。時影は俺がなんとかしてやるから』
「…お…俺に料理…!? 本気かトリシェ…!?」
『神子殿の好感度を!』
「ゲットだぜ!」
「……(テンション同じかよ)」
「……(…魔王…?)」
二人の怪しい先輩コンビと居るくらいなら、トリシェの言うとおり陸の好感度アップの為に…俺は料理に挑む!!
時影さんにトリシェが飛び付いて一言…。
『時影、結界破りの魔術を教えて上げるよ! 篠崎遥もいる事だしね!』
「誠にござるか!?」
「俺を巻き込むのかよ!?」
去年の夏、結界のせいで陸を守れなかった時影さんは、ずっと結界を破れるようになれないかトリシェに相談していた。
けど結界破りは、教える相手の他に、結界を作る相手が必要だった為なかなか上手いことタイミングが合わず、先送りになっていたのだ。
…結界を作れるのは、トリシェと(俺の知る限り)神楽さんと皇。
篠崎先輩、魔法使いで有名人だもんね…間違いないね……。
「篠崎殿…、宜しくお願い致す!」
「ヤだよ。めんどい」
『オネガイ、篠崎クン』
「俺にその手が通じると思ってんのかぬいぐるみ」
「……、…神子様を守るために、某は今よりも強くなりたいのです! お願い致します、篠崎殿!!」
「時影…」
「……………」
顔を歪める篠崎先輩。
…けど…時影さんの言ってる事は…分かる。
俺だって……俺だって…!
「俺にも結界破り教えて! 篠崎先輩!」
『はぁ!?』
「はあ?」
「俺も陸の事守りたいもん! お願いしますっ!」
「お断り。何故なら俺は俺より背の高い年下と、由以外の俺より年食ってる全てが嫌いだから。…陸ー、俺白玉団子食べたい」
「え…白玉粉あったかな…?」
「・・・・・」
ぶ…ブレないよね…篠崎先輩………。
だが、白玉団子をねだって陸に後ろから抱き付く姿は許すわけにはいかぬ!
「篠崎先輩、陸にベタベタしないでよ!?」
「振られた男の嫉妬は醜いねぇ。…ねぇ、陸…構ってやったら? 世界が終わってしまう前に…後悔するよ…? 王苑寺柘榴がこの国を去った…その意味、その末路…知ってるんだろ? もう何回も視たんだろ? 世界はもう止まらない…創生の女神が復活してもしなくても、あいつがこの国から居なくなった事そのものが齎すのは…」
「やめて下さい。……王苑寺先輩は…そんな事しない…。あの人は…ちゃんとわかっている…!」
「………」
篠崎先輩が唇に弧を画く。
突然叫んだ陸から身を離し、俺の方を向くと…その残虐な笑みを更に深くした。
「…気が変わった…いいよ、結界破りの練習…付き合ってやる。凪もついでに教われば? ……どんな事をしても未来は変わらない。運命は変えられないから運命って言うんだから」
「……?」
…残虐で、けど…どこはかとなく…その笑みは儚い。
まるで……全て悟って諦めてしまっているかのような……そんな笑み。




