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毒デレ!  作者: くらげなきり
55/86

完璧超人と奇人。





風呂上がり、俺は改めて頭を下げる。



「西雲二年の小野口将也です」

「あ…芦屋凪だ、南雲の三年…。一応まだ生徒会会計やってる。…よろしく…」

「…いや…あんまりよろしくはしたくないんで…」

「だからさっきのは誤解! 俺はただ…っ」

「俺の首筋に歯を立てて、吸血鬼よろしく血を啜ってたんだよ。こいつ、前世が悪魔だから」

「…って篠崎先輩はなに普通に酒飲んでるんですか!? 駄目ですよ、未成年の飲酒は犯罪です!」


熱燗をチョイッと一口で飲み下す篠崎先輩に、陸がごもっともな事を言う。

しかし相手は篠崎遥…聞きゃしねぇ。


「……前世が悪魔だと、吸血鬼になるのか?」

『…そういう事もないけど…芦屋くんの場合は篠崎くんの高濃度の魔力に、魔に染まった魂が反応してしまっているだけだろう。篠崎くんは血に濃い魔力が宿っているタイプみたいだから』

「………」


もの凄い、濃厚な血の匂い…。

鉄の錆びたような…けど、ひどく甘く感じて…くらくらする。

さっきは浴室だったから気にならなかったのかもしれない。

これが高濃度の魔力の匂い…?

陸からは同じく凄い濃さの花の香りがする。

…百合…みたいな?


「鼻おかしくなったのかな…」

『どうしたの?』

「いやー、なんか陸がすげーいい匂い……襲っていいかな」

『…良くはないよね』

「やっぱり?」

「・・・・」


半分冗談のつもりだっだが、時影さんの動きは早かった。

陸をすぐさま背に庇い、刀を一振り作り出す。

時影さんのバイオキメラ…。


『…やはり魔王化は進んでしまったか…』

「え…」

『耳も、もっと聞こえるようになっているんじゃない? 澄ましてご覧』

「………」


トリシェに言われた通り眼を閉じてみる。

…すると、全員の心音、布ずれの音、外にいる鳥の囀り…雪の降り積もる音まで…!


「………な…なんとー…魔王スキルが大幅アップしてしまったというのかー…」

『そりゃあれだけむちゃくちゃやらかせばな!』

「………」


すみません…。

なんかもう何度謝っても遅いんだけど…。


「って事は俺両眼2.0なのにもっと良くなってるって事?」

『そゆ事ー。…というより、ご覧』


と、トリシェがどこからともなく手鏡を持ってきた。

…眼が…………赤い…。


「い…色が…戻ってないっ!」

『そう。完全に魔王の魔眼に変化が終わってしまっている。もう治んないよ』

「そんなあっさりと!」

『…魔王の魔眼…お前の父、アーサーも持っていた眼だ。…右に魅惑、左に支配の力が宿っている。完全に遺伝だね』

「…………」


魔王の素質は一族柄だが、魔眼の種類は父親に遺伝したらしい。

こ…これ落ち込んでいいのか喜んでいいのか…。

一度その威力を味わった身としては、複雑だよね…。







「は! 魔眼で陸を魅力したりとか!」

『今のところ神子殿の方が力が強いから、無理だよ』

「…チッ…」


思い切り残念でなりません。

陸を俺にメロメロに出来ると思ったのにー。


『それに魔眼って使うのには魔力が要るからね? 魔力不足になったらどうなるか、わかってるよねー?』

「………」


魔力が足りなくなる…それってあの酷い身体のだるさ、だよな…。

しかも今回は一週間寝込んでしまったわけですので……はい、使いすぎ危険…わかっております。


「…魔眼って…彼は一体…」

「小野口将也は魔王の素質があるんだよ。こないだの開発区に落ちたっていう隕石騒ぎ、こいつの仕業でショ?」

「隕石騒ぎ!?」


ニヤリとした篠崎先輩が俺に衝撃的な事を言う。

確かにどでかいクレーターになっていたけど…!


『さすがにあれ、人為的な処理出来なかったんだって』

「だって、夜時間で壊れた公共施設って直るはずじゃ…!?」

『天空の魔法陣ごとぶっ壊されちゃー直るはずのもんも直らねーよ』

「お…俺…魔法陣…壊したの…?」

『うん』

「…………」


…成層圏から落っことしたのが、まずかったのでしょうか……。


『あれ、司藤澪と瀬能の姫と嵐山の狸の三人がかりで造ったんだってよ? それをぶっ壊すとぁ…本当…これぞまさしく魔王大暴れ!』

「人死が出なかったのは奇跡! だっけ?」

『ま、神楽と千歳がこっそり結界張ってくれたおかげだよねぇ』

「神様のくせに爆睡して何の役にも立たなかった英雄神はこの先も…その魔王のお世話を続けんの?」

『そりゃ…まぁ…せめて…将也の魔王化を遅らせる事くらいはするさ。…もうここまで魔王化が進んでしまったからには…一気に覚醒させなければいい…!』

「…っ…」


それって…俺…もう魔王化確定…?

遅らせる事しか出来ないって……。


「ト、トリシェ、俺…?」

『……うん…残念だけど、俺の力ではもう…お前の魔王化は止められないところまで進んでしまった。でも、一気に覚醒しなかったおかげで…世界を滅ぼさなくても魔王化出来そうだよ、将也!』

「え…ええぇー…!?」

「…よ…良かった…ね…」

「!?」



陸に眼を逸らされたまま“良かった探し”されたーーーー!?!?








「はははははァ! ますます賭は俺の方に向いてきたよねぇ、陸ぅ? ほらぁ、凪ぃ…今のうちに俺を殺しておきなよ? 俺はもうすぐ、世界を滅ぼしちゃうよ? 今度こそちゃんと俺を殺して」

「……」

「………。はぁ…意気地のない奴」


全く笑えない事を高笑いしながら言う辺り…さすが篠崎遥だよね…。

一気になんか…萎えた。

殺害を要求された芦屋先輩は押し黙って俯く。

…芦屋先輩の反応…ごく普通の人間の反応。



「…俺が欲しいなら…殺して奪ってしまえばいいのに。お前にはその資格を、与えてやったんだからさぁ…」



…篠崎先輩…完全な奇人だよ………。

笑みを浮かべ、芦屋先輩の首筋に後ろから抱き付いて…黒髪から覗く形のいい耳を食む。

…エ…エロ…!

男同士なのになんだあのエロさ…!?


「ばか、やめろっ」

「…俺を殺して…その魂に刻んでよ…。…俺を少しでも愛しているんなら……その手でお前自身に俺の死を刻みつけろ」

「…遥…」

「……凪…」


チラッと陸を見やる。

どことなくぼんやりした表情だが、楽しそうな顔でもない。

完全に俺たちシャットアウトされているんですが。

俺たちどーしたら…。


「……夕飯なに食べたい?」

「え゛っ」



俺の天使はさすがだった。







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