気が付いたら一週間経ってました。
「……………」
目を覚ましたら見慣れない天井がありました。
起き上がって頭を掻いて、見回すとそこは和室…俺が借りてる陸んちの部屋…。
あー…なんか…落ち着くなぁ……よし、あともうちょっと寝……。
『寝直すんじゃねぇよ!』
「ギャァ」
…………間。
『全く、やっと起きた! お父さん超心配しちゃったよ! この馬鹿!』
「…うるさいなー…なんなんだよ起き抜けにー…」
『なんなんだよ、じゃ、ねーよ!』
なんでかトリシェが超お怒り。
腕を組んで仁王立ちになり、小さな身体で俺を見上げて凄んでいる(多分)
…俺なんかトリシェ怒らすような事したっけかぁ?
…記憶を探ってみる。
………したな………、…開発区一つ…丸ごと消した…。
「す…すみませんでした」
『………』
とりあえずトリシェに謝ってみました。
『俺に謝ってもしょーがないだろーがもー』
「………」
『…幸い橘がまさかの光属性だったから、覚醒には至らなかったけど……あんな無茶して…。本来なら覚醒してたんだからな!』
「は…はい…」
『しかも司藤澪まで敵に回して…! 本当どんだけむちゃくちゃやらかしてんだか…』
「…し…司藤理事長の事は俺だって知らなかったんだよー! なんかそこに居て…」
『ヤバい奴にはヤバい仲間…って事なんだろうけどね。まさかあの司藤澪が八草沙幸と連んでたなんて……』
「…理事長って、そんな…ヤバい人だったの…?」
『そりゃ、夜時間の実力者の一人だもん。俺が現役(燈夜憑依中)の頃だって、夜時間を彷徨いていた雑魚をかっ攫っては色々ヤバい研究の実験に使ってたって、もっぱらの噂! 俺もそれなりにヤバい事はしてたけどさー…あいつ程じゃーないよねー?』
「………」
そ……そんなにヤバい人だったのか…、うちの学校の理事長…。
『あ、ちなみにお前が八草沙幸と戦ってから一週間経ってるから』
「……はい…?」
『当たり前だろ、あんだけ魔力使ったんだから。魔力不足でさっぱり起きられなくなってたんだよ。俺や神子殿じゃ魔力の相性が悪すぎるし、時影じゃそもそも魔力足らないし…空はなんか…なんか…ヤじゃん…?』
「…………うん」
空さんには申し訳ないが…なんかヤだ。
…そう…なんか……ヤなんだ、なんか。
『神楽に頼もうと思ったら、あいつの兄貴に威嚇されてさー…』
「……」
千歳さん…だっけ。
すっごいブラコンって感じだったもんなー。
『仕方ないから将也を放置した!』
「ああそうでしたか」
それで俺一週間も………、って…。
「陸は!? 橘は!? 仕事は!?」
『神子殿なら大丈夫、怪我とかしてないよ。橘も大丈夫、何故なら奴はケルベロスだから。仕事も大丈夫、燈夜に身代わり頼んどいたから』
「と、燈夜兄に!?」
『背格好同じだからこれが意外とバレなくてさー。…沙上とかマネージャーにはさすがにバレたけど』
「………」
…そうか…燈夜兄って手があったのか…。
今まで沙上さんとかクレナに身代わり頼んでたけど…。
「使える…!」
『あの子が可哀想だからこれきりにしてあげて』
「なぁんで!? いいじゃん別に!」
『あの子、本当はもの凄い人見知りでシャイなんだから、お前の仕事するの大変そうなんだもん。見てる分にはみんなコロリと騙されてて楽しいんだけどさー』
「……ちぇー…」
『とにかく、身体が動くならお風呂に入って神子殿に挨拶しといで。すごく心配させたんだから!』
「う…うん…」
ごもっとも…。
一週間も寝てたんじゃそりゃ臭いもんね。
…聞きたい事はまだあるが、言われれば確かに汗臭さが気になった。
俺、超臭い。
「…うーん…」
『なにしてんの』
「トリシェ、俺の頭の上とかよく居られるな? かなり臭くない?」
『え? そんなに臭い? 神子殿、毎日水のいらないシャンプーで洗ってくれてたよ? 身体も、毎日朝と夜あったかタオルで拭いてくれてさー、着替えさせてくれて…本当甲斐甲斐しい介護だったよ?』
「………」
か…介護……。
………、…すげー心配させたんだろうなぁ……。
…し…しかし…、…き…着替えかぁ…陸が…俺を…。
「…ま…待てよ…それって、まさか…?」
『ん?』
「…そ…それってつまり陸に俺のあられもない場所まで…!?」
『着替えは全部時影だよ』
「…………………だよねー…」
起き上がって襖を開け、浴室に向かう途中で陸と時影さんが庭の雪を片付けている姿が目に入る。
うーん…積もってるなー…寒いわけだよね。
「……………」
…陸…見るからに落ち込んでいる。
あ、時影さんが俺に気付いたっぽい。
…しかし眉をしかめてスルー…。
もー…なんだかなー。
………、…まさか着替えの事で心に傷を負わせてしまったんだろうか…。
支配神の野郎のノーパン…凄まじいインパルスだったもんな…………う、思い出したら吐き気が…っ!
