赤い瞳の実験体と、二人の天才科学者。
「K、K…、起きろ…! しっかりしろ…!」
「…けほ…っ…げほっ…」
水分を吐き出したトリシェそっくりさん。
開いた瞳は…トリシェと同じ真紅。
「……ま…さむ…ね…なぜ…」
「………、…情報屋に…お前がここにいると聞いて…」
「……愚かな……俺に関わるのは…止めておけと…」
「…っ」
決定的なのは儚い感じ、な事くらい。
なにせ声まで同じだ。
こいつ…一体何者…っ!?
「う!?」
突入部屋が真っ昼間みたいな光に照らされる。
眩しっ!?
「困りますねぇ、王苑寺くん…ソレを捕縛するのに一体幾らかかったと思っているんですか…」
「…………」
やれやれ、と仕方なさそうな声で現れたのは…司藤澪…!
篠崎遥と司藤由先輩の父親!
なんでこんな場所に…っ!?
「…あ…」
「よう、魔王…やっぱり来たか。運命的な父親との出逢いを果たした気分はどうだ?」
八草沙幸がその背後から現れた。
まさかのグル…!?
「…陸!」
「将也…っ」
八草の更に後ろには探し人!
私服可愛い! 分かってます、そんな場合でない事くらい!
でも、可愛い!
「…父親って…どういう事だ…!?」
「…沙幸君、妙な演出の為にKを使わないで下さい。アレ、貴重なんですよ」
「貴重ともなんとも思ってないくせに…形だけでクレームをつけないでもらいたい」
「やだなー、本当に貴重ですよー。人類が永遠に生き続ける為のヒントなのですよ? ねぇ?」
…確かにこの人、トリシェにすごく似てる。
けどトリシェはもうこの世界にも、どの世界にも居ないのだ。
肉体は滅び、現世とのリンクが切れたトリシェは神として今の神格にまで達した。
ましてトリシェは異世界の神様…当時の器が、この世界にあるはずがない…!
「ハァ! くっだらねぇ! 神様を模し作った個体が新人類のヒントとぁ、なぁ!」
「!?」
手摺りの上に突然現れたのは子供…。
高校一年生くらい?
乱雑な白い髪と白い肌、赤い眼。
なんだこいつ…あんまり色々、初登場とか再登場とか伏線回収とか一気にやんないで欲しい!
恋する人間の処理能力って意外に低いんだから!
俺、頭はいいけど今、頭の中は陸でいっぱいなの!
「…おや…幻獣ケルベロスが二体も…。しかも一体は上級上位兄のお兄さんですね…」
「!」
「…鑑識スキル…。…仙格持ちの人間か」
にっこり笑んだ司藤澪さんが木吏さんと橘の事を言い当てた。
橘が俺より後ろに下がって腰を落とす。
さっきまでのおちゃらけた感じのなくなった木吏さんの、小さな身体が宙に浮き上がる。
「ちょうど君たちの霊剣が欲しいな~と、思っていたんですよね。頂けます?」
「ボク、もう貸し出し中なんだよねぇ…ザクロに」
と、浮いた身体で王苑寺先輩に抱き付く。
なんだ…このなんか放送しちゃいけないような光景…!
ジャンルの違う……
「犯罪者みたいだ王苑寺先ぱっっっ」
「………」
勢い良い蹴りを頂きました。
…声に出ていたようです…、失態…!
あ…橘の眼が冷たいっ!
「…それは残念。では口封じ及び邪魔者排除のついでに引きずり出してひっぺがしましょう」
「はっ! そんな事したらどうなるか、矢橋の元上司である貴様が知らねー訳ねぇよなぁ…!?」
「そうですね、存じてますが…どうせ滅びる世界なら…君が滅ぼしてしまえばいいんですよ」
「……」
…なにやら因縁ありげな王苑寺先輩と司藤澪さん。
俺は、とりあえず空気がアレなので黎明を槍型で取り出して装備しました。
「…先輩、司藤理事長と知り合いだったんですね」
「同じ科学者として相容れねぇ。…俺と仲良くできる科学者は、そりゃ探しているもんでもねぇけどな……けど俺もあのクソ野郎ほど気が狂ってた訳じゃなくて安心したもんだぜ」
あ…これは本気で嫌いっぽい。
トリシェとは…、最初こそ仲悪かった王苑寺先輩だが…あの救いの神と、科学研究の話題で和気藹々している程度には、この人は良識人なのだ。
ただしさっきの廊下の件はつっこんではいけませんよ…。
そんな王苑寺先輩の否定する科学者…司藤澪さん。
この人一体なにを研究している人なんだ…?
「酷いなぁ…僕はただ、人間の最果てが神ならば、人類全部神にすればいいと思ってるだけじゃないですかー」
「………っっ」
笑顔で、まるで夕飯の相談でもするかのように。
こ、この人は何を言って……。
「それが腐ってるっつってんだよ…!! 最果てだと? 馬鹿馬鹿しい…! 全部が全部完璧になるなんざつまんねぇだろうが!」
「それで人類は争いという概念から解放されるのに?」
「兵器開発者である俺への戯言だっつってるよなぁ…!? 人が人を殺す、その罪も業も感触も感情も…人間自らが人類という種としの倫理を生み出し、積み上げたあらゆる努力を…よくもそこまで馬鹿に出来るな…! 全く恐れ入るぜ、この気狂い野郎!」
「争いを無くせば、人類は幸せになれるのに」
「争いだけが人類を不幸にしている訳じゃねぇ!」
「…君とはやっぱり会話になりませんね」
「…だろうな」
…王苑寺先輩……王苑寺、柘榴先輩…。
この人が兵器開発者を、この戦争を禁じた国で続けていたのは―――、…この国の人に、いや…あるいは人類に…倫理を問い掛けていたから…。
人を殺す事は悪い事…命がどれほど尊いのかを…より、多くの人に自ら考えて…理解して欲しかったんだ…。
――でかい…スケールが、器が…でかい…!
