決着。
未来が見えるというのはこういう事かと、ちょっと勘違いする程…俺は支配神をフルボッコにした。
うっかり腰布の下のアレとか見えそうになるが、その前に見えない角度に移動してぶん殴る。
殴って魔槍で突き刺して。
神様相手だから、すぐ治ってしまうんだけど。
だが、段々と支配神の怪我が治りにくくなっている。
魔力の限界か――、いや、ただ俺の魔力…闇の魔力が支配者の神気に干渉して、治癒を阻んでいるんだ。
俺の魔力は闇の属性。
治癒などプラス方面に特化した『光』の裏側。
しかし埒が空かない。
相手は神器を保持したままの最盛期の神。
魔力の回復は全自動だ。
空中に飛び上がって魔槍にありったけの魔力を注ぎ込む。
ほとんど何も考えてない。
ただ、奴らを殺してやる。
それしか考えていなかった。
陸が「負けないで」って言った。
俺は、負けられない。
今までも本当は負ける気なかったし、負けたくなんかなかったけど…今日は……「死なないで」じゃ、なくて「負けないで」なんだ。
『あのー…確かに支配神を先に片付けるとは言ったけどー…流石にこの魔力量はアレな気がするんだけどよ将也ー…』
「陸が「将也、負けないで」って言ったんだぞ。負けないに決まってんだろ」
『……』
「今まで「死なないで」とか「死ななくて良かった」とか色々言われてきたけど、今日は「負けないで」……この違い分かるだろ…? 陸が俺に、あいつに「勝って」って言ったんだ…! 陸が俺にお願いしてくれたんだ…! 俺、陸に…頼られた……初めて…!」
『………(…なんか違う気がするの俺だけ?)』
「お前だって弟を助けたいんだろう!? 協力しろよ!」
『…はぁ……もう…こうなったらとことん付き合ってやるしかないよね、しょうがねぇなあ…もう…』
「……」
『将也、お前の今出せる闇魔力全部吐き出せ!』
「…信じる、橘…!」
『…ああ…俺もお前を、信じてる』
俺の中にある闇魔力…全部出し切る!
身体中が熱くて、浮かれてる、俺。
街の空全体を覆うオーロラの魔法陣を、闇が染め上げていく。
「おいおいおいおい…マジかあいつ…!」
「王苑寺先輩…!」
「峰山…お前、あの単細胞馬鹿に給油すんなら程度考えろ…! 完全に大はしゃぎじゃねぇか…!!」
「……(王苑寺先輩の中の将也が頭のいい馬鹿から単細胞馬鹿に降格してる…!)」
放出した闇魔力は魔石状に硬化する。
気付いた時には数十キロクラスの巨大隕石のような、ゴツゴツと熱された赤黒い輝きを放つ魔石に仕上がっていた。
転移魔法で、成層圏の、その魔石の真上に立つ。
地球は―――青かった!
魔石を思い切り、主に橘の本来の体重を使って踏み潰して落下させる。
槍の柄先のようなその場所と、槍の先端のような場所に、俺とアイツはそれぞれ居た。
月科先輩の加護の力でも、これだけの闇魔力消しきれないはずだ。
しかし、拮抗している。
魔石は思った以上に、巨大な力に阻まれ進まない。
先端が消えていく感覚。
俺が地上に戻るだけ、奴が俺の魔力を消していく。
耐え切れれば奴らの勝ち。
潰せば、俺らの勝ち。
過熱していく――、最後はただ―――果てしない光の衝撃。
「―――本当に、馬鹿が…」
…うっすら、俺の眼は開いていた。
というよりは霧散してしまっていた俺の魔力が開眼してしまった魔眼を通して見せた映像。
神楽さんに抱えられた俺と橘。
巨大な機械兵士に守られた陸と玖流先輩とK。
機械兵士は、王苑寺先輩の『最新作』
…すげーなあの人…本当にGUダムみたいなの作っちゃったのか…。
片森さんも、埃まみれだが無事だ。
俺を華麗に馬鹿扱いした、王苑寺先輩の肩に乗った木吏さんは笑っている。
「………将也……」
「気を失っているだけだ。…橘が『光属性』だったおかげで魔王化もしていない。大丈夫だ、神子」
「……良かった……」
…どうやら俺は魔王に覚醒してないらしい…確かに、良かった。
…まさか橘も『光属性』だったとは…こんなぐーたら野郎からは想像もつきませんでした。
安堵した陸、抱き締めたいくらい可愛いのに…俺、指一本、目蓋一つ動かせません…チクショウ…。
「…世界を滅ぼす魔王か…、…お前の言った事とはいえ正直信じてなかったが…」
「…っていうかさっきの直撃してたら確実に滅んでただろ…! 陸、お前なんでコイツ(王苑寺)といいコイツ(将也)といいアイツ(八草)といい、ヤバい男にばっかり狙われんの!? お前の周りの男ヤバいのしかいないじゃん!? もっといい奴いるから! なんなら紹介するし、俺立候補もするから止めて本当! 守る俺の立場にもなって!」
「どさくさに紛れてなに言ってんだてめぇ!」
「い…泉先輩…、王苑寺先輩…喧嘩しないで下さい…」
二人の喧嘩を宥めて、陸が俺たちを抱えた神楽さんに近付いてくる。
そうして、俺の頬に陸の手が触れた。
…冷たい…寒いもんね……冬だし、雪降ってるし…。
「……」
小脇に抱えられている俺は当然ダラーとなっている。
そんな俺の頬に触れたまま、陸は辛そうな顔で黙っていた。
…俺は陸に…笑って欲しいのに……。
確かにむちゃくちゃやらかしたから、心配はさせたかもしれないけど…。
それとも…八草、死んだ?