『神子殿やっぱり元気ないよねー。なにかあったのか?』
「………多分…王苑寺先輩の事、気にしてるんだと思う…」
『…王苑寺? 王苑寺柘榴?』
「なんか…司藤理事長と戦って…、今までみたいに生活出来ないみたいな話、してたから…」
『あー……そういう…。…神子殿も変なとこ鈍いもんねー…。…王苑寺の気持ち、気付いてなかったんだー?』
「…………し…知ってたのかよ…っ」
さすが空気読みレベル最強の神様だな!
俺もあの瞬間まで気付かなかったよ!
『まぁね。神子殿…お前程のにぶちん馬鹿ではないけど…良い子だからモテるんだよね(時影とか八草とか王苑寺とか真宮の坊やとかブラックリスト村久保とか以下略。…将也が傷付くから言わないけどね)』
「…最近『馬鹿』呼ばわり率すげー高いんだけど…俺…」
『お前の場合そろそろ付けるお薬がないんじゃないかと心配になるレベルだよ』
「ひどい馬鹿じゃん俺!」
さすがトリシェ、俺の傷付く事をさらりと言うよね!
俺もう付けるお薬なくなりそうなの!?
「そりゃ、陸がモテるのは知ってたけど! まさか王苑寺先輩が陸にマジだったなんて…思うわけないじゃん…」
『あいつは神子殿の気持ちに配慮してたみたいだからね…(神子殿が将也しか見てなかったから身を引いて見守ってたのさー…と、そこまでは言ってやらんがな! 将也が自分で気付かなきゃ意味ないから!)』
「……? あれ…でも陸、好きな奴はいたんだよな…? 王苑寺先輩がその相手なら、両想いだったって事? …けど王苑寺先輩が気付かなかったなんて信じられないし…陸が好きだった男……王苑寺先輩じゃないならやっぱり真壁先輩?」
『…………(本当に馬鹿…!!)』
「……なんで黙るんだよ」
なんでか黙ってしまったトリシェにムッとしつつ風呂場に辿り着く。
しかしその扉を開ける前に、玄関が開いた。
「将也…もう大丈夫?」
「陸…!」
箒を抱えたまま、玄関の外から少しだけ顔を出した陸の…その酷く心配そうな表情。
やっぱり…相当不安にさせたんだ…。
「うん、もう全然平気! 完全回復って感じ? あ、けど今汗臭いから近付かない方がいいよ? そんな訳で、先にお風呂借りるね!」
「……、…え…あ…あの、ちょっと待って将也…! 今は…!」
また「将也」って呼んでくれた事が嬉しくて、俺は恥ずかしさを誤魔化す為に急いで脱衣場に逃げ込んだ。
…もう、呼んでもらえないと思ったんだ。
……だって俺は…もしかしたらもう……人を殺しているかもしれないんだから…。
あいつの事を俺は殺すと決めていた。
陸の為じゃなく、俺の為に殺すって。
そんな俺に…陸はきっともう二度と笑ってくれないだろう。
…もう二度と…名前を呼んでもらえないだろう…って、思ってた。
「入ろ…」
とにかくお風呂だ!
脱衣場でしっとりした着流しを脱ぎ捨てる。
下着も籠に放り投げ、頭上のトリシェをそのままに浴室の扉を開く。
…湯気がぶわ、っと俺の方に襲いかかってくる………、で……。
「……………」
「……………」
あれ、デジャヴ。
妖艶に笑む笑むのは篠崎遥。
その身を覆うようにして首筋に顔を埋めていたのは――。
「っ」
勢い良く、扉を閉める。
しの、篠崎遥!? と、誰!? 今の!? 間違いなく、男だったんですけど!?
「な、な、なんか見たか…?」
『なんも見てないよー』
「よし」
「誤解だ!」
「将也、今、篠崎先輩と芦屋先輩が入ってるから待っ………」
「・・・・」
「…わひゃあああああっ!!!?」
「神子様、どうなさいましたか!?」
……俺の天使はどうも男の裸体とタイミングがいいらしい。