ゆー兄みたいにずっと好きだった人の為に神と戦い、憎悪と向き合い、それすら越えてしまうのも凄いと思ったけど…。
この人は、兵器を悪としながらも、悪と共に歩み、進化し、周囲と人類という種にその正しいあり方までもを託している。
いつか魔王になる…世界を滅ぼしてしまう…そんなのは嫌だと『魔王』という存在を否定していた俺には……真似出来そうにもない生き方…。
「…分からんな」
カツン…と鳴るブーツの音。
一歩、八草が前に出た。
…分からない…?
王苑寺先輩の考え方が、分からないって事か?
「お前もそれなりに人間という愚かな生物と、自分自身の恵まれすぎた才能の対価を支払ってきたはずだ。結果、行き着いた先が何故劣る者への慈悲なのか…」
「神まで殺すに至った結論が、まさかそこの気狂いと同じって事はねぇよなぁ…? 八草」
「どうだろうな…別に全人類が神化すればいいとは思ってないが……それでも俺は…人類がこのままでいいとも思ってないからな。…王苑寺柘榴…貴様は人類が今のまま愚かで矮小な存在でいいと思っているのか」
「愚問だな。その他大勢の事なんか、この俺が知るか!」
「ここで丸投げかよ!?」
………王苑寺先輩…さすがだ…。
「…八草先輩、あんた一体なにする気なんだ!? 陸をなにかに利用するつもりだっつーんなら、俺が今この場であんたを倒す!」
「…輪廻の神子の道守か…まさかお前みたいな一般生徒が選ばれるとは思わなかったよ…片森泉」
開いた奴の手の平に、純白の長刀が握られる。
…今更だが、このパティシエさん…片森泉さんっていうのか…。
「…だがいかに神子の道守の一人であろうとも…神の力の前には無力…! …来い…、あらゆる者を支配し、正しき秩序へ導く神…シャルトス!」
室内なのに冷風が圧しかかってくる。
空気が変わる。
この感覚は、トリシェが生前の姿を模す時に似ていた。
八草の影から光り輝く男型の神が現れる。
…あれが…力を失っていない…全盛の神…?
「…なんだ…魔王の雛、英雄神は連れておらんのか…。つまらぬ……今宵こそ彼の輝きを我が支配下に治めてやろうと思っていたというのに…」
…じょ…上半身…ほぼ裸…!
露出度高…! オールバックに何鳥の羽根かは分からないけど首の回り派手に飾ってる…!
長袖長ズボンニーハイブーツのロン毛なトリシェとは、司る理由は元よりファッションセンス的にも分かり合えない神様だな!
「た…確かにトリシェより神様っぽいオーラ出まくりだけど見た目ただの露出狂で変態だよね…!」
「神様見た感想が形からっていうのが将也らしいよね…」
軽く絶望感を滲ませた橘。
無表情のくせに、全く上手い事感情を表現しやがる。
「…木吏兄、どーすんの…。神様召喚しちゃったよ、あの神殺し…。…木吏兄、今黒炎能力使えないんでしょ…?」
「うん」
「…力強く頷かれちゃったよ」
あの橘が手で顔を覆って天を仰いじゃったよ…!
木吏兄さんすっげーな…!
「…神…様…? あれ、神様なのか…?」
「神様…らしいな…。…俺も生まれて初めて見た」
「そりゃ良かったな、拝んどけばなんか御利益あるんじゃねーか?」
王苑寺先輩はバイオキメラの蛇達をライフルやショットガンなどの武器型に変形させて、対抗する気満々だ。
…俺も神様と戦うのは…生まれて初めてだが…。
「……」
ああ、やっぱりだ…。
つらそうな陸の顔…ここからでもはっきり見える…。
陸は、俺と…八草に戦って欲しくないんだ。
俺が死ぬかもしれないから……。
俺が魔王になってしまうかも、しれないから…。
…優しい陸……輪廻の神子だなんて、そんな役割を好きで背負った訳じゃないよね…。
もし陸がなにも知らないただの女の子なら…俺はそんなにつらそうな顔をさせずに済んだのかな。
ただ君に、前のように笑って欲しいだけなのに……俺って…ほんと…残念だなぁ。
「………」
「将也…!?」
大丈夫、俺は魔王になったりなんかしない。
君との約束は必ず守る。
橘の事を堕淵させたりもしない。
トリシェの想いも無駄にさせない…!
「魔槍化…黎明!」
「…ほう…? 闇魔力を武器に込め強化したか…」
「………(あのガキ…以前はただ放出するばかりだったくせに…)」
「陸は返してもらう、八草!」
引き抜かれた白刃。
多分、王苑寺先輩と木吏さんコンビVS司藤理事長と…。
「んじゃ…俺はKの回収でも……アン?」
「玖流、下がってろ」
「片森…」
片森さんVSよくわからん不健康系少年より………きつそうだけどね…俺!