俺、人殺しに…なったのかな……。
「…陸…」
片森さんが陸の肩に手を置く。
…そういえばこの人は一体何者……?
陸の知り合いっていうのは、知ってたけど……。
「宣言通りにされちゃいましたね」
「…生きていたか、さすがだな」
なにやらしんみりな空気の中に、のんびりした声。
王苑寺先輩がすぐさま、その声の方へ銃を向ける。
その時、初めて俺は自分の為した残滓を見た。
…建物はない。
というか…クレーターのように…研究所区そのものがほとんど消え失せていた。
わ………わぁー…。
そして、そこの空中には司藤澪…。
この人、そういえば“あの”篠崎遥のお父さんか…!
…そりゃ、浮くか…。
「…王苑寺くん…困った人だ、本当に…。君は君が僕に牙剥く意味を理解していたはずですが…」
「なんだ、再確認に来たのか? そりゃ無駄足ご苦労なこった」
「…君ほどの奇才は滅多に生まれてこない…出来る事なら、手元に居て欲しい」
「諄い」
「……僕の下を去るならば、君は世界と戦う事になる。それでもいいと?」
―――え…?
…なん…ど、どういう事……。
「…王苑寺先輩…?」
「…王苑寺…、…どういう事だ…!?」
「………」
「…しょーがないよーぉ、ザクロは普通の人間より頭が良いし、兵器作る超天才だもん。平和なこの国に居る為にはー、後ろ盾っていうのがなくちゃだったんだよーぅ」
「…!!」
「まさか…!?」
「そ。そのまさかー」
押し黙った王苑寺先輩の代わりに、木吏さんが楽しげに答える。
この国は戦争を戒めた国…武器を所持するだけで罪になる国。
そんな国で兵器開発者が存在していられるのは…おかしな事だ…。
いくらこの街が異質な街だからって、王苑寺先輩は破格の奇才。
「…僕は君に資金も隠れ家も提供してきました。沙幸くんは君という存在に居場所を作り与えた恩人でしょう…?」
「はっ! 俺が恩着せがましい下衆どもに感謝するとでも思ってんのか? 十分すぎる技術提供はしてやっただろうが!」
「…そんな小娘一人の為に、全て投げ捨てるつもり…」
「諄いと言っている!」
「………困った人だ、本当に……。…自分の価値を、分かっていない訳でもないだろうに……。…君の叡智、存在はもはやこの国にとってそこの神子、そして…Kと同じように政治的な意味も持っているんですよ? そんな君が…僕から離れてこの先、表を歩ける訳がないでしょう?」
「………」
…一発の銃声。
司藤澪のこめかみを、銃弾は撃ち抜いていた。
しかし司藤澪は倒れない。
ため息を吐き、蜃気楼のように消えていく。
「…王苑寺先輩…!」
「………」
ポンと、駆け寄った陸の頭に手を置いて、王苑寺先輩は陸に続きの言葉を言わせなかった。
冬の風が雪と一緒に通り過ぎていく。
泣きそうな陸と、全くの無表情な王苑寺先輩。
「…小野口は…まあ、頭はいいが何分馬鹿だ、ド級のな。…けど、ま…浮気の心配はしなくていいだろ…馬鹿なだけに」
「…っ…」
「…世界を滅ぼす魔王なだけあって、力の使い方さえ間違えなければ…必ずお前を守り抜く。…信じてやれ…、陸」
陸から手を退けて、立ち去っていく王苑寺先輩。
最後の最後に「陸」と下の名前で呼んで微笑んだ。
…俺……多分、陸も……気付いていなかった…。
王苑寺先輩…陸に、本気…だったんだ……。
…王苑寺…先輩…………。




